傷だらけの君へ
この作品は彼氏「翼」視点からになります。
次作の「優しいあなたへ」は彼女の「かなで」視点と交互に書きました。
かなでと途中まで一緒に帰るために、鍛錬が終わってるであろう時間に訓練場へ向かう。ちょうど終わって訓練場から出てきたかなでに手を振って近づく。
何気ない会話をしていると明日の話になる。
「明日、私の小隊は遠征なの」
「そうなんだ、どこまで行くの?」
「隣町の小さな村があるところまでいって、あそこは山場があるからそこで訓練するの」
「そうか、気をつけてね」
「ありがとう」
かわいい笑顔でお礼を言う彼女。今日もここまでしか一緒にかけれないんだなといつも別れる路地裏に来る。
「翼、こっちへ来て」
路地裏のさらに路地で、月夜が僅かに入るような薄暗いところだった。どうしたの?と聞こうとすると唇を奪われる。
「じゃあ、また明日ね」
恥ずかしそうに笑って、走って手を振りさっていく。
唇に残るかなでの余韻に浸った。彼女から外でしてくるなんて珍しい。嬉しいことがあったと、噛み締めて帰路についた。
ーーー
いつも通りに騎士団の訓練場で訓練をしていた。「いつも通り」のはずだった。訓練をしていると、確実に腕の骨が折れているような腕をぶら下げ、横腹が出血し、足を引きずりながら走ってくる隊員がいた。
あの隊員は確か、かなでが小隊長をしている小隊員だ。なぜ、そんな怪我を……嫌な予感がする……
「第3小隊、ヒスイ戻りました!!訓練中に得体の知れない「何か」に小隊が全壊!至急、応援を頼みます!!!」
必死の形相で報告をする。得体の知れない「何か」というセリフを聞き、嘲笑が入る。ヒスイはかなり若手で入隊したばかり、しかも色々と失敗をやってしまうおっちょこちょいなやつだ、何かと周りにバカにされていた。そんな怪我も演技だろうと囃しているやつもいた。しかし、強いまま語気のまま、ヒスイが言葉を続ける。
「レムフォント小隊長が……一人で…一人で戦ってるんです………俺たちを守るために、逃がすために………だから応援を頼みます………」
ガバっと頭を下げて、お願いをする。その言葉を耳にして、一同が一斉に黙る。レムフォントもといかなでは、最年少で小隊長に出世したお墨付きの騎士である。彼女の小隊は連携が取れ優秀な小隊だ。そんな彼女が仲間を逃し、一人で戦っているという状況を聞いて、これは「嘘」ではないと誰もが分かった。
「私が小隊長のところまで案内します!!!だから、早く小隊長を助けてあげてください!!小隊長であってもどうにかできる相手じゃない!!!」
涙目になりながら必死で訴えていた。俺たちは急いで、装備を整える。
かなで、大丈夫なのか、急いで行かなくては!!!俺は急いで剣を取る。無事でいてくれ。
しばらく、ヒスイに連れられて進むと悲惨な光景が目に入った。かなでの小隊員が倒れている。深手の傷の仲間も見受けられる。そして、その傷はどう見ても人ではない「何か」だ。
「こっちです!!!奥です、奥で小隊長が、小隊長が一人で俺らを……守るために、います……」
ここで体力の限界と傷が広がってしまったのだろう、ヒスイは倒れ込む。周りに倒れる小隊員とヒスイを衛生兵たちが手当していく。そんな中、ヒスイが言っていた奥へ足を進める。俺は身勝手に隊列を崩して前へ出てしまう。かなでがかなでが見えたのだ。胸に酷い傷を負い、血を大量に流して、倒れている仲間のところへ行かせないように「何か」の行く手を阻みながら、戦っている。
「おい!!アムル!!隊列を崩すな!緊急事態なんだぞ!!!」
そんな声は耳に入らない、急いでかなでの元へ行く。
「かなで!!!!」
一瞬、かなでがこちらを見た、安堵の表情をしている。
しかし、そんなことも束の間、その「何か」が思い切り、かなでを振り払った。かなでの身体は思い切り建物に打ちつけられ瓦礫の下敷きになる。
「何か」があざ笑うかのように、逃げていく……
とても………とても嫌な音が聞こえた。人体からしていい音じゃない………そんな姿をみて俺は叫ぶ。
「かなで!!!!!!」
