第7話「初勝利のあと」
『チーム・スプリング帰投を許可。学園屋上にて待つ』
通信が入り、戦闘が始まった時に落としたホウキを拾って帰路につく。
「さくらちゃん、すごいね!いろんな魔法ができるんだ?」
「うん、よくわからないけど、できてる」
「いいなぁ。水系って人数多いからわたしは個性がないんだよね」
雑談を交わしながら飛行しているが、私は限界を感じている。何かと言われるとおむつのだ。私の意思なんて関係ないみたいに何回もおもらしが繰り返される。ホウキにまたがって乗ったせいでおむつが絞られるみたいに太ももにおしっこが漏れていく。
やがて、学園の屋上に降り立った。待っていたのはストレッチャーが3台。
「あ、さくらちゃん。戦闘終了後は検査があるの。ほら、さくらちゃんもおむつがびしょ濡れでしょ?腎臓とか他の臓器に異常がないかチェックするの」
あやめちゃんが言った。そういえば彼女もスニーカーソックスまで濡れている。ワカバちゃんも似たようなものだ。
自分だけじゃない。
その実感が少し私を軽くした。
生まれて15年。大きな病気もした事のない私はこんなに大掛かりな検査は初めてだった。レントゲン、CTスキャン。ストレッチャーに乗せられて次々と検査を受けていく。
その間もおもらしは止まらない。ストレッチャーに乗せられて3人とも、まず最初はおむつの交換から始まったのだ。
「藤原さくらちゃんね?私はこの明王義塾学園の医療責任者、前田優子よ。よろしくね。それと昨日はごめんなさい。私の方から魔法少女についての説明をするつもりだったのだけど、急な葬儀で有給をとったから寮のムツミ先生に代わってもらったの」
検査の最後は問診だった。前田先生はショートカットに白衣、青いブラウスにゆったりとしたスカートといった格好で『医師』というより『保健室の養護教諭』っぽい雰囲気がある。
いくつか質問をされて、答えていく。
「興味深いわね。さくらちゃん、あなたは腎臓にほとんどダメージが残っていない。単純に魔法を使い始めて期間が短いからなのか、それとも魔力を驚く程効率的に運用しているのかは要研究だけど」
モニターに表示された検査の数値や画像を見ながら、前田先生のそんな言葉で締められた。
昼過ぎ、今日は休養に充てられる事になった。
ワカバちゃんとあやめちゃんは疲れたのか自室で昼寝をしている。なんとなく、リビングでテレビを見るのも憚られて、部屋を出る。食堂でお茶でももらおうと考えていたら、意外な人物を見つけた。
この学園の理事長水田マリさんだった。
「どうしたの?初出勤で昂っちゃってる?」
「・・・少し」
マリさんは少し考えて。私の手を取った。
「・・・ちょっと付き合って」
そういって私を玄関前に用意された車に一緒に乗りここんだ。
「そ、さくらちゃんは私が連れ出してるわ。よろしくね」
スマホで連絡を終える。理事長といえど生徒を勝手に連れ出すのは厳禁らしい。
「お待たせ。何か言いたい事か聞きたい事があるんじゃない?」
「はい。ビーストになった人ってどうなるんですか?」
「魔法少女が倒したら・・・普通に通常兵器でも倒せるけれど・・・死体は残らない。知ってるわね?だから家出とか失踪扱いよ」
予想していた通りの答えに胸がギュッと苦しくなる。
(私、人を殺したんだ!)
「ストップ!それ以上悪く考えない」
私の心を読んだようにマリさんが言った。
「あのまま放置していたら、こうなるわ」
マリさんは私にタブレットを渡す。そこに写っていたのは焼かれた子供?いくつかの魔石、ホテルらしき部屋が血で染まった光景。
(何これ?)
「3週間前、名古屋で起こった『スタンピート』と呼ばれる現象よ。定義としては5体以上のビーストの出現。これのせいで2チーム7人の魔法少女がダメになったわ」
「え!」
あまりの驚きに声が出ない。
「ビーストに魔力攻撃を受けると、普通の人なら魔力中毒になるの。魔力攻撃も魔力そのものだからね。さらに言えば、筋力や凶暴性が倍以上になる。生身で手足をちぎれるほどにね・・・」
車は東京に来て間もない、私でも知ってる場所に到着する。
京葉メッセ。朝、私達が戦った場所。赤いレトロなスポーツカーが展示されている。
「佐々木淳、28歳。スタートアップ企業『オート ワークス テクノロジー』所属。あの赤い車が佐々木の開発したものよ。既存の車からエンジンを取っ払って、モーターとバッテリーやセンサーを取り付け、EVとして活用する。さらには自動運転も可能」
涙が浮かぶ。もっとやりたい事ややれる事があっただろうと思ってしまう。
「確かに佐々木はもう帰って来ない。でもあなたはここにある笑顔は守った。それは誇っていいと思うわ」
頭を上げる。自動車ショーの会場には笑顔や驚きの表情を浮かべた人がたくさんいた。
「よくやったと思うわ。他の人には知られないから、私ぐらいは褒めてあげるわ」
そうかと思う。ワカバちゃんもあやめちゃんもそれを知っているから笑えたんだ。
私達は誰かの笑顔と日常を守ったのだ。と。
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