【なろう小噺】転生者の俺はやがて冒険者ランクを駆け上がる
俺はチート授けられ、異世界に転生した。ここで冒険者として成り上がってやるぜ。だが転生者だけを陥れるための、恐るべき罠が仕掛けられているのだった。異世界転生に潜むコロニアリズム、差別主義、帝国主義的な文化侵略を問うたり、問わなかったりみたいな。
前略、異世界転生しました。
もらったチートスキルは【剣聖】と【大魔道】。せっかくの異世界、存分に楽しませてもらおう。
めざせ、成り上がり! まずは冒険者ギルドに登録するところから始めなきゃな。
どうやら冒険者には、それなりの責任が求められるらしい。暴力を振るう立場なのだ。それも当然か。
ともかくは実力がないといけない。実力を証明するには、というわけで俺は試験を受けることとなった。
冒険者試験は一年に一回。ちょうど、今日が受け付けだという。ラッキーだ。
試験者は数十人。噂話に聞き耳を立てるに、剣道場の弟子や、魔法学園の卒業生など、既にそれなりの実力者揃いだという。
だが試験はそれより厳しかった。まずは実技試験。剣技も魔法も、専門の教官との試合形式だ。傍目にも強そうな奴が、次々に落第になってゆく。
俺はもちろん完璧。超剣技と超魔術を披露してやった。
あまりのレベルの高さに驚いて、偉いさんが見学に来るくらいだ。
チートスキル様々だな。
ラストに座学とペーパーテスト。簡単な計算に、読み書きがあれば充分だという。
異世界転生する際の特典として、読み書きくらいはできるようになっている。
しかも俺はもともと日本の高校生。高等教育まで受けている。足し算引き算に九九割り算ていど、さすがに楽勝だ。
社会制度や法律も、普通の常識レベルで、座学で何とかなった。
ここまで来ると試験者は半分以下にまで減っている。そして俺は周囲から、尊敬のまなざしを集めるようになっていた。
そして最後の座学が始まる。
「では皆さん、最後に覚えてもらうのは冒険者のランクです。この後のテストで全てのランクを書ければ合格となります」
途端に緩む空気。なあんだ、常識じゃないか、みたいな。
冒険者ランクって、アレだろ。金、銀、銅みたいな。もしくはABCDとか。
始まった。待って、口伝てだけで、板書はないの?
「E級、D級、C級、B級、A級……」
ああ、ランクといってもアルファベットの方だったか。楽勝、楽勝。
だが俺は驚くこととなる。この後もランクは続いた。
「O級、U級、P級、FW級……」
えっ、なにそれ。
「石、鉄、銅、銀、金……」
アルファベットだけで終わりじゃないのかよ。
いや、まだお約束の範疇だ。まだ分かる。
「火、水、風、月、砂……」
今度は四大エレメントと思わせて、外してきやがったか。
しかも、続くのかよ。多くね?
だが周囲の反応を見るに「神話に出てくるよねー」などと、軽く私語なんてしてる。
そうか、これはお馴染みなのか。
「ウルフ、トロール、ドラゴン、ゴブリン、河童……」
なぜドラゴンの後にゴブリンだよ。強さ順じゃないのかよ。なぜ、そこに入る。
いや、その前に河童てどういうことだ。この世界にはいるのか、河童。
「ワイバーン、聖剣エクスカリバー、大波、ポーション、光、闇、フレッシュフルーツ、緑色、肩甲骨、秋の夕暮れ……」
多い多い多い。
あと、モンスターならモンスター、物なら物とまとめろ。ジャンル別にしろ。余計に覚えにくいだろ。
「寿限無寿限無のホイサッサー」
あっ、わかった。これ他の転生者の仕業だ。過去の転生者が、未来の転生者に向けて、わざと仕込んだだろ。完全に嫌がらせだ。
ふざけてる。
「ミスリル、オリハルコン、そして最後はS級。ここまでが試験範囲となります」
最後はS級に戻るんかい。
こうしている間にも俺の暗記力はフル回転していた。頼む、記憶がこぼれる前に早く試験をしてくれ。
「ですが実はS級の上に、まだあるんです」
苦悶している俺と対比的に、試験者たちは好奇心に満ちた表情になる。
どうせSSとか、Sレアとかだろ。勘弁してくれ。
「それはね、ドS級です」
噴き出すのを我慢できただけ、偉いぞ俺。
代わりに、あ、何個か忘れた。
「へー、ドSなんてランクあるんだ-」という、周囲の余裕ある笑顔が正気に見えなかった。
さらには他の試験者から「へー、実はドSなんてランクがあったんだ」「私もドSになりたいなあ」「あなたならなれそうだよね、ドS」などと話しかけられる。こんなことなら、尊敬の眼差しなんて集めたくなかった。
「ですが、ここからは冒険者となる皆さんだけの部外秘。実はさらに上、真の最上級。人の身でありながら、神にも等しい存在となった者にだけ与えられる冒険者ランクがあります。それは異世界において最強の称号……」
途端、真剣になる教官。一体どんなランクがあるのかと、固唾を飲む試験者たち。
「……横綱です」
脳内にお相撲さんがズドーンと落ちてくる。
ずっと我慢できていたというのに、とうとう俺は噴き出した。暗記は全て吹っ飛ぶ。
いきなり、むせ込みだした俺を心配する皆さん。混乱のまま始まるペーパーテスト。
俺は当然のように落ちた。
未だに、忘れられない。テストに落ちた瞬間の、「えっ、こんな常識も知らないの?」という残念な子を見るような目線が。
正直、異文化をナメていた。
スキルがあれば大丈夫だと。言葉が分かっても、この世界のことを理解していなければ、そりゃ通用するわけがないよな。
まさしく常識がないのだから。
再テストは来年だ。……肉体労働のバイトでもして食いつなごう。
異世界転生したらからには、もうずっと、この世界で食ってゆかねばならないのだ。今度こそ冒険者になり、手に職を付けなければ。
でもドSや横綱は嫌だな。