道に迷ってる外国人のS級美少女を道案内したら翌日同じクラスに転校してきて、しかもやたらグイグイ来るんですけど……。
その日は駅前に来ていた。
といってもただ時間を潰しに来ただけだ。
今日はなんだか隣の部屋に誰かが引っ越してきたようでうるさかった。
そのため引っ越し作業が終わるまで駅前まで時間を潰しにきた、というわけだ。
都会とは言えないが、田舎とも言えない開発された駅前には本屋やカフェがあるので時間を潰すには苦労しない。
そうしてまずはカフェに入る前に本屋で本を調達しよう、と歩いていた時だった。
「あの……」
声をかけられたので振り返る。
振り返るとそこには超がつくほどの美少女がいた。
腰に届くくらい長い金髪に空より青い碧眼。そして日本人離れした顔。恐らく外国人だ。
見たところ、年は同じ十代後半だろう。
「えっと……なんですか?」
「道に迷ってしまって……道を教えてくれないかしら?」
外国人特有のなまりみたいなものがあるが、予想していたよりも遥かに流暢な日本語だった。
そのことに少しだけ衝撃を受けつつも返答する。
「え? ああ……いいですよ。どこに行かれるんですか?」
「ここなんですけど……」
彼女はスマホの画面を見せてきた。
肩と肩が触れ合うくらいに近い。
これが外国人特有のパーソナルスペースの近さと言うものだろうか。
女子と、それもとびきりの美少女に近づかれるというのは健全な男子高校生には少し刺激が強い。
「ん……?」
スマホの画面を見れば、自分の家の近くだった。
というか、すぐそこだ。
「ああ、これなら分かりますよ。案内しましょうか?」
俺は元々暇だったこともあり、案内を申しでる。
「本当!? お願いします! ありがとう!」
彼女は俺の手をとりブンブンと振る。
そして俺は彼女を道案内することになった。
道を歩きながら俺たちは会話する。
俺はどちらかと言うと人見知りする方なのだが、彼女はさすが外国人というべきかそんなものはお構いなしに話すので、会話に詰まることは無かった。
歩き始めると、彼女が重たそうにスーパーの袋を持っていることに気がついた。
「それ、持とうか?」
俺は彼女に向かって手を差し出す。
「本当? ありがとう。実は歩き回ってたからもう限界だったの……」
スーパーの袋を受け取る。
随分と買い込んだのか、袋はずっしりと重かった。
確かにこれをずっと持っていたらしんどいだろう。
「ふう……ありがとう! でも意外だわ。日本人の男の人はシャイだからあまりエスコートはしないって聞いてたんだけど」
「まあ、俺は姉から躾けられてるから。他の人はあまりしないんじゃないかな」
「じゃあ、あなたのお姉さんに感謝しないとね」
彼女はあることを思い出した。
「そういえばまだ自己紹介して無かったわ。あなたの名前は?」
「俺の名前は稲庭雪人だ」
「じゃあユキトって呼ぶわね」
いきなり呼び捨てだ。
やっぱり外国人はパーソナルスペースが近い。
「私の名前は白花有栖よ。アリスって呼んで」
俺はアリスの名前が日本の名前であることに気がついた。
「ん? 日本人……?」
「ううん。私はアメリカ人と日本人のハーフなの。生まれも育ちもアメリカで、最近日本にやってきたのよ」
なるほど。ハーフなら日本風の名前にも納得がいく。
「けど、最近までアメリカに住んでたにしては日本語がうまいな」
「日本のアニメで勉強したの。私、日本のアニメが大好きだから。それで日本にもやってきたのよ」
なるほど、日本語が上手いのはアニメで勉強したからか。
って、ちょっと待て。
今、とんでもないことを言わなかったか?
