第3話「新しい生活(前編)」
家族との別れから一夜。
目が覚めると、見慣れない天井と静かな空気が広がっていた。
マリさんが用意してくれたホテルの一室だ。
体を起こすと、おむつがずしりと重い。
寝る前にちゃんとトイレに行ったのに、またおねしょしていた。
でも、普通の下着のときと違って、冷たさや不快感はない。
──これが、これからの「当たり前」になるんだろうか。
サイドのギャザーを破って脱ぎ、シャワーで体を洗い流す。
タオルで拭き、新しいおむつをつける。
昨夜もらった真新しい制服に袖を通すと、布の感触とわずかな糊の匂いが胸の奥を締めつけた。
これから向かう学校の指定服だ。前の制服よりかわいいけれど、中学の制服を初めて着た時のあの高揚感はない。
コンコン──。
「おはよう。よく眠れたかしら?」
ノックと共にマリさんが顔を出す。
「はい……疲れていたのか、ぐっすり眠れました」
「それはよかった。それで今日の流れだけど──」
午前中は寮に入って手続き、午後は講義と顔合わせという事だった。朝食にコンビニのサンドイッチを持ってきてくれたので食べる。
ホテルをチェックアウトして歩くこと約10分、『明王義塾学園 女子寮』と書かれた門が現れた。
高い塀の向こうは見えない。
マリさんがテンペストをパネルにかざすと、金属の門が静かにスライドして開く。
「ようこそ、明王義塾学園へ。歓迎するわ」
その言葉が、私の背中を押すように響いた。
マリさんはそう言って目の前の建物の玄関へ入る。私もそれに続くと、1人の女性が立っている。
「寮母の織田ムツミ先生よ。関西圏で魔法少女をやっていたの。この先の案内はムツミ先生、よろしくね」
「藤原さくらです。よろしくお願いします」
マリさんの紹介に、私は慌て気味に自己紹介する。
「織田ムツミ、26歳。8年前まで魔法少女をやっていた、まあマリ理事長も魔法少女OGだけどね」
ニカっと笑ってそう言うムツミ先生は毛先は金髪だが生え際が黒い。いわゆる『プリン頭』のショートカットにピアス、Tシャツ、ジャージのズボンにうさぎがプリントされたエプロンを着ている。寮母というより、バンドのボーカルが保育士で昼間働いているといった方がしっくりくる。
「それじゃ、私は仕事があるからムツミ先生、後はお願いね」
過去をバラされた事を気にも留めずにマリさんは門をくぐる。黒塗りの高級車が表にいて、乗り込んだ。どういうシステムなのかゆっくりと門が閉まっていく。
「じゃあ早速、寮内を案内するね」
そんなムツミ先生に促されて寮に入る。
既に連絡がされていて、私の下駄箱があった。そこで上ぐつに履き替えて、奥へと進む。
「ここが食堂兼ホールね。メニューはここ。今日は・・・お!オムカレーだって。うまいのよ。おかわりもし放題だから遠慮なくね。お昼は学園の食堂で食べれるわ。おやすみの日はこっちで食べられるわ」
並んだテーブルと椅子の数から、魔法少女はそんなに多くないと推測する。6テーブルに椅子が6つづつ、36人までだ。
「この棟は1階に食堂、2階は寮母の私の部屋、会議室と事務室があるわ。お次はお待ちかね、さくらちゃんの部屋だよ」
そう言って渡り廊下を次の棟へ進む。
「そう言えば、この間の戦い見たよ。監視カメラ映像でだけど。すごかったわ」
「無我夢中でした」
「あはは、初めてだからしょうがないね。でも、『マルチスキル』とはね。イギリスの魔法少女以外で初めて見たかも!」
「無知ですいません、『マルチスキル』とは?」
「ああ、3つ以上の物体を出せる魔法少女の事だよ。普通は火を出すだけだったり、水を操れるだけだったりする子が9割、それから2つ操作できる子が1割かな。稀に3つ以上の干渉ができる子が出てくるの。だいたい100人に1人って言われてる」
「私がその『マルチスキル』なんですか?」
「まだ可能性って話だよ。魔法の使い始めは複数の能力が使える子も多いんだ。1週間ぐらいで魔力行使に慣れたら、魔法も1つか2つに定まる事が多いよ。まあ詳しくは魔法の教官に聞いてくれ」
1階は2部屋。上の階もある。そのうちの1つの部屋の前で立ち止まる。その時、ムツミ先生が何かを思い出したようだった。
「あ、私から言っていいみたいだから説明するね。関東にはあなた以外に11人の魔法少女がいるの。それが4つのグループに分かれている、さくらちゃんはその名前の通り『スプリングチーム』所属となるわ。他も『サマー・オータム・ウインター』と4チームね。で、部屋割りもチーム別なの。だからチームメイトとルームシェア状態になるわ」
そう言いながらある部屋の前で立ち止まる。
部屋には『Spring』とプレートがあった。
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