第30話「VSガスの魔女(前編)」
(失敗した!)
珍しく佐藤ゆりあは思った。舞台を整え、田代ナナを籠絡するつもりが、ウーチン大統領とマリア副大統領に喰われた。骨折り損のくたびれもうけ、そんな言葉が脳裏によぎる。そこへ追い打ちをかける。
「『レベル:E』から誰か出せ。と?」
「はい。マリア=ティモシェンコ女史たっての希望です」
この国の最高権力者、中島浩二首相。彼から命令されれば仕方ない。
そして、翌日。静岡・山梨県境、防衛省・富士演習場。
「なんでわたし?わたしの魔法は戦闘向きではないの、知ってるよね?」
「うるさい!夏樹ちゃんがウーチン大統領にリークしたから、昨日の仕掛けは台無しよ!」
疑問をぶつける夏樹に、ゆりあはキレ気味に言った。
「ナツキ殿VSガスの魔女か。好カードな事、この上ないな」
「日本の魔法少女の上澄み、この目に焼き付けます」
ウーチン大統領、田代ナナまで観戦にやって来た。
「なんでわたしまで・・・」
チーム・スプリングから、桃園若葉。
「ごめんね。ワカバちゃん、防御を頼むわね」
ゆりあが申し訳なさそうに頼む。
10:00。予定通りに魔法少女と魔女の訓練は開始した。
同時に2人とも上空へ。それは必然だった。互いに防御が得意ではないからだ。
さらにそれに追従するように8機のドローンが追いかける。どちらかは言うまでもない。
(あの子、今、呪文を唱えていない?)
マリアは不審に思った。さらに、
「痛った!」
ドローンの攻撃。BB弾サイズの金属弾が発射される。普通なら、これで命の危険がある。身体強化が普通にされている魔女や魔法少女だから耐えられている。
「『Копия железной стены)』!」
鉄の壁が現れガードする。
「そんな、あれは『鉄の女』の魔法!魔女め!」
忌々しそうにウーチンが言う。ヨーロッパの他の魔女『鉄の女』のコピー魔法。
「ふふ、ソ連崩壊時は不法コピーで助けられたもの」
マリアが笑う。
『テスラ・コイル・エンター』
自分を守るはずの鉄の壁が動きマリアに当たる。
「フレミング左手の法則?」
ゆりあが言う。大臣室の窓の鍵を開ける事がある。
それにしても。
「誰が唱えたの?」
そう、広井夏樹は開戦以来一言も発していない。
(ドローンはAI制御。母国で飽きる程見た。魔法はどこで撃ってる?)
対戦しているマリアにもわからない。ならばと鉄の壁を消し、刹那。
「『Огненное дыхание 』!」
炎の息を意味する呪文。より正確には彼女は可燃性のガスを出している。それに火がつけば当然火炎放射器のようになる。ただし、射程距離が100mとケタ違いに長い。
「わ!熱っつ!大道芸人かな?」
夏樹の元へも届く。もっと言えばドローンが1機巻き込まれて落ちた。マリアは首を動かして、さらに5機のドローンを落とす。だが、下にある森から新たなドローンが出てくる。
「AMFG搭載ドローンを投入。クイーンビーとゼロイチで連携攻撃」
『了』
夏樹が初めて戦闘に関する言葉を発した。それに答えたのはドローン。どうやら対話可能モデルであるらしい。
「『プロンプト』ね。夏樹ちゃんはドローンに命令を下しているだけ」
「それで『ガスの魔女』と渡り合えるの?日本の魔法少女は?」
ゆりあが解説し、ナナが驚く。しかもナナの驚きはこれだけではなかった。
(戦闘の余波を完全にシャットアウトしてる。ゆりあの横の魔法少女もかなりの使い手だわ)
そうしているうちにドローンの再布陣が終わる。
「!」
(魔法が使いづらい?これは?)
AMFG搭載ドローンがマリアを取り囲む。そこへ。
「あう!」
思わず苦悶の声がマリアから漏れる。身体に食い込む弾を1つ掴んだ。
(さっきより大きい。中距離狙撃タイプを近距離から発砲してるって事ね。それから考えたくないけど・・・)
「驚いたわ。まさかドローンまで魔法が使えるなんて。金属弾を使っているのもそのためね。さっきの『鉄の壁』と同じく『フレミング左手の法則』。それが弾丸の軌道を曲げていた!」
マリアの言葉に夏樹以外の全員が驚く。
「ご名答!時代は『省人化』だよ!ご老人。わたしは飛行以外、まだ魔法を『使っていない』の!」
マリアにとって絶望的状況。魔法は使いづらく、物理的に攻撃してくるドローン。
「決まったわね」
ゆりあが言った。
「否、彼女にはまだ『アレ』がある。彼女を『ガスの魔女』にした魔法が!」
ウーチンが否定した。そして、それは正解だった。
「『Оранжевая революция』!」
一見すると何も起こっていない。しかし、1機、また1機とドローンが落ちていく。
「シンプルに硫化水素を生み出す魔法。数多の魔法少女やエージェントを屠って来た魔法。・・・『ガスの魔女』健在ね!」
ゆりあが言う。
「我が『北の大国』すら、彼女のいるロクライナにしばらく手出しできない時代があった・・・」
そしてこの中で1人だけ、それに怒りで答える者がいた。
「ゼロイチ!・・・・・・・・殺す!」
広井夏樹である。彼女自身、初めての怒りに身を染めた。




