第63話「『誰』を救うか?」
『さくらちゃん、あと100人は中毒者がいるわ!歩行者が多すぎて、移動ができない』
あやめちゃんが焦った声で状況を伝えてくる。
「これ、北西の風に乗って、南東部に中毒者が多いよね?」
『うん。でもそっちまで手が回らない!』
感覚でわかる。嫌悪感がそちらの方で強いのだ。
(「『浄化』していかないと最大32万のビーストが発生するぞ。パニックにでもなれば『ハロウィンの梨泰院』の再現、いやそれ以上だ」)
さっきのユウ君の言葉が反響する。
フワリと私は再び宙を舞う。
ランドセルタワーの横、帆船や観覧車が対岸に見える『映えスポット』。
「『劣化』!」
その瞬間、数万人が押し寄せ無理な力がかかったフェンスが折れ、2〜300人が海に投げ出された。そこで人の圧力の逃げ場ができたので次々に海に投げ出される人がいる。
「これでだいぶ動けるはずだよ、あやめちゃん。
ワカバちゃんもそろそろ本気で勇二君を捕まえて」
『了解』
『ラジャー!』
さて、美術館前の公園にいる2人のもとへ戻る。
「何をした?まるで『魔法』みたいにスペースができた」
ユウ君が噛み付くように言って来た。
「魔法だよ。山下公園側のフェンスを壊して来た。2〜300人か下手したら500人ぐらいは海に落ちたかな?」
「さくらそれって……下手したら死者が出るだろ?」
「表向きは『事故』だよ。それにユウ君はもう知ってるでしょ?魔力中毒者は『浄化』しても後遺症……おむつが必要になるって事。12月の海に落ちれば『言い訳』も用意できる。死者が出ても10人ぐらいでしょ?あのままだったらビースト化で100人は死んでるよ」
ユウ君は絶句する。隣の女の子が私に向かって魔法を放つ。
「『ずっと一緒よ』!」
私と女の子の中間にワイヤーが襲いかかる。
なるほど、『関係性』を『糸』として捉える魔法か。
「無駄だよ。AMFG、アンチマジックフィールドジェネレーターが港に停泊している護衛艦で稼働してる。魔法は狙いや威力が落ちるようになってる」
私は手のひらをユウ君達に向けながら、言う。
「どうする?もう1回閉じ込めようか?」
対人戦の肝は、『相手の心を折る』事だ。
魔法少女になる前、誰かに教わった事だ。
「なんなのよ!アンタ!」
ユウ君に庇われながら、女の子が言う。
「3人目の『レベル:E』、相手の魔法をコピーする『マルチスキル』。っていうチート持ちの魔法少女。それが『藤原さくら』だよ。リサ」
どうやったのか気絶した勇二君を抱きかかえて、私の代わりにワカバちゃんが言った。
「ここにさくらがいたのが運の尽きだよ。他チームなら、まだ芽はあっただろうに。大人しく、そのテンペストモドキを外して投降しとけ」
ワカバちゃんから何かを感じ取ったのか、女の子がテンペストレプリカを外した。
「降参よ」
短くそう言って、戦闘は終結した。
『まだ魔力中毒者が50人くらい残ってるんだけど!終わった空気感のところ悪いけど!』
テンペストからあやめちゃんが通信でツッコミが入った。




