第31話「VSガスの魔女(後編)」
広井夏樹は孤独な少女である。
生後4ヶ月で両親を喪った。理由があったわけではない。母親が元魔法少女で『テンペスト』を持っていた。偶然、夏樹がそれに触れて魔法が発動し、両親が死んだのだ。
魔法少女の呪いにおむつの着用がある。物心ついた時から彼女は一度も外れた事はない。
だから友達も作れなかった。彼女は天才でそれが『普通』ではない事も理解していたからだ。そして、同族である魔法少女に対してもそれは同じ。なぜなら彼女はほぼ『生まれながらにして、魔法少女』だったからだ。だから、他の魔女少女を理解できないし、理解されない。
唯一、同等の頭脳を持つ佐藤ゆりあだけが母親代わりだった。
繰り返すが彼女は天才だった。電子機器・ICT分野ではそれが顕著に現われる。
任務にドローンを採用する。彼女の能力は電気を使う事。相性はばっちりだと思っていたが違った。
電撃を撃てば避雷針のようにドローンが被弾する。それを制御するためにプログラムを作るがそこで彼女は気づく。『魔法は科学で計測できない』事に。そこで彼女はAIで制御することを思いつく。当たり前だがAIの作成には膨大なデータを必要とする。画像認識・過学習対策・言語プロンプト実装・魔力の変わったの水分検出・・・膨大な作業やメンテの末に1つの奇跡が起こる。
訓練での事だ。動く敵に対応するために、ランダムに動く人型を狙っていた時の事。
「『メタル・ニードル』!」
『テスラ・コイル・エンター』
撃った瞬間に外れたとわかったが、何故か的に命中していた。それに今の声。
魔法の使えるドローンの生まれた瞬間だった。『ゼロイチ』と名前をつけた。何故かはまだわからない。ゼロイチを寸分違わずコピーしても魔法の使える個体は生まれない。しかし、この研究を進めて量産化可能になれば魔法少女は必要ない。呪いの解放に道が見えた気がした。
「『Оранжевая революция(アランジェヴァヤ・レヴォリューツィヤ)』!」
マリア=ティモシェンコが呪文を唱え、硫化水素でドローンは腐食していく。ゼロイチがゆっくりと墜落した。
「ゼロイチ・・・・・・殺す!」
相対するマリアはもちろん、物見湯山気分のウーチン大統領、今回の事件のトリガー田代ナナ。
そしてこの件を命令した佐藤ゆりあも。殺す。夏樹自身が明確に。『怒り』を『殺意』を覚えた。
した事は、短い呪文を唱える。それだけだ。
「『ハルマケドン』!」
直後に地面が爆ぜる。小石や木の枝が周辺に殺傷力のあるスピードで飛び交う。
水素爆発。
地面の水分を電気分解し、水素を発生させる。そこへ小さな電撃で火花を散らせば燃焼する。それを100m範囲でやってのける。しかも1度ではない。都合4回、爆発が起こり、演習場の地形が変わる。爆破によって巻き上げられた土砂が周囲を飛礫のように襲う。
マリアは上空へ飛んでそれを逃れる。
「空を飛べる魔女には効か!」
言葉はとぎれ、何かがマリアを直撃した。
少し離れていた一行はワカバのウォーターカーテンで難を逃れる。そして、この水素爆発すら『ハルマケドン』の前座に過ぎないと思い知る。全員のスマホからアラートが鳴り響く。
『Jアラート:国民保護に関する情報。ミサイル接近』
それが訓練や間違いではないのを見てしまう。つまり、マリアにミサイルが命中しているのを。
5分前。隣の大国。超音速ミサイル発射基地。
「何が起こった?」
施設長である周が叫んだ。
「わかりません!突然プログラムが書き換えられました。まるで『魔法』です!」
「ミサイルが1基発射されました!」
「目標は?」
「モニター不能!ですが東の方角です!」
同時刻。神奈川県横須賀市沖。第2護衛群所属、イージス艦「あわじ」内CIC。
「システム、オールダウン!」
「なんだ?ハッキングか?」
「システムはクローズドです!ありえません!」
「甲板作業より連絡!前方BLSのハッチ、1番から12番が開いています!」
直後に轟音がして、CIC長の米岡はミサイルが発射された事を悟った。
「どっちの方角だ?」
「西です!」
周も米岡も思った。『戦争になる。この世の終わりだ』と。それは夏樹の起こした『ハルマゲドン』だった。
現在、富士演習場。
さすがのマリア=ティモシェンコも音速を超える物体を止められなかった。彼女に直撃し、数秒。爆発する。
衝撃波と閃光に全員が目を閉じるが、すぐに彼女が健在だとわかる。
「『女王』以来ね。骨が逝ってるかも」
脇腹を押さえてマリアがそう言う。さらにミサイルが襲いかかる。自衛艦のトマホーク12基だ。
「『Блок Марії Тимошенко(ブローク・マーリァ・ティモシェンコ)』!」
全方位から襲いかかるミサイルがマリアの少し前方で推進力を失い、落下していく。ミサイルは地面に次々と突き刺さる。彼女の魔法の正体は空気中から酸素を奪う事。攻防一体の奥の手、酸素がなければ推進剤は燃焼しないし、爆薬も爆発しない。
「この魔法まで使わせるなんて、本当に『怪物』ね」
マリアが夏樹に向けて言う。
「つくづくロクライナには感謝せねばな。『アレ』を前線投入しなかった『理性』に」
「日本もです。このクラスが後4人いるんですよね」
ウーチンとナナが呆気に取られながらも言う。そこへ。
「演習中止!これ以上は隠滅できないわ!」
ゆりあが叫ぶ。2人はなおもやめようとはしない。
「テンペスト、強制停止!」
ゆりあがそう言うと、ゆっくりと2人は降りて来る。そして、2人ともテンペストを外して、ゆりあの足元へ放る。
次の瞬間には、マリアはポケットから指輪を、夏樹は別のテンペストを取り出して装着している。
「ダメね。ワカバちゃんお願い!」
言われて前に出るワカバ。
「『ウォーター・キューブ』!」
2人を2m程の水の立方体が包む。
「AMFGを使うからもっと大きめで」
「は〜い。『大盛り』!」
4m程に大きくなった。
(あの2人を数秒だと?)
(この人もすごい!日本のレベルってやっぱり高い!)
ウーチンとナナの驚きをよそに、自衛隊の協力でAMFGが起動、2人が無力化される。
「これ、死なんのか?」
ポツリとウーチンが言った。
「よく見て下さい。マリアさんは自力で空気を生み出しています。夏樹ちゃんは水を電気分解して酸素を生み出しています。両方とも手練れですから」
平気な顔で言うゆりあにも、ウーチンは恐怖を覚えた。
(しばらくはこの国に手出し不要だな。少なくとも朕が大統領の間は)
次回から更新は2日に1話ペースになります。