瓦礫を退かし続けるが姿を見つけられない。そのうち他の隊員も来て、瓦礫を退かす。
かなで、かなで、かなで!!!心の中で必死に名前を呼ぶ。
やっとかなでを見つけたが、意識不明だった。そして、人がしてていい姿ではない姿勢でかなでがそこにいた。助からない………長年、俺も騎士をやっている。それなりに仲間の死を見てきた。これは………これは即死だ………そう思っていたが、衛生兵長が仲間に向かっていう。
「まだ、助かるかもしれない。諦めちゃ駄目!!!!小隊長を助けるの!!!」
そう叫ぶ、衛生兵の目には涙が浮かんでいた。きっとかなでに良くしてもらったことがあるのだろう。
俺も急いで衛生兵の手伝いをする。傷が深く、きっと背骨が折れている………全身の力が抜けてだらりとしているかなでを見ると俺も泣きそうになってしまう。もっと早くついていればここまで酷い怪我を負わずに済んだんじゃないかと、後悔も出てくる。昨日は珍しく別れ際にかなでからキスをされたことを思い出し、余計に感傷に浸ってしまう。駄目だ、ここでは俺は騎士だ。迷惑になってたまるか。一生懸命に応急処置をして、仲間と担架を担ぎ、街まで運んだ。
ーーー
かなで…………病室の窓からかなでを見る。彼女は今、集中治療室にいる。たくさんの管に繋がれている。しばらく覗いていると、医師に話しかけられる。
「あの、レムフォントさんのご家族ですか?」
「いえ、俺はあの………彼氏です。」
彼氏というのに少し躊躇した。かなでからは私たちの関係をバレないようにしていたいと言われていたからだ。
「家族以外でも親密な関係でしたら、お話できます。あなた毎日お見舞い来ているようですし、問題ないとこちらで判断致しました。彼女のご家族がいらっしゃらないので、あなたにレムフォントさんの現状をお話させてください。」
かれこれ、入院して2週間も経つというのに家族が来ていないらしい。どういうことだ、と思いながら個室に案内され、かなでの様体を聞いた。
奇跡的に心臓が動き出していること。かなり低い可能性で目を覚ますかもしれないこと。胸の傷の状態や背骨のことも聞いた。仮に目を覚ましたとしても歩くことはほぼ不可能だ、と。今のままで心臓が弱り、死亡する可能性のほうが高い、とも……。
心臓が動いている、低い可能性ではあるが意識を戻す可能性もある。俺はかなでに生きていてほしい。説明を聞いたあと、死亡の可能性が圧倒的に高いと言われたが俺は生きる可能性のほうを信じていた。また、窓からかなでを見る。生きようとしてくれてるんだね、どうかどうか帰ってきてほしい…………涙が出てきてしまった。俺はこれ程までにかなでが大好きだ。これからも一緒にいたい。毎日、毎日足繁く見舞いにいった。かなでに言われていたように俺たちの関係がバレないように、皆が来ない時間帯を狙っていった。
彼女がまだ眠りつく間に、重症だった小隊員たちも目を覚まし、全員が生きている。
目を覚ました隊員が口々に言っていたレムフォント小隊長は無事なのか、生きているのかと。入院して頑張っていることを知ると、皆口々に生きてほしいと泣きながら言っていた。今度は君の番だ、みんなが生きててほしいと望んでる。
ーーー
かなでが入院して、2ヶ月。
騎士団もしばらくピリピリしていた。あの「何か」が来たら、どう太刀打ちするかとずっと話題で持ち切りで、そのための訓練の量も増えた。帰りが遅くなることも増えたが、毎日欠かさずかなでの見舞いに行っていた。訓練が増えた影響で他の騎士と重なることが増えたが、熱心な見舞いをしている騎士としてしか見られていないだろう。ここ2ヶ月でそれを痛感する。かなではたくさんの人に思われていた。入院してる姿を見て涙を流すもの、通りすがりの医師や看護師に助かるんですよね!!と食って掛かる者、怪我から快気した小隊員が口々に「俺たちがもっと強かったら」と後悔を口にして涙を流し、膝から崩れ落ちるところをもう何度も見てしまった。心が痛い。俺もあの場に早く行けていたらと後悔がある。もし、隊列を崩さずに動いていたら、もっと早くに合流できていたら、胸の傷だけで済んだのではないか、と。
