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03:初の仕事(尾行付き)

 


 冒険者の活動スタイルは様々だ。

 依頼受領から完了まで一貫して一人で行う者も居れば、その時その時で人員を集めて仕事をこなしては解散する者もいる。基本は一人だが美味しい仕事があれば他所のパーティーに混ざるのも有りだ。

 もちろん固定パーティーで行動する者達も少なくない。

 仕事の幅は広く、それでいてこうという決まりはない。ゆえに誰もが好きなスタイルで活動できるのがこの仕事の魅力の一つである。


 マーゴットは冒険者登録をした時から、むしろ冒険者になると決めた時から、ルリアとドニと組むと決めていた。

 彼等も賛同し、一年早く冒険者登録を済ませていたが本格的な活動はせずにマーゴットを待っていてくれた。




「二人とも、待たせちゃってごめんね」


 そうマーゴットが改めて詫びたのは、清らかな空気が満ちる森の中。


 簡単な依頼から始めようと考え薬草採取を選び、依頼受領の手続きをしている最中にタイミング良くドニもギルドに現れた。三人揃ったのならさっそくと出発し、採取場所である森に辿り着いて今に至る。

 依頼内容は森の中に入って指定の薬草を採取し納品するだけだ。納品も、今回はギルド長に渡すだけで済む。

 薬草が見つけにくいのと保管に特別な知識と手法を要するものの、ギルドの依頼の中では簡単な部類に入る。そういった依頼は総じて報酬が低いのだが、これといって金に困っているわけではないので初心者のマーゴットには最適だ。


 そんな依頼の最中、森の中を歩いている時に詫びれば、ルリアとドニが穏やかに笑った。


「いつも一緒って約束したでしょ、一年なんて余裕で待てるわ。それに、あのエヴァルト様の事だからあと三年ぐらいは掛かると思ってたし」

「ルリア、ありがとう。でもさすがにあと三年は待たせないわ」

「俺はあと五年は掛かると思って、もう一つ別の仕事を始めようとしてた」

「ドニまで……」


 待たせてしまったと思っていたが、どうやら二人はもっと待つ覚悟をしていたようだ。

 はたしてそれに感謝をして良いのか、それとも「そこまで待たせないわ」と呆れれば良いのか。もしくはそこまで待たせると思われている師の執念深さを問題視すればいいのか。なんとも言えないところである。

 だがなんにせよ、今日からは三人で冒険者として活動するのだ。そう考えればマーゴットの胸にやる気が舞い戻り「三人で頑張りましょう!」と改めて二人に告げた。


 これにはルリアとドニも頷いて返してくれる。

 彼等もまた瞳には期待の色を宿しており、マーゴットの言葉に同意を示した。


 ……もっとも、


「三人で……、まぁ、三人と言えば三人と言えるわね。依頼を受けたのは私達三人なわけだし」

「とりあえず三人って考えた方が良さそうだな。むしろ気付いてる素振りもしちゃいけないのかもしれない」


 そうルリアとドニが話す。

 彼等の話にマーゴットは僅かに言葉を詰まらせ、次いで溜息と共に肩を落とした。「ごめんね」という謝罪の声には我ながら疲労の色が漂っている。

 次の瞬間、マーゴットはバッと勢いよく背後を振り返った。

 今まで歩いてきた道。草木が茂っており、一応の道こそあるものの補整されているとまでは言えない。そんな森の中、マーゴットが振り返った瞬間に何かがサッと木の影に隠れた。


 何かが自分達の後をつけてきている。


 何か。

 否、誰か……。


 ……考え、マーゴットはもう一度溜息を吐いた。


「今思い返せば『家で待っていて』って言わなかった時点でこうなることは予想できたのよね。私ってば登録カードを受け取ったのが嬉しくてうっかりしていたわ。……とりあえず今回は帰ってもらって、後で話し合うわね」


 ちょっと待ってて、と二人に告げて、マーゴットは来た道を戻った。

 大股でノシノシと歩いてしまうのは些かはしたないが、これは気持ちの現れだ。

 そうして先程人影が隠れた木の前で足を止めた。まだそこに居る人物の姿は見えていないが、自分が暴くよりも本人に姿を現させなくてはと考えての事である。

 もっとも、見慣れた洋服の裾が木の影から見えてしまっているのだが。はたしてこれは彼のうっかりか、それとも居るという事のアピールなのか。


「お師匠様、隠れたって無駄ですよ。確かに見守ってくださいて言ったけど、こんな至近距離で見守るなんて、……っ!?」


 一瞬ぶわと強い風が舞い上がり、マーゴットは言葉を詰まらせた。反射的に目を瞑ってしまう。

 そうして風が収まるのと同時に目を開け……、「いない!?」と思わず声をあげてしまった。

 木の影にいたはずのエヴァルトの姿が無いのだ。木をぐるりと一周し、更に周辺を見回して確認をしても居ない。

 まるで忽然と消えたかのように……、というより実際に消えたのだ。魔法を使って。


「お師匠様、どこに行ったんですか! 姿を消したって付いてきてることは分かってるんですからね!」


 エヴァルトの姿が見えないので四方八方を向いてマーゴットが喚く。

 きっとエヴァルトは聞いているはずだ。だが居るのは分かっても姿は見えない。目を凝らしたって見えないし、試しにと草や土を周囲にばらまいてもどこに居るか分からない。

 これほど完成度の高い魔法は並の魔導師では使えない。さすが国家魔導師。それもエヴァルトは世界に名の知れた魔導師なのだ。

 今はまったく褒める気にはならないけれど。


 これにはマーゴットもムムムと眉根を寄せ……、


「……大人しく帰ってくれないなら、お夕飯は作りません」


 と、最終手段を放った。

 瞬間、何もないはずの一角がピシリと張り詰めた気がする。


 そこで誰かがたじろいでいるような気配を感じ、マーゴットはその一点をじっと睨みつけた。じっと、まるでそこに誰かが……、というよりここまで後を付いてきて今なお姿を消して尾行を続けようとしている師が居るかのように。

 そうして睨み続けることしばらく、何もない空間から「そんなに怒らないでくれ」という声が返ってきた。言わずもがなエヴァルトの声である。

 次いでマーゴットの頬に何かが触れた。優しくくすぐるように触れてくる。これはきっとエヴァルトの手だ。

 その手がゆっくりと離れていく。相変わらず何もない空間だが、目の前でふっと何かが動いて去っていったように感じた。「気を付けるんだよ」という言葉は穏やかで優しい。


「もう、お師匠様ってば心配性なんだから」


 まったく、とマーゴットが小さく息を吐いた。

 もっとも本気で怒っているわけではない。エヴァルトがここまで付いてきたのはマーゴットが心配だからで、ちょっと師としての責任感が行き過ぎているだけだ。――ひとはそれを過保護と言うが――


「ごめんね、ルリア、ドニ。さぁ気を取り直していきましょう!」


 気分を改め、マーゴットは待っている二人のもとへと足早に戻っていった。



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