第6話「変化」
この国にも『梅雨』がある。
日本とは少し違う、重たくて肌にまとわりつくような湿気だ。
「……まあ、そうなるわね」
ため息をつきながら、タンスを開ける。
そこには、以前とは違う下着が並んでいた。
全部、ゴムの太い輪がついたものばかり。
そのまま履くのではなく、
股のあいだに分厚い布を挟んで固定するタイプ。
——つまり、これはもう『おむつ』だった。
(昨日も……その前も……)
夜のおねしょは毎晩になり、最近では昼間にも一度は『失敗』してしまう。
訓練中や、文字を書いている時。
ちょっと力を使った拍子に、身体が勝手に緩んでしまう。
(『異能』のせい……なんだよね?
そうじゃなかったら……私……)
この招待所では洗濯も管理も職員が行う。
つまり、私の失敗も全て把握される。
タンスが『こう』なったということは——
もう完全に、職員も赤城さんも、
『私は『異能少女』であり、『失禁』は日常的なもの』
……そう理解した、ということだ。
胸がきゅっと苦しくなる。
少女としての生活が、
ひとつひとつ削り取られていくようで。
変わったのはそれだけではない。
♦︎♦︎♦︎
1週間前。
「はじめまして、半島解放軍少将の白オックです」
脇にいた背広の男性が日本語に訳そうとする。私はそれを止めた。
「大丈夫です。そのくらいの半島語はわかります。はじめまして種田トウカです」
「おお、素晴らしい。今日は訓練の様子を見せてもらいますよ」
「はい」
そうしていつも通りの飛行訓練を行う。記述にあった通り、掃除用具のホウキにまたがると速く高く飛べる。今は訓練として制御の練習している。狙った高さ・場所に飛ぶ訓練だ。
「素晴らしい!この調子で頑張ってください。新しい子も探していますから」
白さんは終始、上機嫌で帰っていった。
「……うまくいったな」
白さんの車を見送りながら、タケシさんが言った。軍の視察も全てタケシさんの計画だった。
(「この国で権力を持っているのは『党』と『軍』だ。それを利用して、『役に立つ』事をアピールするんだ!」)
「ええ、これで軍にも『訓練』という名目で『異能』の練習ができる。タケシさんの計画通りにね」
私がそう続けると、タケシさんもこっちを見て笑った。
その結果、今日から『102招待所』は『半島解放軍 異能研究所』と名前が変更された。
♦︎♦︎♦︎
その夜。島根県江津市沖。
波の音だけが響く真っ暗な海。
その中を、小さな船がゆっくり進む。
「……そっと運べよ。中身は『ナマモノ』だからな」
船上でセブンスターに火をつけ、紫煙をくゆらせる男——林。いや、朴ソンギュだった。
小船から、大きな貨物船へ。中継して送り出す。
それが変わらない“仕事”だった。
積み荷の麻袋がわずかに動く。
中には——
眠らされた小柄な少女。
朴は麻袋の端を指先でつまんで、にやりと笑った。
「トウカちゃん。新しい『お友達』だよ」
波が船腹にぶつかり、
鈍い音が響く。
少女の入った麻袋は、
静かに貨物船へ引き上げられていった。




