第10話「異能少女 対 魔女(後編)」
『トウカ』と名乗る少女の目的は明確である。
(時間稼ぎ。ね)
ならば、と理子はすぐに戦略を練る。
「『アイアンメイデン』!」
(威嚇よ。命中はさせない。それでも防御、回避どちらでもあの船に近づける!)
はずだった。
「!」
回避させられたのは理子の方だった。
『アイアンメイデン』の原典は中世の拷問器具である。オリジナルは長い釘が内側についた棺状のマリア像に、拷問する者を閉じ込める事で処刑するものだ。
一方で理子のそれは何もないところに釘を出現させて対象者に打ち出すものだ。今回は1000本の釘を出現させた。
ところが途中で釘は理子の方へ引き返し、理子を襲う。しかも理子が放った時よりも鋭いスピードで。たまらず上空へ回避『させられた』。
「『呪文』を使うなんて、訓練が足りないんじゃない?」
トウカが煽るように言ってくる。
(『詠唱』なしで『魔法』を行使した。つまり日本、いえ『連合王国』式に表現すれば『シングルスキル』。でも、その発現方法は不明)
魔法少女や魔女、100人を集めたとする。この時90人は『シングルスキル』と言って1つの魔法しか使えない。ただし、イメージを形成する際に『詠唱』があった方が明確に的が絞れて良い。それは残り10人の『2つ以上の魔法を行使する者』も同様だ。いや、2つの魔法を明確に区別するために『詠唱』は必須といっていい。
(つまりは『シングルスキル』かつ『イメージする必要のない』魔法?)
「『断罪』!」
空から紫電が疾る。雷がトウカを直撃しようとした、刹那。
「くぅ!」
理子の肺から空気が漏れる。理由はトウカの繰り出した蹴りが溝落ちに突き刺さっている事だ。多分、肋骨が2・3本折れている。痛みというより熱が胸から理子の全身に広がる。
「『何が起きたかわからない』という顔ね。いいわ教えてあげる。私の『異能』は『静止』なの」
先程、理子が魔法で打ち出した釘も『静止』させたにすぎない。それは『宇宙』からみてである。理子達は『地球』に乗った状態で自転しているから理子からすれば反転したように見えたにすぎない。
今の蹴りもトウカ自身を雷から避けるために『静止』させ、その進行方向にあった理子に蹴りを当てたのだった。
蹴りが入ったまま後方の巡視艇に衝突する。理子は意識が暗転しそうになるのを必死に堪える。
「まち…なさい……!」
他の乗組員は呆然と2人をみている。山岡だけが拳銃を構えて、トウカを牽制している。
「そこの人にも言ったけれど、私は種田トウカ。日本人でさっきの船も日本のものよ」
それを聞いた山岡も困惑する。少女は周囲を見渡し、見つける。
「借りるわ」
デッキブラシを手に取って、横乗りして飛んでいく。
そして、不審船も少女も見えなくなった。




