第7話「波紋」
1982年、1月。
半島北側の国、新義州市。新義州高級中学校。
「おい、ソンミン!お前の『李日正平城大学』が決まったぞ!我が校で3人目、6年振りの快挙だ!」
担任教師が鼻息荒く大声で言った。『李日正平城大学』は我が国で最上の教育機関だ。卒業すれば、軍でも党本部でも国営企業でも上層部への登竜門となる。だがどんなに『成績が優良』でも、入学はできない。『家格』が問われるからだ。
「父上が軍の少将に昇進するらしいな。なんでも多大な功績を挙げたとか」
更に続ける教師に学生はうんざりした。
彼はこの国の思想教育に疑問があったからだ。
それは、偉大なる将軍が国の最上なのは構わない。ただ、周囲の側近は優秀な人物がなるべき。という実力主義的思考だ。だが、先程の説明通り、この国の教育には『天井』が存在する。
(この国をいつか変える)
決意を胸に秘めて彼、朴ソンミンは身に余る光栄に感激する生徒を演じた。
♦︎♦︎♦︎
同じ日。東京都千代田区内幸町。
日比谷公園を見下ろすオフィスビルの6階に『全日本産業経済研究所』はあった。
「はじめまして。警察庁警備局外事部4課の山岡龍馬と申します」
「はじめまして、所長の上田理子よ。森恒君」
「こちらこそ、長田さん」
雑然とした部屋は『研究所』というより『雑誌編集部』みたいな雰囲気があった。都心では珍しく、緑を見下ろすロケーション。実はここは『魔法少女組織』の頭脳部でもあった。
かつて『長田洋子』と『森恒一夫』として日本を震撼させる『事件』を演じた2人が10年ぶりに再会した。
「山岡君が出てくるという事は相当な事件ね」
「ええ、『連続アベック蒸発事件』を追っています」
「それでなんでここに?知っての通り、ここの管轄は公安部でしかも、魔法少女の管理よ?」
それを聞かれると予想していた山岡はあるリストを渡す。それを理子は怪訝そうに読む。
「何よ?『新潟県燕市、横村ツグミ・秋田県能代市、佐和カズコ・鳥取県……』これ!」
広いオフィスに2人だけという安心感から
「そうでしょう?多分、上田先輩の仕事に半分程引っかかってますよね?だから、協力を仰ぎに来たのです」
この名簿は3つの条件を満たす者を挙げている。それは『直近5年』で『失踪した者でいまだに行方がわからない』『未成年の少女』。
そして、それが
「うちの『魔法少女の素養のある者』リストに5人全員が入っているじゃない!」
「ええ、だから上田先輩のお力をお借りしたいのです」
商談がまとまると確信したサラリーマンのようにニッコリと笑顔で山岡が言う。
「わかったわ。ただし、『私のやり方』でいくわ」
長田洋子。改め、上田理子。
この女は日本を騒がせずにはいられない女なのだ。




