イフェ
「なに見てるんだい?サイ」
「いや、別に」
慌てた様子でそそくさとサイはその場を離れた。
僕はサイが立っていた場所に立って、下方を見下ろした。
そこには他の惑星から連れてきた奴隷たちが、発掘された岩石を選別している光景があり、おそらくサイはその奴隷の中で飛び抜けて綺麗な女性を見ていたんだろうと、推察された。
同じ惑星生まれの彼女がいるのに、大丈夫かな?
ゴタゴタが起きそうだな、と僕は大きくため息をついた。
案の定3日後の夜中に警報が鳴り響き、奴隷が脱走した旨がアナウンスされた。
奴隷のほとんどが、切りたった崖や地形の悪さに、逃亡を諦めて自分から戻ってきた。
特に罰も与えず、いつも通りの朝を迎えたが……
いない。
彼女ー奴隷のイフェと、サイの姿がない。
「参ったな」
僕は上層部に言うべきか悩んだ。
「ロクサ。ロードレースがあるんだけど、賭けに一口乗らない?」
サイの彼女のキンチャが僕に耳打ちしてきた。
「どんなレースなんだい?」
「バギーに2人1組で乗って目的地から通過証明の石を持って帰るの」
「石?」
「ダイヤモンドよ」
「キンチャ、サイは……」
「知ってるわ。あいつ、相棒にイフェを選んだのよ」
「奴隷でも参加できるのか?」
チームリーダーが我々と同じ惑星生まれなら可能だという。
「ただレースの行方を見守るだけの賭けなら誰でもいいし、そこそこ儲かるかもだけど、レースに参加して優勝したら賭け金の大半を手にできるわよ」
「僕に参加しろって言うのか?」
「ええ!親友のサイの鼻を明かしてやってよ。……私のために」
「……考えとくよ」
僕は、キンチャにちょっと同情してたんだと思う。
その日の昼、レース用バギーの一台が試運転から戻ってきて、サイとイフェが降り立った。
イフェはサイにびんたを食らわし、サイの罵る声が響いた。
「なにがあった?」
サイに聞いても言わないからイフェに尋ねた。
「レースで優勝したら自分のものになれ、と言われたのです」
イフェは美しい顔を歪ませて憎悪を露わにした。
「そうだ!イフェ。ロードレースの相棒役、僕にしないか?」
「なぜ?」
「サイの彼女のキンチャが不憫だからだよ!きみもサイを見返したいだろ?」
イフェは花が溢れるような笑みを浮かべた。
僕とイフェは堅い握手をした。