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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
外伝「望郷のトウカ」

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第17話「バタフライ・エフェクト」

隣の大国・山頭省、連大市。


煌びやかな酒席の喧噪の中、李ナムジョンは杯を掲げていた。


豪華な料理。強すぎる酒。横には有力者の娘らしい笑顔の美女たち。

場の空気は、若い『準・後継者』を持ち上げようとする期待でむせ返っていた。


「ナムジョン同志、将来は委員長ですからなあ!どうかこの国とも、改革の方面で――」


男たちの言葉に、ナムジョンは笑った。

本心ではない。だが、外交の場では軽いリップサービスくらい、誰でもする。


「はは……改革? まあ……乾杯くらいはしましょうか。『改革解放路線』に――乾杯!」


杯が触れ合う。ただの社交辞令。

ただの酔った軽口。


そのはずだった。


♦︎♦︎♦︎


翌朝。

半島北側の国・平城、半島労動党本部。


党本部の一室で、崔グミンは“その言葉”を報告書で読んでいた。


「…………」


読み終えた瞬間、静かな部屋に、時計の音だけが刺さる。ページの端は震えていた。握る指に力が入りすぎている。


(――これは、駄目だ)


そう思ったのは、ナムジョンへの嫌悪ではない。崔グミンは温厚な男で、怒りより先に事情を理解しようとするタイプだ。


だが――この内容だけは違う。


彼は55歳。ロマンスグレーの髪に、深いシワ。外見は物腰柔らかな学者にも見えたが、

党内で五本の指に入る実力者でもある。


外交・人事・情報。

最重要ラインを押さえる男が、今、静かに震えていた。


(隣の大国の『改革解放路線』を褒める?よりにもよって、後継者予定者が?……命取りになりかねんぞ、これは)


崔はため息をつく。

声は出さない。出せば怒りになるからだ。


彼は怒りを恐れた。怒りは判断を狂わせる。

この国でそれを失えば、生き残れない。


書類を閉じる。重い。紙の重さではない。


(……確認する必要がある)


♦︎♦︎♦︎


軍総司令部。

朴ソンミン少将の執務室。


崔が入室すると、朴は珍しく顔色を変えた。

この男が驚く時は、本当に『何かが起きている時』だ。


本来、この二人に深い利害関係はない。

派閥の長と、無派閥で少将にまで上り詰めた稀有な存在。

だからこそ崔は、こういう時、朴を最も『信じられる相手』だと感じていた


「崔副部長……。党にも、届きましたか?」

「やはり軍にも入っているか」


崔の声は静かなままだ。

だが部屋の温度が一度下がったような沈黙が落ちた。


朴は報告書を机に差し出す。党のものと同じ文章。同じ構成。同じ『異常なほど整った情報』。


(……加工の痕跡がない)


崔は眉間を押さえる。


情報は必ず『歪み』が生まれる。

情報源 → 情報士官 → 分析官 → 決裁ライン

どこかで語彙が変わり、行間が削れ、別の表現が足される。


だがこの報告書にはそれがない。


誰も手を加えていないのに、

『きれいすぎる形で』軍と党に同時に入ってきた。


まるで――


(まるで……魔法だ)


それを口にすれば笑われるだろう。

だが崔は本能的に理解していた。


この国には魔法が存在し、その魔法を使う少女たちがいる。


「……朴少将。この情報の源流を辿りましたか?」

「はい。しかし……」


朴は険しい顔で言う。


「源流まですべて“同じ文章”でした。表現も、語順も、評価も。上流に加工を加えた者がいないのです」

「そんなはずがない。ここまで整った報告は、通常では生まれない」

「ええ。だからこそ……『真実』と判断するしかありません」


崔は机の縁に手をつく。

呼吸が浅くなる。


(この精度……誰が?軍情報局でも、党情報部でも、この芸当は不可能だ)


つまり――

『この国のどの派閥にも属していない誰か』が情報を作った。


そして軍と党のラインに同時投入した。

まるで、


『後継者レースをひっくり返すために』


(誰だ?誰が、ここまで見事に……?)


答えは分からない。

だが一つだけ確かだった。


ナムジョンを後継者に推すリスクが、常識では説明できないほど跳ね上がった。


崔はゆっくり目を閉じた。


(……子どもの軽口で国は動かさん。

だが、『動かされた国』は止められん)


「崔副部長。どうされます」


朴の問いかけに、崔はわずかに息を吐いた。


「我々の派閥は……ナムジョン同志の支援を、ここで一旦取り下げる」


正式決定にするには時間がいる。

だが『心』は落ちた。派閥はこれで動く。

朴は短くうなずく。


「承知しました。……しかし、誰がこれを?」


「わからん。ただ――」


崔は報告書を指先で叩いた。


「この情報は『綺麗すぎる』歪みがまったく無い。これはもう……『意図』の匂いがする」


朴の背筋が震えた。


誰が仕掛けた?

誰が動いている?


情報が動けば、国も動く。


そしてその裏で――別の二人の少女が笑っていたことを、この時、崔も朴も知る由もなかった。


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