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18:新米トリオと師匠達

 


 焦らず確実に、出来る依頼からコツコツと。

 そう決めたおかげでマーゴット達は順調に依頼をこなしていた。

『まだ新米ではあるが安定している』というのがギルド長からの評価である。これは上々と考えていいだろう。

 もっとも相変わらずエヴァルトが依頼に付いてくるため、『三人で依頼を成功』というマーゴットの目標はいまだ叶っていないのだが……。



 ◆◆◆



「今日こそ、今日こそよ……」


 ぶつぶつと呟きながらマーゴットが歩いていると、左右に居るルリアとドニが「また始まった」と言いたげな表情を浮かべた。


「マーゴット、またつっかえ棒でも仕掛けてきたの?」

「えぇ、仕掛けてきたわ。今度はお師匠様の部屋だけじゃない。玄関と窓にも仕掛けたわ」

「つっかえ屋敷ね。でも無理にエヴァルト様を置いていくことないんじゃない? エヴァルト様は見守るだけで魔法を使ったり手を出してもこないし、それに報酬だって三分割で良いって言ってくれるのよ」


 だからとルリアが宥めればドニが「そうだよ」と続いた。


「同行するって言ってもマーゴットの実力を信じてないわけじゃないんだし、むきになる事ないだろ。エヴァルト様が居ても自分達は立派な冒険者なんだってどんと構えていれば良いさ」

「師に付き纏われる弟子の気持ちも知らずに、簡単に言ってくれるわね……」


 恨みがましくマーゴットが唸る。

 それを聞きながら、ルリアとドニはまるで我が儘を言う子供を前にしたかのように肩を竦めた。




 そんな話をしながらギルドに入ると、待っていましたと言わんばかりにギルド長が声を掛けてきた。


「マーゴット達ご指名で依頼がきてるぞ」

「買収反対!!」 

「いや今回は買収されたわけじゃない。正真正銘、最初から指名の依頼だ。それに今回はマーゴットだけじゃない」

「私だけじゃない? ルリアとドニもということですか?」


 エヴァルトが裏工作をする際はマーゴット単独で指名する。マーゴットが応じてくれるならルリアとドニが一緒でも構わない、というのが彼のスタンスだ。

 だが今回は最初から三人を指名しているのだという。これは初めての展開で、マーゴットよりもルリアとドニの方が驚いている。


「マーゴットだけを指名するとそろそろ本気で怒られると思って方向性を変えてきたのかしら?」

「私だけの時だって、私は本気で怒ってたのよ?」

「マーゴットは怒ってもあんまり迫力が無いからな。鉱石兎の保護以来もふもふ怒る癖がついてるし。まぁ今はマーゴットの怒り方より依頼内容だ。俺達三人を指名ってことはエヴァルト様じゃないのかもしれないぞ。前に受けた依頼主が再依頼を掛けてくれたとか」


 個人やパーティーを指名しての依頼というのは珍しいわけではない。

 熟練のパーティーや知名度の高い冒険者には指名依頼が多く、それだけで食べていける者達も少なくない。指名依頼が山のように来て数年先まで予定が埋まっている……、というのも稀に聞く話だ。

 もっともこれらは冒険者達の中でも上位の話。むしろ上位の更に上澄みの話だ。新米パーティーには夢のような話と言えるだろう。

 だが一度こなした依頼の依頼主がもう一度……、という話は新米でも珍しくない。

 誰が来るのかも分からない依頼を掛けるより、少しばかり指名料を取られても実績と面識のある者達に頼みたいというのは普通の事である。


「ほら、前に保護施設の依頼を受けたじゃない? 国の施設って固定の冒険者に頼むことが多いって聞くから、もしかしたらまた依頼をかけてくれたのかも」


 固定が着くかもと期待するルリアの言葉に当てられ、マーゴットの胸にも期待が湧いた。

 まだまだ自分達は新米だ。だが固定が着いてくれれば新米の中でも一歩進めるのではないか。


「そうとなれば失敗は出来ないわね。普段から手を抜く気は無いけど、今回は、いえ、今回も頑張らないと!」

「マーゴットの言う通りだな。指名に応えて次に繋げよう!」


 三人で気合を入れ直す。

 その光景をギルド長は「若さって良いな」と微笑まし気に見つめ、次いで受付嬢に奥の客室に居る依頼主を呼んでくるように頼んだ。どうやら依頼主は既にギルドで待っていたらしい。

