第1話「はじめての魔法」
『落第女子高生、幼稚園児はじめました』を書いている時、「おむつ」×「魔法少女」って設定を思いついて試しに書いたら、10話程できました。とりあえず公開してみます。
修学旅行。
それは中学二年生にとって、いやそれまでの人生でいちばん楽しいイベントかもしれない。
「さっくーらー!早く早く!写真撮るよ!」
東京都庁をバックに、友達の「のあ」がスマホを構える。
私は、リュックの肩ひもを直しながら駆け寄った。
「ふふっ、東京って、思ったより……空が狭いっ!」
周囲の新宿の高層ビルに囲まれて、空は細く、遠かった。
でも、何か新しいことが始まりそうな、そんな気がした。
──その直後だった。
「……っ!?」
振り返った一瞬、私の目に映ったのは、見慣れた顔──小学校の頃から仲の良かった幼馴染、椎葉ユウ君だった。
けれど──彼の周囲には、異様な“黒い霧”が立ちこめていた。
空気が重くなり、周囲の音が遠ざかる。
ユウ君の表情はうつろで、口元から黒い息のようなものが漏れていた。
不思議だったのは周囲は誰一人としてユウの異変に気がついていない事。
「ちょ、ちょっと待って、ユウ君!?どうしたの!?」
近寄ろうとしたそのとき。
「止まりなさい、あなたでは今は無理よ」
小さな声がして、私の前にぬっと現れたのは──
まるで小学生のような少女。けれど、その目には凍るような冷たさと知性があった。
「誰……?いや、ニュースで見た事ある顔!」
「佐藤ゆりあ。文部科学大臣。──この国で、最も多くの魔法少女を統治する者よ」
言葉の意味が、私の中でひとつも繋がらなかった。
けれど、ゆりあ大臣は淡々と手首のバンド──スマートウォッチを外して、差し出した。
「あなたには素質がある。あの男の子の変化に気がついたのだから。あれは魔力を体内に貯め込んだ状態。『魔力中毒者』だ。放っておくと『ビースト』になる。これは『テンペスト』。装着しなさい」
「えっ、ちょ、ちょっと待って!?私、なんの訓練もしてないし、魔法とか──」
「うるさいわね。……いいから着けなさい。時間がないの」
──カチッ。
反射的にテンペストを着けた瞬間、バンドがぴたりと吸いつく。
そして、脳内に直接流れ込む『感覚』。
「えっ……なにこれ……体が、熱い……!」
次の瞬間、さくらの体を蒸気が包んだ。
制服のまま、何かが『上書き』されていく感覚。
髪が風に浮かび、視界が淡いピンクに染まる。
「これが、魔法少女……!」
背中に冷たい汗。けれど、手のひらには確かに、力が宿っていた。
──でも、初めての魔法は暴走の連続だった。
火を出せば案の定、ベンチが焦げ、
水を出せばコンクリートの地面を割り、
空を飛べば飛行機と衝突しそうになった。
「なんで!?火って言ってない!水!?どっち!?どこ!?」
「うるさい。魔力が多すぎるのよ、あなた……!焦点を、絞りなさい!」
ゆりあの声に導かれ、
さくらはユウに手を伸ばした。
呪文は聞かなくてもわかった。
「『浄化』!」
彼の胸元に手のひらを当て、テンペストが共鳴する。
余剰魔力が水蒸気のように昇華し、霧が晴れていく。
「……ユウ君!」
ユウ君は倒れ込むようにその場に座り込み、やがて意識を取り戻した。
私の顔を見て、困ったように笑った。
「……さくら……なんか、夢見てたみたいだ……」
「うん……うん、よかった……!」
それが、私の魔法少女としての最初の戦いだった。
しかし。
「さくら、俺から離れろ!」
「え?どうして?」
「いいから!また何かが弾けて、お前を傷つけたくないんだよ!」
そう言って、ユウ君はその場を離れた。
⸻
「さくらー!どこ行ってたのー!?ずっと集合場所にいなかったよー!」
「え、えっと、ごめんごめん!ちょっと、迷子になってた。っていうか、ビル、高くなかった!?」
──そして、問題はその後だった。
帰ってきたクラスの中、椅子に腰かけた私はは、ほんの一瞬、嫌な感覚に眉をしかめた。
じわ……っ。
(──うそ……でしょ……?)
気づかないふりをして座り直す。
けれど、制服のスカートの裏地が、その中にあるショーツも少しだけ湿っていた。
テンペストのディスプレイが、膝の上でちらりと光った。
〈体内水分量:通常域 → 高〉
「……え、さっきまで『通常』だったのに……?」
胸の奥がざわつく。まるで、さっきの戦いのせいで体の中が勝手に変わっていくみたいで。
同じ頃。
文部科学大臣、佐藤ゆりあは車の中にいた。
「有資格者が現れたわ。『テンペスト』を渡しているから、戦闘ログを確認してね」
少し沈黙が流れる。すぐにデータを確認していると音でわかる程、2人の付き合いは長い。
『このデータってバグ?それとも精神感応系?』
「わからないわ。でも可能性だけなら『マルチスキル』の可能性もあるわ。私の目の前で火と水、音も使っていたわ。こっちで預かるべきね」
『まーたー、無茶振りすぎるよ、ゆりあちゃん!』
憤りながらも『できない』と言わないのが小田マリが佐藤ゆりあの右腕たるゆえんだ。
『……学校側には『突発的な発症』として処理する。家族には……まぁ、いつも通りで』
「ごめんって、でも入学手続きお願いねマリちゃん。」
『『長田洋子の再来』かもしれない少女でしょ?絶対、他には渡さないわよ!』
そう言って電話が切れた。
1時間後にはマリからいつも通りに準備が終わったと報告が入った。
その報告書には、藤原さくらという名前はもうどこにも存在しなかった。
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