第10話「進化と成長」
『台風16号の接近により、箱根近辺に線状降水帯が発生。国道1号が土砂崩れにより複数箇所で寸断。孤立者多数と報告あり。なお、暴風によりヘリが飛べず、警察・消防・自衛隊による救出は困難とのこと、山岡龍馬国家公安委員長より、魔法少女に協力要請を入電』
『統括管理者を拝命しました、水田マリです。関東圏の全魔法少女を投入。各自、救出を実行せよ。なお、スプリングの辻あやめ、オータムの永野都、ウインターの小野美冬は拠点である旧湯本小学校にて救助者の記憶消去を実行せよ』
私、14歳なんですけど?こんな台風の中で働かされるなんて!
魔法少女になって1ヶ月。これが2回目の出動だった。さっきは嘆いてみたけど、魔力中毒者やビーストを倒すよりマシ。だって人命救助だもん。誰かを幸せにする仕事だよね。
『フェイズ1、開始。藤原さくら、古畑ほのかの両名は土砂崩れ箇所の凍結を開始。残った人員は要救助者の人数把握作業を進めて』
マリさんの指示に合わせて土砂崩れ部分を凍結していく、これでこれ以上崩れて2次被害は起こらないはずだ。近くでワカバちゃんが救助者を数えている。
「スプリング、ワカバより本部。小涌谷付近に観光バスが2台、救助者は70名前後!」
ここには私達、2人の魔法少女しかいない。約10キロの区間で活動するのでざっくりと3エリアに分かれているからだ。
その時だった。1人の幼い男の子が私の凍結させた斜面を少し登って、滑って降りて遊んでいる。これって!
「ワカバちゃん、氷って出せる?」
「出せないよ、水だけだ!」
と少し怒ったように答えるワカバちゃん。
「でも、氷って水だよ?量をX軸としたら、Y軸で温度って感じ?」
「そうか・・・あ!」
何かを掴んだようにワカバちゃんが表情を変える。
「アイスキューブ」
!
冷蔵庫に入っていそうな氷が1つワカバちゃんの手のひらの上に現れた。
「できた!」
ワカバちゃんは笑顔で喜んでいる。
「私が凍結させた斜面の上に、それを出してほしいんだ」
「何を・・・そういう事か!了解!」
私と同じく男の子を見たワカバちゃんが私の言いたい事がわかったらしい。
「スプリング、さくらです。芦ノ湖側の凍結完了。なお、凍結箇所の一部をスロープ。いえ、スライダー状に加工しています。これで小涌谷から大平台まで魔法少女なしでの輸送が可能です」
ワカバちゃんが出した氷を炎の魔法でU字に削って滑り台にした。雨のおかげでウォータースライダーになるはずだ。
『本部より全員へ。聞いたわね。溶けるまでの30分で全員下ろすわよ!』
子どもは喜んで滑っていく。お年寄りの一部は怖がったがホウキで連れて行こうとすると、意を決して滑っていった。「ありがとう」と言ってくれる人がいる。けれど、その記憶は消されてしまうだろう。
でもいいのだ。『仕事』なのだから。
♦︎♦︎♦︎
「大活躍だったねさくらちゃん達!」
あやめちゃんが帰るなり言った。
「ホント、最初は何人か間に合わないかと思ったもん」
ワカバちゃんまで褒めてくる。何だかくすぐったい。
私達は今、箱根の温泉旅館にいる。さすがに台風の暴風の中、ホウキで寮に帰るのは不可能だし、旅館も台風で予約客のキャンセルが相次ぎ、部屋も食材も余っているらしい。チーム別に1部屋ずつ割り当てられて、宿泊する事になった。何だか修学旅行みたいだ。しかも、部屋に温泉がついていて、雨に濡れた身体を温めている。
「失礼するよ」
そう言って寮母のはずのムツミさんが部屋に入ってきた。
「お、温泉に早速入ってるんだ。いいね。着替えとおむつを置いておくよ。宿に悪いから今晩は全員テープの方で寝るんだよ。それとおねしょシーツも3枚ね。全員布団を汚さないように」
「「「はーい」」」
全員で声を揃えて返事する。そして、ふと気がつく。
(この3人でいるのが当たり前になってる!)
「あっつい!もうダメ!わたし先に上がるね!」
ワカバちゃんが言う。
「私も」
あやめちゃんも立ち上がる。
2人ともタオルで身体を隠したりしない。
まるで家族のように。
♦︎♦︎♦︎
同じ頃、別の部屋。
『いいわね!温泉』
「ゆりあちゃんも来れば?」
水田マリはスマホをスピーカーモードにして、温泉に浸かっている。この2人は同時期に同じチームだったので今でも仲がいい。
『それで報告とは?』
「ああ、ちょっとした発見があったの。水系の魔法少女が氷を出したの」
『『シングル』から『デュアル』に進化したって事?』
電話の向こうで困惑しているのがわかる。マリとゆりあはその程度に長い付き合いなのだ。
「彼女の話だと、水を出す時の量を調整するのがX軸、それに温度というY軸をイメージに加えただけ、らしいわ」
『あ!なるほど!氷も水だからね』
「そう。前田優子医師の研究だと、これにZ軸を加えたものが『マルチスキル』ではないかって話だった」
『って事は、当然、『あの子』が絡んでいるのよね?』
「ええ、さくらちゃんの発案よ。彼女もまた『天才』ね。感覚肌だけど。『理論の怪物』夏樹ちゃんと組ませたら、面白そう」
『それはダメよ。私達の手に負えなくなるわ!』
珍しく、佐藤ゆりあが焦りを隠さずに言った。