 いったい誰なのか、どうして自分達を指名してくれたのか。

 そんな期待と疑問を胸に、マーゴット達は奥へと通じる廊下を見つめ……、


「ルリア、久しぶりね。元気にしてた?」

「よぉドニ坊、へましてないか?」

「可愛い俺のマーゴット、ギルドに居る姿も可愛いな」


 と、三者三葉の言葉で現れた三人組に目を丸くさせた。


 そしてそこから取ったマーゴット達の反応もまた三者三葉である。


「先生!」


 嬉しそうに声を弾ませ、女性に駆け寄るのはルリア。

 抱き着かんばかりに女性の元まで近付くと瞳を輝かせて「ギルドに来てたんですね!」と声を掛ける。頬を撫でられると気恥ずかしそうに、それでも嬉しいと言わんばかりに表情を綻ばせた。

 普段は落ち着いた態度で知識面を補うルリアだが、今だけは子供のようだ。

 それを見つめる女性の目は優しく、教え子が可愛いと言葉にせずとも物語っている。二人の姿はまるで仲が良く慕い合う姉妹である。



「げぇ、師匠!?」


 声をあげたのはドニ。微笑ましいルリアとは真逆の反応である。

 こちらは自ら近付きはしないが、師と呼ばれた男の方がドニへと近付いていった。……そして近付くなりドニの頬をむぎゅと抓る。

 久しぶりだと話す男の口調は意地の悪さが漂っており、頬を抓られ痛いと声をあげるドニは憐れの一言に尽きる。だがこれはこれで親しさが見て取れる。慕い合う姉妹とはまた違った、意地悪な兄と憐れな弟だ。



 そして最後は、


「今日もきっと来るんだろうなと思ってましたが、まさか来るんじゃなくて居るとは思いませんでした。どうやって私達より早くギルドに着いてたんですか?」


 もはやエヴァルトが居る事に関しては疑問も抱かないマーゴット。ここまでくると折られたであろうつっかえ棒に想いを馳せる余裕すらある。

 ちょこちょことエヴァルトに近付き、ふわふわと頭を撫でられながら問えば、エヴァルトが魔法を使ったのだと教えてくれた。

 曰く、目晦ましの魔法を使いマーゴットには己の姿を見えないようにし、走って追い抜いたのだという。魔法と持久力の合わせ技だ。そしてやっぱりつっかえ棒はへし折ったという。

 その話を聞き、マーゴットはふと家を出てすぐの事を思い出した。


「そういえば、歩いている時に何かがふわっと頭に触れた気がしたんですが、あれはお師匠様ですか?」

「横を走り抜けようとしたんだけど、道を歩くマーゴットが可愛くてつい頭を撫でてしまったんだ。その後に二人と合流してギルドに来て、依頼をして、奥の部屋でお茶をして待ってたんだよ」

「結構早く来ていたんですね。それで、今日はどうしてロゼリア様とアーサー様と一緒なんですか?」


 尋ねながら、マーゴットはルリア達の方へと視線を向けた。


「来るなら事前に言ってくれれば、先生が好きだって言ってくれたクッキーを焼いてきたのに。それに、この間マーゴットにアップルパイの焼き方も教わったんです。先生に会えるって分かっていたらパイも用意しました」

「ありがとうルリア、クッキーとパイは今度ご馳走してね。今日は貴女達の普段の姿を見たかったから黙っていたの。ギルドに入ってくる姿も様になって、もう立派な冒険者だわ」


 ルリアの頬を擽るように撫でながら優しく微笑むのは、ルリアの先生であるロゼリア。

 魔導師や剣士のような直接的な強さはないが、情報収集の能力や判断力、交渉術に長けており、現役時代はあちこちのパーティーから引っ張りだこの冒険者だったという。

 一つに結ばれた長い髪と銀縁眼鏡が落ち着きと知的な雰囲気を漂わせる麗しい女性だ。


「ドニ坊、お前が最近うちに来ないからまた家の中が散らかってるんだぞ。弟子を名乗るなら掃除にぐらい来いよ」

「もう散らかってるんですか!? 先月掃除に行ったじゃないですか!!」


 ドニに掃除を強いて悲鳴をあげさせているのは、彼の師であるアーサー。

 優れた体躯と短く切られた黒髪が逞しさを感じさせる男だ。剣の腕前では国内外問わず彼の右に出る者は居らず、国からは警備隊にと切望されているらしい。当人は右から左に聞き流しているようだが。


