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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
第3章「シークレット・ヘブン」

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第42話「絶望は希望を連れてくる」

福岡県福岡市博多区・博多駅前。


最近のビジネスホテルは、省人化の波でスマホひとつでチェックインから決済まで完結する。

僕と黒田リサが利用するホテルもそうした一つだった。だから、明らかに未成年の僕たちでも、何の問題もなく宿泊できた。


もちろん、念のための準備もある。

「福岡で資格試験を受ける」という名目で、偽造の受験票と身分証を携えてきた。とはいえ、小学生の勇二くんにはそんな嘘は通じない。彼には今回はお留守番をしてもらっている。


「困ったわ。シングル二部屋のはずが、ツイン一部屋になってる……」


リサがスマホの画面を見て、眉を寄せた。

どうやらホテル側の落ち度ではなく、予約サイトの入力ミスらしい。


「ここで取り替えてもらうのは、得策じゃないよね?」


ロビーは無人で、カメラの赤い点だけが光っている。


「そうね。カードの再決済とか、身元確認とか面倒を起こしたら終わりだわ」

「じゃあ僕は外で過ごすよ。漫画喫茶とか――」

「ダメ。明日の大阪に差し障るかもしれないじゃない」


リサは迷いなく言い切った。

こうして、2人で同じ部屋に泊まることになった。



部屋のドアが閉まる。

空調の音だけが、やけに大きく響く。


「あのさ、笑わないでほしいんだけど……」


歯切れ悪く言う僕に、リサは振り返って笑った。


「おむつのことでしょ? 知ってるから安心して。……というか、私も、だから」

「えっ?」


間抜けな声が出た。

リサは何でもないように、髪を耳にかけて言う。


「魔力中毒になった人間は、みんなそうよ。『魔法少女』はまだマシなほう。魔法で体の代謝を調整できるけど、普通の人は空気中の魔力を吸って、水分まで取り込んじゃうの。結果的に、体の中に余分な水が溜まって……排出するしかない。つまり、おむつが必要になる」


(……知らなかった。魔法少女に、おむつが必要だなんて。もしかして、さくらも――?)


頭の中に浮かびかけた名前を、僕は振り払った。


リサは立ち上がり、淡々と髪を整えながら言った。


「着替えたら、夕食を食べに行きましょう。せっかく福岡なんだし、本場の豚骨ラーメンを味わっておかないとね」


その声が、ほんの少しだけ優しかった。



同じ頃。

東京都千代田区・霞ヶ関。文部科学大臣室。


「過去の三事件、公安経由で裏取りが取れたわ」


水田マリの声が冷たく響く。彼女は公安管理下に魔法少女になったのでいくつか伝手があった。


「やっぱり、公安内部に『長田洋子の影響下』にある人物がいたみたい。物証を意図的に隠蔽したり、別のものに変えていた形跡がある」

「現在は?」


広井夏樹が短く尋ねる。


「疑いのあった職員は全員退職。今は『長田グループ』らしき再結成も確認されてない。

――というか、もう入るメリットがないのかもね」


「でも、『目的』は何だったの?」


夏樹の視線がゆりあに向けられる。

その瞳に、理性と恐怖が混じっていた。


佐藤ゆりあは、机に置かれたペンを軽く回しながら答えた。


「仮説は二つあるわ。どちらも証拠はない。けど、どちらも『理屈は通る』。

 一つは――『魔法による国家掌握』」

「……国家掌握?」

「ええ。たとえば国会本会議中に、『心理操作』系の魔法少女を一人送り込んだとしたら?」


夏樹とマリは息を呑んだ。


「宣戦布告だってできる。憲法改正も、法改正も、一晩で通せる。『理性』を失えば、それくらい容易いのよ」


マリが皮肉交じりに笑う。


「銀行を止めて、税金という名目で金を抜くこともできる。ね?」


ゆりあは静かに頷いた。


「そう。今まで誰もしなかったのは、ただ『良心』があったから。でも、それが崩れたら――」


「もう一つの仮説は?」


夏樹の声が低くなる。

ゆりあは答えた。


「『テロ』――東京のど真ん中で、スタンピートを起こすつもりかもしれない」


部屋の空気が凍りつく。

時計の針の音だけが響いていた。




福岡県福岡市博多区、ホテル駅前INN。


部屋には椎葉ユウの寝息と、時折寝返りのたびに紙おむつのシャカシャカとした音だけが響く。


黒田リサは窓の外をぼんやりと眺めていた。見慣れない風景だが何故か心が凪いだ。


(「『希望が絶望を連れてくる』だよね?わかってる。だけどさ、『絶望が希望を連れてくる』事だって、あるはずだ。暗い部屋にいるから見える光があるように。さ」)


リサは小さく息をついた。

胸の奥で、何かが静かに波紋のように広がっていく。


彼女は気づいてしまった。

自分が探していた『希望』は、いつの間にか――すぐ隣で寝息を立てていたのだと。


その時、『テンペスト・レプリカ』が青く発光する。


(え?これって!)


「『もう渡さない』」


久しぶりの呪文。

そして彼女は自分の小指を見る。


赤い糸がそこからベッドで眠る『彼』の方へ向かっていた。


そうか『魔法』は『希望』なのだ。

と、彼女は確信した。


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