長い2ヶ月の間で印象に残っている人が2人いる。一人目は衛生兵長の女性だ。俺より歳下そうに見える彼女は、戦場でも涙を浮かべながらも適切な処置をしていたので顔をよく覚えていた。先輩、先輩と膝を崩して号泣しており、騎士学校の先輩後輩なのだと知ってしまった。その時はそっとその場から離れた。2人目は、俺と同じようにかなでと下の名で呼ぶ男だ。名前で呼んでいたところを鉢合わせ聞いてしまった。このときばかりは、この男に話しかけてしまった。腐れ縁の幼馴染みだそうだ、勝手に仲いいフリをして俺が話してるだけだと言ってその場を離れていった。この男とはいつか話してみたいと思っている。
その間にも家族は現れなかったらしい。2ヶ月間の予後を医師から報告されていた。状態はかなりいい、奇跡だ、もしかしたら目を覚ますかもしれないと。奇跡的な回復を見せている。これには医師も驚きを隠せないように俺に報告していた。
そして、入院して3か月が経ったある日、かなでが目を覚ましたと俺の家に連絡が入り、急いで病室へ向う。かなでが目を覚ました、会いたい、会いたい!!
病室前に近づくと、医師とすれ違った。すれ違いざまに医師に笑顔で「良かったですね」と言われ、涙が出てきてしまった。
その顔のまま、かなでの病室に入る。
意識はあるが、かなり痛みがあるみたいだ。酷く食いしばった顔をしている。
「かなで、生きていて嬉しいよ。他のみんなも生きているよ。かなでが頑張ったからだよ、目を覚ましてくれてありがとう。」
つい、嬉しくて声をかけ続けてしまう。意識が薄くなってきているみたいだ。それでも、頷いてくれるかなでを見ると嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、涙が止まらない。すっと食いしばった顔から力が抜けたどうやら意識を失ったようだ。医師から聞いてはいたが、どうやら3日前にも目を覚ましており、鎮痛剤を投与しているが回数に限界があると言っていた。今日はもうその回数分が終わっているようだ。痛みで意識を失っても、医師を呼ぶことはできない。
それからも毎日、かなでに会いに行った。
目を覚ましてからというもの他の騎士団の人たちには会っていない。医師から聞いたがかなでが面会謝絶をしているそうだ。その影響かしばらく騎士団の間で目が覚めたとの噂で持ちきりだった。
見舞いに行くと話すことが苦手になったのか、頷くことはしてくれた。それだけで俺は嬉しくて、声をかけ続けた。
ーーー
しばらく入院して、今日からリハビリだと聞いた。退院が近いかもしれないと医師に言われており、今日はかなでに大事な話しをしに来た。
「かなで、お見舞い来たよ」
さっきまでリハビリをしていたのだろう、近くに車椅子が置いてあった。
「今日は痛みとか大丈夫?無理しないようにね。」
リハビリは想像を絶するほど辛いと知っている。無理しないで自分のペースでやっていこ、かなで。涙を少し流していたのだろう、少し湿った瞼をしていることを俺は気づくが、泣いているのを気づかれまいと拭った様子が見て取れて、知らないふりをする。
そして、一呼吸おいてから俺は本題をいう。
「退院したら、俺の家に来なよ。前にもかなで言ってたけど寮なんでしょ、かなでの部屋は3階だし、俺の家部屋余ってるし平屋だから過ごしやすいと思うんだ。」
俺の家は広すぎるんだ。だから、2人でちょうどいいと思う、一緒に君のリハビリも手伝いたい。
そう思っていると、久しぶりにかなでの声を聞く。
「大丈夫だよ、なんとか部屋探すから迷惑になっちゃう」
慌てるように驚いたようにそういった。
「その身体で無理は禁物だよ。一緒にいたら手伝ってあげられるし、かなでだってリハビリとかに専念できるでしょ?」
少し納得したような顔をしたかと思ったが、でも、でもと断り続けられ、俺も負けじと君の助けになりたいと押し問答をした結果、同居することになった。
ーーー
