第21話「半島を出よ」
その命令は突然下された。
「異能少女部隊、全員に告ぐ。『半島を出よ』」
『異能少女部隊』。
ミサキたち第2世代を除く、いわゆる拉致世代は、全員がすでに還暦を迎えていた。
だが――外見は誰一人として老いていない。
トウカを筆頭に、皆が30代前半にしか見えない。
異能による代償。
あるいは、この国に『消費され続けた時間』の結果だった。
異能研究所のホールに、15人全員が集められていた。
そこに立つのは、李ミリ。
国家科学院名誉顧問。
党でも軍でもなく、しかし両方に命令を通せる、異様な立場の女性。
彼女は一切の感情を排し、淡々と言った。
「もう、あなた達はこの国に必要ありません」
その言葉に、誰もざわつかなかった。
怒りも、悲鳴もない。それが『答え』だった。
「核が、ミサイルが、諸外国からこの国を守ってくれます。『異能』は……役目を終えました」
事実の確認をするような口調だった。
「そこで、『異能少女部隊』に最後の出撃命令を下します」
ミリは資料を開く。
「目標は、日本。某県、日本海に浮かぶ島――
『相島』」
空気がわずかに揺れた。
「ここを『半島革命軍』を名乗って占拠してください」
一瞬の沈黙。
「つまり、あなた達は『反乱軍』です」
ミリは、あくまで理路整然と続ける。
「国家の正規軍ではありません。
よって、国際法上『侵攻』には当たりません」
言い換えれば――
国家は、彼女たちを切り離す。
だが、殺さない。消さない。
「占拠後、武力行使は最小限に。
民間人への被害は『ゼロ』を想定します」
ここで、トウカが口を開いた。
「……その後は?」
ミリは一瞬だけ視線を上げる。
「その後は、あなた達の自由です」
自由。
それは、この部隊にとって最も縁遠い言葉だった。
「日本政府は混乱するでしょう。警察、海保、自衛隊――しかし『侵略』ではない。
反乱軍ですから」
ミリは、わずかに口角を上げた。
「そして日本は、『話し合い』を選びます。
……あなた達を、殺さない」
わずか30分。
15名の『異能少女』達は飛び立った。
♦︎♦︎♦︎
「いいの?一緒に行かなくて?」
ミリが言った。
「ミリ同志。いや、ミリ。あなたはあの時の約束を守った。その結果、世界中から孤立した。わたしぐらい一緒にいてあげる」
ミサキはそう言って笑う。
その顔に一筋、涙が流れる。
母親のトウカが見えなくなる。
「ごめんね。『10年、20年かかっても』なんて言ったけど、23年かかっちゃった」
「年が明けたから、24年だよ。正確には」
「細かいな……」
ミサキの顔にもう涙はなかった。




