第20話「ボタン(後編)」
1週間後、隣の大国。首都、京北特別市。
「李ミリ同志!初めまして、周コンペイです」
イメージよりも大柄な中年男性と握手する。
マスコミを廃した秘密協議。
ただの接待だと言い張るためか会場はホテルにあるレストランの個室であった。
「こちらこそ、父の代からお世話になっております。周先生」
「ミリ同志のような才媛に『先生』と呼ばれるとこそばゆいですなぁ!」
半島北側の国にとって隣の大国は『生命維持装置』に近い。逆にいえば隣の大国にとって半島北側の国は『出来の悪い地方』という扱いだった。
それをお首にも出さず対応する周コンペイは流石というべきか、北の大国にも調査員を派遣して、李ミリの素性をできるだけ『予習』していた。
(周さん、北の大国まで行ってミリの調査してる)
傍らのミサキが『半島語』で小さく言う。
相手は何を言っているか理解できない。
なぜなら、ミリが『大陸語』を理解できる事を調査済みで、この会合自体を『なかった事』にできるよう、通訳さえ排していたからだった。
席につくなりミリが言う。
「本日はこのような場を用意していただき、誠にありがとうございます。なんでも『北の大国』までわたくしの調査をさせたとか……?」
周主席の顔色こそ変わらない。
「わたくしの国にも諜報機関はありますので……」
嘘だった。いや、諜報機関は存在するがそれはあくまで『西側』に対してである。
この『ジャブ』が綺麗に決まった事で交渉はミリ有利に進んでいく。
♦︎♦︎♦︎
「貴国で開発、配備するとなると莫大なコストがかかる。現実的に見て、『こちらの傘』に入るという選択肢も可能だが?」
話題は核ミサイル開発に入る。周コンペイにカードを選ぶ余裕はない。
「『発射ボタン』が平城市内にあるならそれで構いません。しかし、平城が占拠・陥落した後『ボタンが押された』のでは遅すぎます」
ミリは一歩も引かない。
「わたくしの国だって『持ちたい』のではありません。しかし、国際情勢ぐらい勉強します。イラクが、シリアが『どうなったか』など周先生に言うまでもなく理解されてるでしょう?『結果』どうなるか?」
それは最悪の場合、国境線に面して『世界の警察』の軍事基地がおかれる可能性がある。
「わかった。黙認しよう。あくまで『黙認』だ。『半島北側の国』が暴走して、核・ミサイル開発を行った。我が国は関与していない。
それが許容できるギリギリのラインだ」
その譲歩に、ミリは必要なピースが揃ったのを感じた。
「ありがとうございます。それで構いません。わたくしの国が起こした事態を他国を悪者にしたのでは立つ瀬がありません」
完璧に準備を行なって、この結果を招いた周主席は敗北を悟りつつ言う。
「国際的制裁があると思うが?」
ミリはニッコリと笑って答える。
「このコート、素敵でしょう?貴国では2週間後に発売だとか。日本と北米で先行販売ですって」
(制裁をすり抜ける術も全て構築済み)
そんな副音声さえ聞こえる気がした。
苦い結果を噛み締め、周主席はミリをエスコートしてホテルを出る。
そこに日本のエージェントがいたのは偶然だった。
♦︎♦︎♦︎
1週間後、山口県山口市。ネクストリテイリング本社。
「高確率で『ウチの商品』だな」
そう結論づけるしかない。
そして、柳川カズヤは『即決』する。
「よし、そのまま報告しろ。販売時期も経緯も全て。さ。流通経路は向こうでやってもらって、問題があれば修正する」
部下は納得して報告のために部屋からいなくなる。
(世間を騒がせても、当社にはいい広告になるさ)
柳川カズヤはそんな事を考えた。




