13:合同依頼
マーゴットの依頼に付いてこようとするエヴァルトは、まさに『あの手この手』だ。
尾行や偶然を装って合流するのはマシな方、時にはギルド長を買収し、時には依頼人に話をつけて難易度を跳ね上げさせて己の同行を正当化する。
どの依頼も全て成功させて報酬はしっかりと貰っているのだが、マーゴットが満足していないのは言うまでもない。
「だから今日こそ三人で依頼を成功させるの。お師匠様は抜きで!」
意気込むマーゴットの隣で、ルリアとドニが「そうねぇ」「そうだなぁ」と間延びした同意の声を返してきた。
二人はあまりエヴァルトの同行を問題視はしていない。むしろルリアに至ってはエヴァルトが居た方が仕事が楽に終わるから都合が良いとさえ考えていた。ドニも、何かあるとエヴァルトに絡まれている割には気にしている様子もない。
それもまたマーゴットの中で不満を募らせ、むぅと眉根を寄せて二人を睨みつけた。
もっとも睨んだところでどうにかなるわけでもない。それに今回は秘策がある、それを考えて不満げな顔を得意げな笑みに変えれば、気付いたルリアが「マーゴット?」と不思議そうに呼んできた。
「今日は絶対にお師匠様は付いてこられないわ。むしろギルドに来るのだって無理よ」
「無理って、何をしたの? 山のようにアップルパイでも焼いたの?」
「まさかそんなことしないわ。お師匠様の部屋の扉につっかえ棒を仕掛けてきたのよ!」
もふぅ! とマーゴットが得意げに断言すれば、話を聞いたルリアとドニが「つっかえ棒……」と呟いた。
「それは……、強硬手段ね」
「ここまでさせるお師匠様が悪いの。お師匠様が部屋から出ようと苦戦している間に私達は依頼を受けて出発するのよ。さぁ急ぎましょう!」
行くわよ! とマーゴットが意気込んでギルドへと向かえば、ルリアとドニが肩を竦め合った。
今日の依頼は治安の悪い町で秘密裏に行われている違法取引の摘発。
これは数日前に受領の手続きを終えており、今日がその実行日だ。ギルドの依頼は様々で、その場で依頼を受けて出発するものもあれば、こうやって受け付けた後に手続きや打ち合わせで数日かかる依頼もある。
新米パーティーには荷が重い依頼ではあるが、他所のギルドのパーティーと協力し、更には国の警備隊も関わっているので危険は少ないだろう。
そのうえ、ギルド長は受領依頼をする際にこちらからは新米パーティーが行くと言っておいてくれたらしい。特別扱いとまではいかないが、多少の融通は利かせてもらえるのだという。
「他はどこも熟練のパーティーが来るらしいから色々と教えてもらえ」
「はい。ありがとうございます、ギルド長さん」
「こういうのは持ちつ持たれつ。いずれお前さん達が一人前になった時に新入りの面倒を見てやれば良いんだ」
軽快にギルド長が笑う。たまにエヴァルトに買収される点を除けば、彼は面倒見の良い頼りになる男性なのだ。
……エヴァルトに買収されなければ。
「ギルド長さん、お師匠様には今回の依頼の話はしてませんよね? 私達がこの依頼を受けた事、話してませんよね??」
「さすがに今回は話してないから安心しろ。あれこれと条件出して聞き出そうとしていたが断り続けたら諦めたからな」
「そうですか、ありがとうございます。あっ、この後も油断しないでくださいね。お師匠様を閉じ込めたけど、多分そのうち出てきてここに来ると思うんです。でも話しちゃ駄目ですからね!」
「分かってるって。……おい待て、閉じ込めるって何をしたんだマーゴット」
疑惑の視線を向けてくるギルド長に、マーゴットは「必要な手段を取っただけです」と真剣な声色で返した。
◆◆◆
ギルドを出て町へと向かい、更にそこから馬車を乗り継ぐことしばらく、依頼内容に記載されていた町へと到着した。
マーゴット達の生活範囲とは比べ物にならない規模だ。店も家屋も多く、人の行き来も多い。聞けばここいらの地域で一番大きく栄えている町らしく、一年を通して様々な地域から人や商人が来ているのだという。
賑やかで良い町だ。だが光あるところには闇もあり、悪事が蔓延ってしまう。人の行き来が多いということは、裏を返せば悪事を働く者もそれに紛れて行き交ってしまうという事でもあるのだ。
