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23:壊滅状態の家とお掃除フォルム

 


 翌朝、マーゴットはアーサーの家へと向かった。

 前日に約束をした掃除のためである。ギルドの依頼ではないがこれはこれでやる気が胸に湧く。掃除は嫌いではないし、アーサーには色々と世話になっているのでこれも恩返しになるだろう。

 なにより、これから挑む家はやる気を出しておかないと心が折れてしまうからだ。


 アーサーの家はとある町の外れにある。マーゴット達が暮らす町マレールよりは栄えているが、さりとて胸を張って都会と言える程ではない、そんな町だ。

 馬車に乗ってのんびり揺られて十五分程度。その間景色が劇的に変わることなく『長閑な景色』から『ちょっとだけ建物が増えた長閑な景色』に変わっていくだけである。そもそも馬車に乗らずとも歩いても行ける距離なのだ。

 そんな町の外れにある家屋の玄関に立ち、マーゴットは気合いを新たに扉を叩いた。コンコン、と軽く二回、すぐに扉が開かれた。


「おはよ、えっ……!? あ、あれ……。おはよっ、はじめまっ、おはようございます!?」


 思わずマーゴットは混乱して間の抜けた声をあげてしまった。

 姿を現したのは見覚えのない男性。年は三十歳半ばだろうか。立派な装いをしており、一目で相応の立場の人物だと分かる。

 思いも寄らぬ人物の登場にマーゴットはぱちくりと目を瞬かせ、それだけでは足りないとあたふたと慌ててしまった。

 てっきりルリアかドニが「援軍が来た!」と出迎えてくれるか、アーサーが「嬢ちゃん悪いな、よろしく」と出迎えてくれるかと思っていたのに……。


「あ、あの……、ここはアーサー様のお家じゃ……。あ、でも家の中が汚い。玄関から既に物が散乱してる。ということは、ここは間違いなくアーサー様のお家ですね。良かった、家を間違えたのかと思っちゃった。安心の汚さ」

「そこで安心するのはどうかと思いますが……。ですがここはアーサー様の家で間違いありません。貴女はマーゴットですか?」

「はい。今日はお掃除に来ました」


 ひとまず来訪の目的を説明すれば、玄関に立つ男もまた返すように自己紹介をした。

 国の警備隊に所属し、隊長を勤めているという。名前はスカイ。隊長という身分にマーゴットは思わず背筋を正してしまった。


「そんな偉い方がどうしてこんな場所に? ……いえ、アーサー様の実力を考えればおかしくない話ではあるんですが、どうしてこんな酷く荒れた場所に?」


 玄関に散乱する物の中から重要そうなものをひょいひょいと拾いながらマーゴットが問えば、スカイが「それが」と言い難そうに喋り出した。

 曰く、どうしても今日中にアーサーに提出してもらいたい書類があり、その催促に来たのだという。だがいざアーサーの家に来てみると家の中は酷い有様で、更にはアーサーの弟子と弟子の仲間が今から掃除をするという。

 どうして良いか分からず、それでも通された一室で待っていると玄関の扉が叩かれ、出るように頼まれたので応じた……と。


「なるほど。でもどうしてスカイ様が出迎えてくれたんですか? ドニとルリアは?」

「それが……。二人はアーサー様の執務室を掃除していたんですが、荷物の雪崩が起きて部屋から出られなくなってしまったんです」

「よくある事です。この前は私が動けなくなったんですよ。足元が妙にキラキラしてるなって思ってたら希少な砂が散乱してて、踏むわけにもいかず三十分、歩く事はおろか碌に座れず中腰で砂を拾い続けたんです」

「そ、そうですか……。それは大変でしたね」


 スカイの口調は上擦っており、現状と、そしてマーゴットの話に引いているのが分かる。

 だがそれも仕方あるまい。それほどにアーサーの家は物が散乱しているのだ。ゴミはきちんと捨てており飲食物はため込んでいないため不衛生とまでは言わないが、本と書類、そしてなにより剣や弓といった武器があちこちに置かれている。


 アーサーは剣士として働く反面、自ら武器を作り改良や研究もし、そしてコレクターな一面もあってあちこちから買い付けている。だが集めるだけ集めて調査や改良に満足すると、その後は適当に放置してしまうのだ。

 結果、物が溢れてしまう。

 調べたい武器・改良中の武器・飾りたい武器・調べ終えた武器・改良を終えた武器……、それらと資料、日常品、仕事に関するものが綯い交ぜになってこの有様である。


 それを説明していると、一室からひょことルリアとドニが顔を出してきた。


「おはようマーゴット。今日も頑張りましょうね」

「スカイ様、とっさに頼んじゃってすみません。書類が見つかるまで俺の部屋で待っていてください。この家の中で『俺の部屋』と書いて『唯一無事な部屋』と読むんで」

「そういえば、今回も発掘したお金と貴金属は報酬にしちゃって良いって。とりあえずお金と売れそうな物はこのバケツに入れていきましょう。依頼じゃないとはいえガッツリ稼ぐわよ!!」

「スカイ様、少し部屋で待っていてください。すぐにお茶を用意します。……いまは流し場から弓が突き抜けてるわけの分からない状況ですが、すぐに片付けますんで。あ、飲み物に関しては心配いりませんよ。師匠もさすがに飲食物に関しては気をつけてるんで」


 ルリアとドニがあれこれと話し、かと思えば返事も聞かずに各々の役割へと戻っていく。

 マーゴットにとっては慣れた光景ではあるのだが、スカイには何から何まで未知の領域なのだろう。――アーサーの家の荒れ具合も含めて――。彼はどうして良いのか分からず「お気遣い無く……」と上擦った声で返してきた。

 そんな彼を横目に、マーゴットは持っていた鞄から掃除道具を取り出し、そして最後にパッと手を上げた。何をするのかとスカイが不思議そうに眺めてくる。


「マーゴット、変身!!」

「変身!?」


 マーゴットの威勢の良い声と共に周囲が眩く光りはじめる。

「こ、これは……!?」という驚愕の声はスカイのものだ。眩さに目を細め、だが何が起こるのか知ろうと眩しさに負けじと薄っすらと目を開けて輝くマーゴットの様子を窺ってくる。


 そうして光が収まると、そこに居たのは勿論変わらずマーゴットである。


 詳しく言うのなら、ピンクのエプロンと同じ色合いの三角巾を頭に装着しているマーゴットである。

 片手にはハタキも持っている。


「マーゴットお掃除フォルム!」


 ドヤッならぬモフッとマーゴットが得意げに声をあげた。

 これを見てルリアとドニは長閑に拍手を送りながら「やっぱりこれを見ないとね」「まだモフモフ言ってるんだな」と平然としたものだ。一室の扉からひょいと顔を出したアーサーも同様、驚くことも何も無く「マーゴットの嬢ちゃん来たのか、よろしくな」と告げるだけで部屋に引っ込んでいった。

 唯一、スカイだけは頬を引きつらせている。


「……き、気合いが感じられる姿ですね」

「これをやるか否かでやる気が変わるんです! さぁお掃除! スカイ様、他にも提出する書類があれば仰ってください。優先的に発掘しますから!」

「それは有難いですね。実は他にも出して頂きたいものがあるのでお願いします」


 あれとこれと……、と書類をあげてくるスカイに、お掃除フォルムのマーゴットは気合いたっぷりに「任せてください!」と己の胸を叩いて返した。



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