 そんな二組の師弟を眺め、次いでマーゴットは己の師を見上げた。

 弟子が自分を見てくれたことが嬉しいのか、エヴァルトが目を細めて表情を和らげた。


「昨日ロゼリアから連絡が来てね。国に提出する書類があるからそれを纏めて出しに行かないかって提案されたんだ」

「国に提出する書類ですか?」

「そう。国にとって重要な人物は一年に一度、自分達の現状や功績をまとめた書類を出さないといけないんだ。まったくもって面倒臭いんだけど、まぁ国一番どころか世界一とすら言われる魔導師だから仕方ないな」


 自画自賛しつつエヴァルトがうんうんと頷く。

 それをマーゴットは華麗にスルーし「それで」と話を続けた。


「その書類を私達に運ばせるためにギルドに依頼したんですか?」


 荷物の運搬依頼は珍しいものではない。人数が必要な大きな物や警備を必要とする高価な物、運搬する対象自体はさほど重要ではなくても長距離で依頼主が行けない……等々、運搬の依頼は様々だ。

 ならば今回は各々師から書類を受け取り指定された場所に運べば良いのか。そうマーゴットが問うも、エヴァルトが穏やかな微笑みのまま首を横に振った。


「凄く面倒なんだが、近況報告も求められてて直接行かないと駄目なんだ。国の重要人物に書類を書かせるうえに持ってこいとは横暴な話だよな」

「愚痴は良いので結論をお願いします」

「つれないなぁ。でもまぁ良いか。マーゴット達には書類を届けるまでの護衛と観光案内を依頼したいんだ」

「護衛と観光案内?」


 護衛と言われてもエヴァルト達はマーゴット達よりも強く聡明だ。そもそも師弟関係にあるのだから、弟子が師を護衛なんておかしな話ではないか。

 それに観光案内と言われても、エヴァルトが指定する町は初めて行く場所である。毎年書類提出のために訪れているエヴァルトの方が詳しいはずだ。


 それなのに護衛と観光案内……。

 なぜ、とマーゴットは考えを巡らせた。もっとも、考えを巡らせてすぐに答えが思い浮かんだので逡巡は数秒の事だったのだが。


「護衛という名目で私達を同行させて、提出が終わったら観光案内という名目で私達を連れまわすつもりですか?」

「正解。やはり俺の可愛いマーゴットは察しが良いなぁ。俺の考えを直ぐに分かってくれる」


 企みがばれたというのにエヴァルトは嬉しそうだ。

 そんな彼をちらと見て、マーゴットは今度はルリア達へと視線を向けた。

 師が依頼に同行しようとしている事に気付いたのか、彼等は困惑の色を強めて動揺している。さすがに断りは出来ないのだろうが「先生達なら三人で十分でしょう」だの「俺達が一緒に居ても逆に足手纏いになるから」だのと必死だ。

 その光景にマーゴットはふむと一度頷いた。


「お師匠様を怒るべきか、それとも今回は快諾してルリアとドニに日頃の私の気持ちを分からせるか……」

「悪だくみしてる顔だな、マーゴット」

「……決めました。お師匠様、護衛と観光案内は私達に任せてください! 私達が必ずやその依頼をこなしてみせます!!」

「悪だくみの方に心が動いたのか。そんな悪戯な性格も可愛いな」


 エヴァルトが愛でながら頭を撫でてくる。

 それを受けつつ、マーゴットはギルド長の元へと向かいささっと依頼書の受注欄に名前を書き込んだ。ギルドの登録カードを受付嬢に渡し、手続きをしてもらう。元よりマーゴット達指名で更に依頼主がこの場にいるのだから受領はあっというまだ。

 あっさりと手続きを完了させ、依頼開始である。

 ルリアとドニが勝手に手続きをしたマーゴットに不満を訴えてくるが、彼等の方を向いてにっこりと微笑んでやった。


「今回の依頼も三分割よ。問題ないでしょ、ねぇルリア」

「そ、それはそうだけど……」

「師に見守られていたとしても、自分達は立派だってどんと構えていればいいのよ。そうでしょ、ドニ」

「……うっ、それを言われると」


 過去の二人の言葉を引き合いに出してマーゴットが問えば、二人は何とも言えない表情で言葉を詰まらせ……、そして肩を落とすと了承した。



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