第20話「テンペスト、壊れる」
群馬県前橋市。
「『浄化』」
魔力中毒者が糸が切れたように、ばたりと倒れる。受け止めて近くのベンチで寝かせる。
「状況終了。帰投許可求む」
『許可します。学園屋上にて』
魔法少女になって3ヶ月。学園生活にも任務にも少し慣れてきた。
ホウキで学園に帰っている時だった。突然、手首につけた『テンペスト』から、アラート音と共に見た事のないメッセージが表示された。
『コア破損。機能停止まで15秒』
(え!)
高度100m以上。いくら身体強化していても死ぬ。
「『エア・シュート』!」
空気を後方に発射して推力を得る。重力で徐々に落下していく。魔法が解けかけて身体強化ができない。耳が急降下にキーンと痛い。
(届く!届くはず!届いて!)
まあまあのスピードで私は激突した。学園近くのドーム球場の屋根に。空気で膨らんだその球場は大きなトランポリンのように私を受け止めてくれた。
「さくら!どうした?」
「さくらちゃん、大丈夫?」
ワカバちゃんとあやめちゃんが言いながら近づく。私は理由を説明するためにテンペストの画面を見せた。
「正直、魔法少女じゃなくても、おもらししてるぐらい怖かったよ」
私の正直な感想だった。
♦︎♦︎♦︎
翌日。埼玉県越谷市。
「マリさん、ハッピーセットは30代で頼んだらいけないと思います」
ワカバちゃんが言った。
「これは娘のなの!」
やはり、私達より幼く見える外見を気にしてか、珍しくプリプリと怒っている。かわいい。私達はたこ焼きをチョイスした。寮の食堂では食べられない(メニューに出てこない)からだ。
やって来たのはショッピングモール。
休みに羽根を伸ばして、ではなく。テンペストの修理のためだった。土曜日とあって、家族連れやカップル、色んな人がそれぞれに楽しそうに過ごしている。
「お待たせ」
現れたのは男性。その、あの、言いにくいが額が少し後退してきてる、ヒョロっとしたおじさんだ。ニコニコかヘラヘラかどちらとも言えない笑顔でマリさんを見ている。
「紹介するわね。小田圭吾。私の旦那サマよ」
いつもの15倍(※当社比)はニコニコしたマリさんが言った。その顔にいつもの理事長の威厳はどこにもなかった。
合流した圭吾さんの後ろ歩くカタチで、館内を歩く。エスカレーターで2階へ。人通りの少ない英会話教室と歯科の奥、トイレや授乳室がある。さらにその奥。「清掃用施設」と書かれたドアに圭吾さんがテンペストをかざしロックを解除する。
「心理的盲点って奴ね。テナントの人間は清掃会社が使ってると思い、清掃会社の人間はテナントの人間が使ってると思う。結果、誰も使ってない場所ができる」
あやめちゃんがそうつぶやいた。本当にホウキや掃除機、バケツが並んでいて、その向こうにもう1つ扉があり、再びロックを解除。
「ようこそ『テンペストデータセンター』へ!」
妙にテンション高く、圭吾さんが言った。本当にマリさんはこの人のどこが良かったのだろうか?あやめちゃんがわかりやすく、引いてる。
デスクが3つにモニターが20台近く。キーボードが複数置いてあり、何に使うかわからない装置が脇に並ぶ。圭吾さんしかいないのは土曜日だから他の人はお休みなのだろうか?
あ、もう1人?いた。右手前のソファーが応接セットのようにある区画に2〜3歳の女の子が寝てる。マリさんが先程のハッピーセットを前のテーブルに置いた。ひょっとしたら、私が魔法少女になる決断をした時、そこに眠っている子を思い浮かべていたのかもしれない。
「テンペストの修理だったね」
そう言って手を出してくる圭吾さん。慌てて腕から外して渡す。ガラス張りの装置にそれをセットして、脇にあるキーボードで何かを操作している。
「ここでは魔力・魔法少女・魔石なんかを研究しているの。カッコいいでしょ、ウチの旦那サマ」
最も壊れたのはマリさんだと言いたい。そこに勇者が現れた。ワカバちゃんだ。
「マリさん、そんなカッコいい旦那サマとどこで知り合ったの?」
目をキラキラさせてワカバちゃんが聞く。
「アタシが魔法少女になる前、小学2年生の時かな。隣の部屋に住んでたの。アタシの母親はDVが酷くてね。冬の寒い日にベランダに出されたの。そのまま3日帰って来なくて、それを助けてくれたのが夫だったの。自分の部屋に火をつけて、ボヤを起こして消防隊に発見させたの」
何でだろう?マリさんが精神感応系の魔法を使ったみたいに、圭吾さんの印象が変わる。他の2人も同じみたいだ。
「昔話は、おしまい。これを見てくれ」
ケースの中でテンペストの中が露出し、プリント基盤が見える。その中で大きな部品が1つ割れているのが目に入る。
「これが『魔石』だ。ビーストを倒すと出てくるものを加工したものだ。魔力を一気に使い過ぎて過剰負荷がかかったようだね。この割れて微細な破片が万が一、俺や娘の肺に入るとたちまち魔力中毒になるだろう。ひょっとしたら、自然発生する魔力中毒者も空気中に漂う微細な魔石の破片を吸い込んでいるかもしれない。と言うのが俺の仮説だ」
それでガラスケースに入れられて、ロボットアームで分解しているのかと納得する。
圭吾さんが分解の様子をじっと見つめていた。




