第34話「点と線」
「椎葉ユウ君だよね?お話があるの、ちょっといい?」
ボサボサに伸びた髪に、同じく伸び切ったスウェット。椎葉ユウの現在の姿である。学校に行かなくなってもう何ヶ月経つだろう。
昼間のユウ以外、誰もいない自宅のインターホンが鳴らされ、その声は聞こえた。無視しようと思うユウにその囁きは届いてしまう。
「さくらちゃん。探せるかもよ?もう名前が変わっているかもだけど」
ガチャリとロックを解除する。
「はじめまして。私の名前は長田洋子」
その女性はそう名乗った。小学校教諭のようなスカートのスーツに、セミロングの髪は白いものが混じっている。朗らかに笑う目元にはシワが数本できている。
ユウが街から消えたのはこのすぐ後だった。
東京都文京区、明王義塾学園理事長室。
「近畿の穴は大きいわね」
佐藤ゆりあが言った。
「半年は無理ね。下手するとこのまま引退」
冷たく感じるが事実を述べる、水田マリ。
「穴埋めだけど、普通に考えれば、春か秋よね?」
東京の魔法少女は4チーム四季である。つまりチーム・スプリングかオータム、どちらかを近畿の備えにする考えだった。
「『東京』が手薄になるのはあまり得策とは言えないね」
いつの間にか開いた窓から声がする。広井夏樹だった。フワリと窓から入って言葉を続ける。
「これを見て、魔法少女の出動回数のグラフ。ここから、自然災害を抜く」
夏樹が手にしたタブレットを2人は注視する。
「なんらかの意図を感じるわね」
「明らかに偶然とは言えない感じがする」
ゆりあもマリも夏樹の言わんとする事が数字から読み解けた。そのグラフは関東だけが異様に少ない、『日本最大の人口密集地であるにも関わらず』である。
「もっと言えば、この前の大阪の事件。頭痛がするような事があるんだけど、聞きたい?」
夏樹が妙に勿体ぶって言った。ゆりあが首を縦に振る。
「まずは1つ目、ビーストは和歌山県那智勝浦町の温泉旅館廃墟に現れた。なぜ?」
夏樹は答えを待たずに続ける。
「2つ目、大阪支部にいた舞先生は両足を撃たれて重傷だった。撃った銃は大阪府警の科捜研で特定されてる。コルトパイソンだよ。血塗られた銃でね。時系列順にいくと『朝売新聞社『悲報隊』事件』『長官狙撃事件』『スーパーグンペイ強盗事件』に使われたのと同じ銃だった」
そこまで言って、夏樹はゆりあのために入れていたお茶を勝手に口にする。
「つまり。犯人、主犯はーーー」
「待って。さっぱりわからないわ」
結論を急ごうとするゆりあをマリが制する。天才同士の会話はしばしばこう言った事が起こる。『理論の跳躍』とマリが名付けた現象だった。
「マリちゃん、いい?ビーストは元々、魔力中毒者だよね?つまりは人間。それがなぜ廃旅館にいたの?これは犯人グループが現場を『作って』いる可能性が高い。もっと言えば、現場が那智勝浦町であった点。これ、熊野川を挟んで反対側なら三重県紀宝町で夏樹ちゃんたち、中部エリアの管轄よ。その後で支部襲撃をしている事からもわかるように、『こちらをよく知った人間』なの」
「なるほど、そうね。そもそもチャフは瞬間移動魔法を使う梓ちゃんにしか、通用しないものね」
マリが整理するように言う。ゆりあは夏樹が飲んだお茶の残りを構わずに口をつけて潤し、さらに続ける。
「2つ目、さっき夏樹ちゃんが出した3件の未解決事件は『魔法少女』というフィルターを通すと見えてくるの」
「確か朝売新聞社は『魔法少女』の事を公開しようとした」
夏樹が後を継ぐ。
「長官狙撃事件は言うまでもなく、当時の魔法少女全体のトップは警察庁公安部。つまり警察庁長官。そして、最後のスーパーグンペイは被害者の女子高生の1人は元魔法少女。任務中の怪我で引退を余儀なくされて、一般家庭に養子として迎えられた」
「この3つ、繋がりそうで繋がらないけど?」
「そこはそのままでいいの、マリちゃん。でも大事なのは『昭和』『平成』そして今回の『令和』と3つの時代を股にかけた銃があり、それが今回使用された」
「つまり犯人は、我々の事を知っていて、昭和の時代から事件を起こした人物」
「まさか・・・」
マリの思考も犯人に辿りついたようだ。
「長田洋子。『伝説の魔法少女』」
「そして、今回は犯行状況から複数犯。『シークレット・ヘブン』を名乗ってる」
夏樹が言った。
忌々しそうにゆりあが窓の外を見つめていた。




