第11話「帰れない2人」
基地の屋上にフワリと着地する。
しかし、右足がズキズキと痛む。
「第102独立魔導小隊、種田トウカ。帰投しました」
敬礼と共に報告する。出迎えたのは林さん、いや朴ソンギュ中将だった。
「よくやった」
握手を求めてこちらにくる。屋上は基地中から人が集まっていた。私も1歩を踏み出すが右足の痛さに顔をしかめる。
「お!これはいかん!名誉の負傷だな!おーい!タンカを持ってこい!」
異能少女の身体強化された足でも、あの衝撃には耐えられなかったらしい。骨折していた。
基地内の病室の個室が与えられ、早速朴ソンギュ中将が面会にくる。
「トウカちゃん、それでどう思う?」
「もう中止した方がよろしいかと、今回はギリギリで『引き分け』たにすぎません。1隻の巡視船に『それ』ですから……」
(これで『拉致』は止まるはずだ)
朴ソンギュ中将は工作員上がりで学がない。10年前、私を門司で拉致した犯人だった。でも、『学がない』からこそ『私達』をシンクタンクのように使ってくれる。今回はそれで『日本側』と衝突することになったわけだけど。
(「これを上手く使えば、『拉致』を止められる」)
彼の言葉が甦る。
「話はわかった。問題があっては困る。軍令部と相談しよう。それとー」
中将が立ち上がって、コートを羽織りながら続けた。
「コイツは俺の息子だ。俺に似ず、頭の出来はいい」
そう言って、病室を出て行く。残された青年と嫌でも目が合う。
「朴ソンミンです。今は李日正平城大学の学生ですが、この春から軍に入ります」
「第102独立魔導小隊、種田トウカ少佐です」
「自分はまだ学生ですから、お気遣いは無用です。少佐。」
林さんだった中将とは似つかない、端正な顔立ちにしっかりと筋肉質な身体。
「年も近いのだし、敬語は不要よ」
「あ、はい。種田さんは日本生まれの日本育ちとお聞きしました。そこでお聞きしたいです。トウカさんから見たこの国を。それで無理言って父について来たのです」
門司で拉致されて10年。今年で私も25歳になった。それなりにわかった事もある。
「私に答えられる事ならば」
「共産主義と資本主義。いえ、日本と我が国、どちらが優れているかです」
まっすぐにこちらを見る。その様子にどうやら思想教育とかそういったものではないと感じとる。だから私も正直に答える。
「答えは一長一短ね。私があのまま日本にいれば、今頃は食堂の従業員になるしか道はなかったわ。きょうだいが多くてね。でもこちらでは、例えば父親が病気で死んだとしても、本人の努力である程度の道が開ける」
朴ソンミンは黙って聞いている。私はさらに言う。とっておきの『情報』も付け加えて。
「私みたいな一市民からすれば両方の『いいとこ取り』ができれば嬉しいけれど、今のこの国の状況では難しいでしょうね。でも、チャンスはある。書記長の李ソンイル同志は病気で永くないわ」
その言葉に青年はハッとする。与えられた『情報』をどうするか、それは彼次第だ。
何かが頭の中でぐるぐると回っている。そんな感じで礼もそこそこに病室を出て行く。
やっと1人になった。
(あのまま帰りたかったな……)
でも帰れない。それだけの『理由』がある。
「おんまー!」
たどたどしい言葉でとことこと歩いてくる幼女。私の娘で『帰れない理由』の1つだ。
「ミサキ!パパは?」
娘よりも先に答える。病室の入り口に立っていた。
「いるよ、ここに。それで朴同志はどうだった?」
「軍に掛け合うみたい。計画通りよ、タケシさん」
そう、赤城さんと私は結婚した。
あれから15人の少女が102招待所、改め『異能研究所』に送られてきた。あの陸軍の研究が確かなら、下手をすれば50人近い少女がこの国によって『拉致』された事になる。あの戦闘で私が日本に『逃げれば』どうなるかなんて火を見るより明らかだ。
だから私は帰れないのだ。




