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魔法少女はおむつが必要だなんて聞いてません!  作者: 062
第4章「魔法少女ワールドカップ編」

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第75話「ビギナーの部、1回戦」

「ビギナーの部はエキスパートと違って、1対1(タイマン)なのよね」


マリ理事長がこぼすように呟いた。


「しかも、相手は『連合王国』、『魔法の中心』じゃない!」


徐々にボリュームが大きくなる。

でも、まぁ。


(勝って欲しいと思っているのだな)


そんな事を思ってしまう。


フィールドはタイムズ川河口、シーランド砲台跡。


第2次世界大戦の遺構で赤錆びた鉄脚が潮風に軋み、無人の砲台にはカモメだけが見張りを続けていた。かつて敵機を睨んだ砲座は、今ではMetuber(ミーチューバー)とドローン撮影の遊び場になっている。


私達はロイヤル=エルバード・ホールでモニター観戦している。


♦︎♦︎♦︎


『ブリダンの鼻摘み者』。

ママはそう呼ばれていた。12歳になったからわかる、ママは『コールガール』だった。


——だから、わたしのパパは誰か知らない。


小銭が増えるほど酒の量も増え、

酒が増えるほど暴力も増えた。


叩かれても、蹴られても、

「わたしのために働いてるんだ」と信じていた。信じなきゃ、生きていけなかった。


でも——あの日。


ママはわたしの首に手をかけた。

ぐいと、力いっぱい。

視界が真っ暗になり、音が遠ざかった。


怖くて、苦しくて、

「ママを嫌いになりたくない」と泣いたら——


なぜか、ママがいなくなっていた。


床は黒焦げ。

カーテンの花柄は炭で真っ黒に溶け、ママは形がわからないものになって倒れていた。


わたしは泣き続けた。

怖くて、哀しくて、でも少しだけ——楽になった自分が嫌だった。


警察はわたしを拘束した。

裁判はあったけど、判決はなかった。

だって『魔法少女』になるなら、罪は問われないから。


ーーー


それが2ヶ月前。

ジャパンの魔法少女は砲台跡の鉄筋に佇んでいた。わたしと違って、幸せそうに微笑む子だなぁと思った。


(全て焼いてしまおう!)


その黒いのにツヤツヤと輝く髪も!不幸なんて知らないような微笑みを称えるその顔も!


運営側の魔女が試合開始を告げる。


「『フル・バースト』!」


最大火力。「殺してはいけない」なんてルール、知らない。


わたしの攻撃は、わたしの意思に反して彼女に届かない。ガラス板のような透明なものが火炎を阻む。


それに気づいて、魔法を止める。


次の瞬間、ガラス板のようなものはグニャリと曲がり、わたしをシャボン玉のように包む。


慌てて火炎を出そうとするが、狭い球体の中、こちらが火傷しそうになる。


「これでエリア外に出せばいいですか?」


相手の声がわたしに届く。正確には審判の魔女に質問していると言った方が正解だろうけど。


「そうだが、これはなんという魔法だい?」

「『イージスの盾』といいます」

「そうか。維持するのもビギナーでは大変だろう。あそこの河口がエリア外となる。早くするといい」

「ありがとうございます」


その瞬間、わたしを乗せた『イージスの盾』は凄いスピードで河口に向かう。だが、それも一瞬で、次の1秒には魔法は消えてなくなっていた。スピードはそのままに。


河口はすぐそこに迫り、スピードは落ちていない。


風が寒さをはらんで切るように痛い。

逆に下半身は温かいものが広がる。

羞恥心なんて、死を目前の状況ではゴミだ。


刹那。


ゆっくりとわたしの身体は何かに掴まれたように減速していく。


「アシュリン=オサリヴァン。フィールド・アウト!勝者、ニシダ=マコト!」


対戦相手がそんな名前だった事に初めて気づいた。そして、『助けられた』事も。


「大丈夫でした?私の『魔法』が先にエリア外に出ちゃうと、『私の負け』かもって思っちゃって……」


ふわりとこちらに近づいてそんな事をマコトは言う。


(完敗だわ。状況判断も魔法も何もかも敵わない)


「あは、あははっは!」


そう思うと笑えてくる。笑ったのなんて何年ぶりだろう。不思議と嫌な気分ではない。


「それとこれ。怖かったんでしょ?ごめんね」


そういって渡されたのは、日本製の紙おむつだった。

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