第9話「異能少女 対 魔女(前編)」
1985年2月。鳥取県沖、日本海上。
「本当に日本は『スパイ天国』ね」
吐き捨てるように、上田理子は海風に長い髪をなびかせながら言った。
立っているのは海上保安庁の巡視船……といっても、今日は『表の顔』で稼働しているだけで、本当の任務は別にある。
山岡龍馬はタバコに火をつけ、ぶっきらぼうに返す。
「新人じゃあるまいし、『何故か?』は知っているでしょ?」
理子は眉ひとつ動かさない。
「理解しているわ。日本が『戦場にされないため』にスパイの出入りを許してきた。戦後の政治家はそれを選んだ。つまり……」
「『日本は情報中継地だから、戦地にするのは悪手』と、各国に思わせた。結果として戦火は回避され、ついでに国内にいながら各国の情報も取れるようになった」
山岡のまとめに理子は薄く笑った。
3年前、理子が起こしたホテル火災と帝航機墜落の連続事故はあらゆる情報となって各国に伝わった。
それを『少女失踪事件』と結びつくルートの判明に3年もかかってしまった。しかし、それはこの『2人のコンビだから判明できた』とも言えた。
「実行犯、確実に押さえるわよ」
決意のように理子が言う。
判明したのは『半島北側の国』による誘拐、いや拉致。しかも国家主導の線が強い。
500m先『日本人の少女』を乗せた不審船が北上している。
「先行するわ!」
日本の領海ギリギリのライン。焦れたように理子はホウキに乗って飛び出した。
すぐに不審船に追いつき警告する。
「止まりなさい!日本の領海侵犯よ!」
返事のように理子の至近で水柱があがる。
(威嚇射撃!)
不審船から理子と同じようにホウキに乗った少女が飛び立つ。まるで不審船を理子から守るように。
「私は種田トウカ。日本人で、あの船も日本のものよ。さっきのは警告。次は当てるわ」
そう言われては法的根拠を失う。
「驚いた。てっきり『半島語』を話す、工作員が出てくると思ったのに」
改めて少女を見る。白いブラウスにプリーツスカート。ローファーに防寒のためのダッフルコート。どこか日本の高校生に見えるが、ホウキに横乗りして飛行している。だが両指に目を凝らしても、『魔法』を行使するための指輪は見えない。
「あなた『魔法少女』?」
トウカが尋ねた。
「もう30を超えて『少女』というのもね……。
ヨーロッパだと、成人を超えた『魔法少女』は『魔女』と呼ばれる。だから私も『魔女』よ」
「そう。それでさっきの答えは?」
トウカが日本人である以上、領海侵犯にはあたらない。
「領海侵犯の件は取り消すわ。それでも、もう1つ問題があるの。『青少年健全育成法』って法律なんだけど、あなたはホウキで空を飛んでる。これは明らかに2条『国ノ許可ナク特殊能力ヲ使用シテハナラナイ』に違反するわ」
「そうなの?それじゃ、私を捕まえれば?その間にあの船は我が国の領海に入る。さあ、捕まえてごらんなさい!」
明確な敵意を向けられる。
『異能少女』対『魔女』の戦いが始まる。




