バギー
ロードレースとは名ばかりで、舗装された道など皆無だった。
僕らを乗せたバギーはしょっぱなから崖を滑り降り、僕はバギーに揺さぶられてあちこちぶつけて青あざができた。
「はじめからそれじゃ、本戦が思いやられるわ」
涼しい顔でイフェは言った。彼女は見かけによらず頑丈で、何もかも僕の方が繊細にできているような錯覚を覚えた。
「でも、サイも似たり寄ったりだっただろう?」
いてー、と左手首を押さえつつ尋ねると、
「サイは私を口説くのに夢中で痛いとか気づいていなかったみたいよ」
イフェの言葉に、僕は唖然とした。サイ、よっぽどイフェにぞっこんなんだな。
「俺と結婚したら奴隷じゃなくなる、とか言ってたけど、私、奴隷としても大切に扱われてるから、嫌じゃないし、奴隷って便宜上言われてるだけで、生まれた惑星が違うとか気にしてないし」
「うーん」
これはゆゆしき問題だ。イフェの言葉からすると、彼女の種族は僕らの種族をたててくれているともとれる。
「鉱山では石炭が採れるけれど、レースのポイント地点にダイヤモンドがあるって、なにか引っかからない?」
「え?」
「炭素に高温と高圧力がかからなきゃダイヤはできないのよ」
「なにか、危険なのかな?」
「わからない。行ってみなくちゃ」
「そうだよな」
イフェの横顔は、何か知ってるのかな、と僕は思った。
「次、あの丘を越えて」
ハンドルが取られる。大岩にぶつかって停止。
「あなた筋が悪いわ。まず、初心者用のVRで練習してきた方がいい。もう遅いけど」
「ごめん」
とほほ、とぶっつけ本番の僕はイフェの前で途方に暮れた。
「サイを見返してくれるんでしょ?頑張って」
イフェが、僕のほっぺたに軽くキスをした。僕は俄然やる気が出た。
「見てろよー」
「そのいき!」
イフェが微笑んだ。
バギーはとても頑丈だった。いくらぶつけようがびくともしない。乗っている僕ら次第だった。