「この町の数か所で違法売買が行われており、それを同時に摘発するのが今回の依頼内容です」
とは、今回の依頼主の一人の説明。
国の警備隊に勤めており、凛とした態度や鍛えられた体躯はまさにだ。威圧感すら感じてしまう。
もっとも威圧感を漂わせる男の手元にはイチゴのケーキがありなんとも言えないギャップを感じさせる。そもそも現在地はお洒落なカフェのテラス席なので何もかもが彼の威圧感を削っているのだが。
「警備隊は常に町を巡回し、国の祭事に顔を出す事も多い。それゆえに顔が割れてしまっています。取引の現場を押さえようにも、我々が近付いただけで警戒し逃げられてしまう恐れがあるんです」
「それでギルドに依頼をしたんですね。確かに、冒険者ならよっぽど知名度のあるパーティーじゃなければ顔は知られていませんね。それに興味がある素振りをすれば向こうも油断して証拠を出してくれるかも」
なるほど、とルリアが頷く。
彼女の考えは正解だったようで、依頼主も真剣な顔付きで肯定し再び口を開いた。
「向こうも有事の際を考えて取引場所を複数に分けています。一か所に踏み込まれたらその瞬間に魔法で連絡し他が逃げる。これが統率が取れていて厄介で、一網打尽にするためには人員も必要なんです」
依頼主の話にルリアが頷き、今度は手順や相手はどれくらいの規模なのかを質問しだした。
交渉や話し合いは主にルリアが担当している。マーゴットとドニはふむふむと話を聞きながら、奢って貰ったパフェを堪能するだけだ。
そうしてひとしきりルリアと依頼主が話し終えると、依頼主がマーゴットへと視線を向けてきた。真剣な顔付きだ。
突然視線を向けられ、パフェの底に入っていたイチゴをようやく拾い上げむぐむぐと食べていたマーゴットは慌てて背筋を正してしまった。
「ここで話をしても平気だと言っていましたが、本当に問題は無いんですね……」
尋ねながら依頼主が周囲に視線をやった。
店内は満席とは言わないが客が入っており、テラス席だけあって近くを人が通っていく。店員も先程から何度もテーブル横を通り過ぎていった。
普通こんなところでは依頼内容は話すべきではない。それも違法取引をしている者達の一斉検挙などもってのほか。仮に聞かれていたら依頼どころでは無くなるし、国の警備と話し込んでいるところを見られただけでも警戒されかねない。
だが訝しがる依頼主に対して、マーゴットは「大丈夫です」とはっきりと返した。
「認識阻害の魔法をかけているので問題はありません」
「認識阻害?」
「はい。誰も私達のことを認識できないようになっています。この会話も、周りの人達は『誰かが何かを話していた』としか覚えていないんです」
このテーブルに関してのみ、人も話も、周囲からの認識は朧げになる。
だが見えない聞こえないというわけではない。誰も意識を向けず記憶に残らないのだ。思い出そうとしても「誰かが居て何か話していた」という程度である。
それはマーゴット達の顔見知りでも同じだ。仮に隣に知人が居ても気付かれず、この場に居た事を後々に話しても「気付かなかった、声を掛けてくれれば良かったのに」と言ってくるだけである。
とりわけ喫茶店ならば、各々が食事や同席している相手に意識を向けているため魔法の効力は強い。
そうマーゴットが話せば、依頼主が唖然としたような表情を浮かべた。
「そんな事が可能なんですか?」
信じられないとでも言いたげに問われ、マーゴットはコクリと頷いて返した。
「仕組みが少しややこしいんですが、理解さえすれば出来ますよ」
「理解って……、ですが……」
どういうわけか依頼主の返答は歯切れが悪い。
いったい何が気がかりなのかとマーゴットが首を傾げれば、話を聞いていたルリアが「マーゴットには出来るのよね」と話しかけてきた。それに対してもはっきりと「出来るわ」と返しておく。
「そ、そうなのですか……。さすがあのエヴァルト様のお弟子さん。周囲に気付かれないのは有難い話です。今回の件は少しでも怪しまれたら終わりですからね」
依頼主がこの話を終え、再び今回の依頼についてを説明しだした。