かなでが一人でベットから起き上がり、車椅子に乗る動作ができるようになったタイミングで退院をした。
かなでのために段差を無くしたり、引き戸にしたり、低い机を買ったり色々忙しなくしていた。これで俺たちの家だ、と思うと少し嬉しい。形はどうであれ、かなでと同棲できる。
「かなで、これからよろしくね」
車椅子に乗るかなでの目線まで屈み、目を合わそうとするが合わない。ずっと下を向いている。突然にこんな大怪我して、歩けなくなったりしたら、周りが怖くなったり自暴自棄になるのは当たり前だ。これから一緒に頑張ればいい。ちょっとしたあとにかなでが頷くのをみて、車椅子のハンドルへ移動し、ゆっくりとかなでを家にいれた。
ーーー
「おはよう…」
小さな声で挨拶する彼女。
数ヶ月前に目を覚まし、退院してから俺の家に同居という形で、リハビリを受ける毎日を送っている。
リハビリを頑張っているが、今の状態では立つのもやっとで、足を引きずるようにしか歩けない。
「かなで、おはよう」
おはようの口づけをした。同居と前向きな言い方をしたが、実際はかなでに帰れる場所がなく無理やりにでもかなでを説得して、一緒に住んだ。
前は、口づけしたら少し恥ずかしそうにしていたかなでがなんだが懐かしい。奇跡的と言われるほど、重症だった彼女が目を覚まして泣くほど嬉しかったが、彼女はどうなんだろうか。
同棲して約2ヶ月ほど、今の彼女は俺と目も合わさず、暗い表情だ。
「朝ご飯あるから、一緒に食べよう」
俯いたまま頷くかなで。
車椅子にはようやく慣れたらしく、車椅子移動では俺の補助はなくても大丈夫になっていた。
「今日、用事があるから外出する」
食事を始めてしばらく経つとポツリとかなでがそういった。その表情はいつも以上に暗い、どこか嫌なところにでもいくのだろうか。
「かなで、俺もついていくよ。」
「一人で行くから大丈夫。」
間髪入れずにそう返事をされると何も言えなくなってしまう。そのまま俺は一人で話題を振るもかなでは頷くばかりで、流されてしまった。
こういうときにふと思う、君が傷ついている理由を知りたい。寄り添いたいと。無理しているんじゃないかと、聞きたくなる。
「いってらっしゃい」
頷いた彼女の背中を見送る。
こっそりついていこうと思ったがそれもやめた。
大人しく待とう。本当はついていきたいが、一人で行くと言っていた彼女を尊重したい。
ーーー
「おかえり」
と声をかけたはいいが、帰ってきた彼女の顔色は憔悴しきっており、朝より顔色がとても悪い。心配になり声をかける。
「かなで、顔色が良くないよ。何かあった?俺に話してほしい。」
「……大丈夫」
「全然大丈夫じゃない、今朝より顔色が良くない。どこか体調悪いの?」
「………」
全く顔を上げずに黙って、車椅子で部屋に入っていく。そんな彼女につい声を荒らげてまた聞いてしまう。
「黙ってないで、何か言ってよ。俺心配だ。最近、ずっと元気ないし、すごく心配してるんだ、話してほしい。」
ー沈黙ー
少しするとかなでの息継ぎをする音が聞こえた。
「……………父に会ってきたの………もうお前は家族じゃないって……一族の恥だって。何のために私頑張ってきたんだろう」
静かに大粒の涙を流し始めた。彼女の涙を初めてみた。
「小さい頃から父の鍛錬に耐えて小隊長にまでなって、怪我して動けなくなったら恥って。騎士として一族として私なりに父の理想像を目指して、必死に生きてたのに。騎士団の除籍と家族をやめるって…私は、私は………………」
一度、口を開いたら止めどなく溢れてきた本音。嗚咽を漏らして泣きながら、話す彼女はとても痛々しかった。静かに、彼女の吐露する続きを待つ。
「……………あの時に、死んじゃえばよかったんだ………」
「ッ!!!!」
目を開き、息を思い切り吸い込んだ。今、死んじゃえばよかったって言ったか?
俺は君に生きていてほしいと望んだのに、君だって仲間に生きていてほしくて自分の身を削ってまで誰も死なせずにあの戦場で一人盾になって、戦って生きていてほしいと望んだのに。自分の命はそんなに軽々しく!!!
