第6話「センチメンタルな初出動」
学校上空。出撃した私達は訓練よりも高度をあげる。10m程だったそれは100m近くになる。
学校のすぐ近くにドーム球場があってびっくりする。
「さくらさん、わたし達の後ろからついて来て」
あやめちゃんの指示に「うん」と首を縦に振って応える。
あ、東京セカイツリーだ。この前の修学旅行は古い方のタワーだったんだよね。
お、そう言ってる間にネズミーだ。ランドかな?シーかな?
2人の後ろで東京の空の散歩を楽しんだ。
でも不意に、気持ち悪さが勝る。
(なんか、いる!)
確信めいた違和感が前方にある。言葉がおかしいかもしれないが、感覚を言語化するとこんな感じがする。景色を楽しむ余裕がなくなった。
京葉メッセとは展示場らしい。『TOKYO自動車ショー』というのぼりが出ている。まだ入場前なのか、出入り口付近に。1000人近い人がたった1人を取り囲むように、集まっている。
その中心の人物から黒い霧のようなものが滲み出している。
(あの時と一緒だ!)
不意にユウ君の顔を思い出す。あれから4日しか経っていないのに、もう遠い過去の出来事みたいだった。
「野次馬がスマホで撮影してる!あやめ!よろしく!」
先頭を飛ぶワカバちゃんがそう言いながらスピードを緩めた。
「任せて。『人払い!』」
そう言いながら一団に向かって右手を伸ばす。
(ん?これって?)
魔力の流れを感じる。それと同時に魔法にも種類がある事を理解した。あやめちゃんのそれは精神に作用するものだ。
例えばあなたの5m先に飛び降り自殺で人が空から落ちて来たとしよう。それを持っているスマホで撮影するだろうか?そんな感じのタブー感を感じる。それに加えて、撮影しようとボタンを押したら、偶然飛び降り自殺が写り込んだら?多分撮影した画像は消去するだろう。これがあやめちゃんの魔法の正体だった。
みるみる人が減っていく。娘を抱きかかえて走るお父さんらしき男性や商談に来たらしいスーツ姿の女性。みんなが遠くへいく。
ポツンと残った魔力中毒の男性はまるであの時の私みたいだ。
バリバリと音を立てて何かが私に向かってくるが直前で外れて顔の真横をかすめる。
「『ウォーターカーテン』」
ワカバちゃんがそう言うと瞬時にその名前の通り、水のカーテンが現れる。上から下に落ちる水で構成された壁。
先程、私の横をかすめたのは火の玉だった。それがジュッ!とワカバちゃんの魔法で無効化されていく。
「ワカバちゃん、どう思う?」
あやめちゃんがワカバちゃんに聞く。
「ダメだろう・・・もうすぐだ・・・」
「何が?」
私の疑問に2人が答える前に男性が答えを出す。黒い霧が一瞬濃くなり男性を隠す。
次に見えた時には男性は変わっていた。身体は一回り大きくなり体毛に覆われ、頭部は犬とか狼のようになっている。
「あれが『ビースト』。魔力中毒の成れの果てです」
あやめちゃんが私に言う。明らかに違和感というか嫌悪感が強くなった。さらには火の玉も数が多い。幸い、ワカバちゃんの魔法で防げているが。
(私が攻撃した方がいいよね?)
あやめちゃんが『人払い』で周囲の人的被害を防ぎ、ワカバちゃんが攻撃を『ウォーターカーテン』で防いでいる。
私は右手を前にだした。
雷が出る。しかし避雷針のように脇にあった街頭に逸れ、ビーストに当たる事はなかった。
(あの時もそうだったな)
前のユウ君の時も当たらなかった。
「さくらちゃん。イメージするの!それを言葉にだしてみて!」
!
そうか。『人払い』や『ウォーターカーテン』って、そうやってイメージを具現化するために言っていたのか。それなら!
「10万ボルト!」
某ゲームの電気ネズミの技をパクった。
アニメでみたような電撃が敵に向かう。が、避けられる。こうかくレンズを持っていないからかな。
ビーストは私の攻撃が直撃するとやられると思ったのか、ちょこまかと移動しては火球を打つようになった。それなら!
「ウォーターキューブ!」
2m程の水の立方体がビーストを閉じ込める。
(あ、溺れてる)
「え?雷と水?『デュアルスキル』?」
「いや、多分1撃だけ、相手の火の玉を風魔法でそらしたよ?2つじゃなくて、3つ以上は『マルチスキル』って言うらしいよ」
ワカバちゃんとあやめちゃんはビーストそっちのけで議論している。私が痺れを切らして言った。
「ねえ、これ浄化しないの?」
ワカバちゃんが答えた。
「できない。ビーストになっちゃうと倒すしか道がない。だからしばらくそのままで」
ビーストは溺れたようにバタバタと手足を動かし続けていたが、徐々におとなしくなり、ゆっくりと消えた。
ウォーターキューブを解除する。残ったのは直径5cmぐらいのビー玉みたいなもの。
「魔石っていうんだ。このテンペストの中にも入っている。昭和の時代はこれを指輪にして魔法を使ってたって」
「状況終了。帰投指示を願う」
あやめちゃんが解説して、ワカバちゃんがテンペストで報告している。
「とにかく、『チーム・スプリング』初勝利だね!」
勝った。
でも私のモヤモヤした気持ちは晴れなかった。
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