かなでに走りより肩を掴んでこういった。
「俺はかなでに生きていてほしいよ。ずっと一緒にいたいよ。」
怒りと悲しみのグチャグチャの感情のまま、伝えたい言葉だけ伝えた。死んじゃえばよかったってなんて酷いことを言うんだ。俺は、俺は君が目を覚ますことずっと待っていたのに。
嗚咽を漏らし、泣き続ける彼女。俺は言葉の返答を待つ。
「…あなただって、こんな車椅子で一人で何もできない歩けない私がいたって邪魔でしょう?そんな言葉聞きたくない………」
両手で耳を塞ぐ、その彼女の手を握り情緒が安定しない状態で言葉をいう。
「俺の本音だよ!!なんでそんな悲しいことを言うんだ!!かなで自身が自分を大切にしてあげてよ!!……なんで、なんで、そんな死にたいだなんて言うんだよ…………俺はかなでと生きたいよ」
言葉が届かなくたって何度だって言ってやる。俺は君と一緒にいたい、生きていきたい。
「…………あなたの邪魔になりたくないの。…だから、別れよう」
別れようという言葉を言われ、酷く冷静になる。久しぶりに俺と目を合わせて話した彼女の目は涙のせいで酷く充血していた。
「俺は別れたくない。邪魔なわけないだろう。一緒にリハビリも頑張って歩けるようになったら、また一緒にデートに行こう。歩けなくてもいい、車椅子のままだっていい、2人で一緒にたくさん思い出作ろうよ。別れたいってそれはかなでの本音なの?」
「明日にはここを出るから、今まで迷惑かけてごめんなさい。」
「俺にはたくさん迷惑かけてよ!!かなで一人で抱え込み過ぎなんだ、迷惑だなんて、一度も思ったことない。これからも一緒に暮らそう。一人じゃ駄目だ。」
決心を持った顔でここを出ていくというかなで。矢継ぎ早に紡ぐ言葉で君にちゃんと届いているだろうか……
そう思っていると急にかなでが口を開く。
「…………あなたのことが嫌いになったの。だから別れて…………」
「なっ………」
情けない言葉を口走った。嘘をついていることはすぐに分かった。目をそらしてそんな嘘をつく。かなでの癖だ。俺を想ってそういってることも。それでも、ショックを受けてしまう、自然とかなでの肩に置いていた手に力が抜ける。かなでの本音は教えてくれないんだね……いつも誰かのためだ、今だって俺のために嘘をついた、途端に悲しさと寂しさが出てきた。俺には頼れないのか……じゃあ、俺のためについた優しい嘘に乗ってやろう。
「………分かった。俺はかなでのこと好きだよ。元気でね。」
静かにかなでのそばから離れて、さよならをいった。こんな呆気なくていいのか。俺はかなでに寄り添えなかった……怒られた子犬のようにわかりやすく、しょんぼりしてしまう。
「役不足か……」
小声でそんなことを言ってしまった。悲しいはずなのに涙は出てこない。急なことで心を置き去りにしてしまったみたいだ。
ーーー
翌日、朝起きるとかなでの荷物は無くなっていた。少しあった荷物も完全にない。たった数時間で荷造りして家を立ったらしい。
「かなで……」
感傷に浸りたいが、いつもと同じように過して忘れたい自分もいた。2人分作っていた朝食も車椅子で過ごしやすいように変えた机も、かなでが過ごしやすいようにと段差を無くした部屋、思い出はそこかしこに残っている。仕事着に着替えて、騎士団へ向かう。
彼女の言葉で別れる決断をしたのは俺だ。いつも通り過ごそう。
ーーー
なんであんな酷いこと言ってしまったんだろうか。
自己嫌悪に駆られながら、行ける場所もなくついつい2人の思い出の公園にいる。
「翼、ごめんなさい」
いもしない本人に謝罪を述べる。
あなたの人生に私は邪魔だもの。あんな嘘言わないときっと翼は別れてくれない。ただでさえ、生きる意味を見失った上に大切な人を傷つけるようなことを言った自分がこの世にいるべきなのか分からなくなる。
「なんで、助かっちゃったかな。かといって死ぬ勇気もない、情けないな。」
ぼーっと暖かい日差しに向かって言ってみる。やはり私はあのときに死んでしまえばよかったんだ。みんなも助かって、翼に酷い嘘も言わずに、一族の恥とも言われずにそのまま死ねたらどんなに楽だったろうか。
「こんな姿を仲間に見られたくない。一人で何もできないし歩くことだって難しいのになんで、生きているの」
そんなことをずっと考えていたら、夕方頃にになっていた。子供たちが楽しそうに公園で遊んでいる。
私もどこかへ移動しようか。車椅子が嫌で嫌でたまらない私はおぼつかない足で立ち上がり、杖を使って歩いてみる。
私の後ろを子供が走り去る。その勢いに足の不自由な私はバランスを崩した。運悪く私のいるところは階段近く、いや逆に運がいいのかもしれない。これで楽になれるかなと曖昧に思いながら、バランスを崩して階段に投げ出される自分をそのまま受け入れる。
宙を浮く身体。そういえば、この階段とても長いのだった、弱ってる私がこのまま落ちたら楽になれる。そう確信し目を瞑る。そう思っていたが、急に身体の落下が止まる。
「え??」
驚いて目を開けると翼が私を抱えていた。
「やっぱり、無理。俺が無理。かなでのこと心配で仕事抜け出したら、危ないところだったじゃないか。」
昨日、別れたばかりの彼が息を切らして、満面の笑顔でそんなことを言う。嬉しい感情と後ろめたさとどうしたらいいか分からない。
「かなでが俺を嫌いでも、俺はかなでのこと好きだし、一緒にいたい。俺にはたくさん迷惑かけて邪魔にだってなっていいよ。生活が自分でできるようになるまでは、俺と一緒に暮らそう」
私の目はどうやら正直らしい。勝手に涙が溢れて止まらない。また、迷惑をかけてしまう。
「死にたいだなんて言葉、大切なかなでを傷つけるのはかなで自身であっても俺は許さない。俺は生きていて嬉しかったよ。君に生きていてほしい」
そんな優しい顔で言葉を紡がないでほしい。涙が溢れて止まらない、わがまま言っていいんだろうか。生きる意味にならないでほしい。私はいらない側の人間だ。だけど……
「………ごめん、なさい。あなたを、傷つける、こと言って、ごめ、んなさい。私も、翼と、いたい………」
嗚咽でうまく喋れない。
「君は生きていていいんだよ、せっかく助かったんだ。俺の邪魔になるくらいに生きてよ。これからは自分自身を大事にしてあげて。今まで頑張ってきたんだね。かなでの心を知れて、俺は嬉しいよ」
肯定される度に涙が勝手に溢れる。きっと誰かに認めてもらいたかったのかもしれない。分からないけど、翼の言葉は優しくて甘えたくなってしまう。そっと彼の胸に顔を埋める。いつもと変わらない優しい手付きでそっと抱き返される、嬉しくて涙を強めてしまう。
「帰ろう」
温かい声色で言われたその言葉にゆっくり頷く。
車椅子まで運んでもらい、2人がよく知る道で家へ帰る。
帰り道でもずっと翼が他愛もない話をしてくれて、私は泣きながら頷くしかできなかった。
ーーーー
「おかえり、かなで」
家につくとかなでに口づけをした。いつもの俺たちの決まり挨拶だ。
今もまだ涙が収まらないでいるが、少し嬉しそうな顔をしてくれたかなでを見て、安心した。
「ただいま」
小さい声で返事してくれるかなでに変に嬉しくて、笑顔になってしまう。嬉しくなった勢いでそっと抱擁する。温かい彼女の熱が伝わってくる。やっぱり生きていてくれて俺は嬉しい、これからもそばにいたい。
そんなことを考えていると、かなでもゆっくりと抱擁を返してくれた。
しばらくの間、かなでのぬくもりを感じでゆっくり離れた。車椅子のハンドル側へ移動して、リビングへかなでを押していく。
かなでは心も身体も傷だらけだ。過去に何があったかは詳しくは知らない。これから教えてもらって一緒に乗り越えられたらいいなと思う。
「かなで、愛してるよ」
初めて愛してるを耳元で囁く。ようやく落ち着いてきた涙がまた溢れ、かなでの頬を伝う。車椅子を止め、かなでの正面にまわり涙を見られないように顔を覆う手をそっと退けて、キスと抱擁する。
傷だらけの君へ、俺が君を支えるから一緒にいよう。
初めて書ききった初小説です。お読みいただきありがとうございます。