「えっ? アニメのために日本に引っ越ししてきたのか?」
「そうよ! 日本のアニメは本当に素晴らしいの! 私、昔からアニメが大好きで……! だからパパに無理言って一人暮らししてでも日本に引っ越して来たかったの!」
「すごいな……」
自分の好きなもののために異国の地で一人暮らししても引っ越してくるとは、なんたる行動力。
さすが外国人だ。
「まあ、確かに面白いよな。アニメ。俺もよく見るよ」
「えっ!? ユキトもアニメ好きなの!?」
アリスがいきなりハイテンションになった。
俺は気圧されつつも肯定する。
「あ、ああ……そうだけど」
「嬉しい! ジャパンに来てまだ誰もアニメを語り合える友達がいなかったの。ユキト、私とお友達になってくれない!?」
「いいけど……」
俺は頷く。
アリスは本当に嬉しそうに顔を輝かせた。
「じゃ、じゃあ──」
今すぐにでもアニメについて語りたい!
そう言いたそうなアリスが話し始めた時、アリスのスマホに電話がかかってきた。
「うそっ!? もうこんな時間?」
アリスはどうやら用事があるのか、おろおろとし始めた。
それが何時にあるのか分からないが、アリスは長い間迷っていたので時間的な余裕がない事は確実だろう。
しかしその時タイミングよく、目的地に着いた。
「アリス。ここが目的地だ」
「えっ? ありがとう。でも……」
アリスは俺とスマホを交互に見やった。
せっかくできた友達と大好きなアニメを語り合いたいのに、用事があるから出来ない、という表情だ。
「あ、そうだ! こういう時、日本ではこれを交換するのよね!」
アリスが俺にお馴染みのメッセージアプリを立ち上げて見せてきた。
「ユキト! 交換しましょう!」
勢いに流されるままに俺はアリスと連絡先を交換する。
「それじゃあまたねユキト!」
アリスは手を振って歩いて行った。
あまりの怒涛の展開に俺はポカンとしていたが、我を取り戻して手元のスマホを見た。
そこにはアリスがフレンドに追加されていた。
まるで嵐のような女の子だった。
この時はまだ、珍しい外国人の友達ができた、と深く考えていなかった。
そして翌日。
休日が明け、月曜日。
俺は高校に普通に登校していた。
ホームルームの時間になると教師が入ってきた。
我がクラスの担任はなんともやる気のない、いい感じにだらけた男性教師なので生徒から人気がある。
俺も堅苦しく厳しい担任よりは、こんな感じで話しやすい担任の方が好きだ。
そんな担任は最初にあらかた連絡事項を伝えると、名簿を教卓の上に置いた。
「今日は転校生がいる」
教室の生徒がざわめく。
転校生。こんな時期に珍しい。
俺は机に肘をつきながらボケっと聞いていた。
「先生! 女子ですか男子ですか!」
クラスのお調子者の男子が担任に質問する。
「女子だ」
男子から「おお〜っ」と声が上がった。
しかし俺はますます興味が無くなっていた。
女子なら絡む機会も少ないだろうし、そこまで関わることは無いだろう。
正直、転校生の話は俺には関係ないと思っていた。
そう思っていた。
しかし次の瞬間、俺は嫌でも姿勢を正すことになる。
「入ってきてくれ」
担任の言葉と共に、転校生が教室に入ってきた。
教室中の誰もが息を呑んだ。
透き通るような金髪に、青い瞳。
そして絶世の美少女と言っても過言ではない容姿。
入ってきたのは、昨日道案内をしたアリスだった。
「初めまして! 私は白花有栖と言います! アメリカから来ました! 皆さん仲良くしてください!」
アリスは元気よく笑顔で挨拶をした。
そして教室の生徒を見渡して、俺を見つけた。
「あっ! ユキト!」
アリスは花が咲くような笑顔で俺を指差した。
教室中の視線が一気に俺に向く。
「ア、アリス……!?」
俺は驚いていた。
まさかアリスが同じクラスに転校してくるとは思っていなかった。
「ユキトも同じ学校だったのね!」
アリスは昨日友達になったばかりの俺がいて嬉しかったのかはしゃいでいる。
「あー、なんだ。知り合いなのか、お前ら」
担任が気だるげそうな声で俺に質問してきた。
「ユキトは私の友達です!」
アリスがそう言った瞬間、教室が騒がしくなった。
「お前ら静かにしろ。あー、稲庭と知り合いなのか。ならちょうどいいな。そこ、白花と席変わってやってくれ」
そして担任は俺の隣の席の男子にアリスと交代するように言った。
男子は残念そうにしながらもアリスと席を交代する。
俺のことを羨ましそうに見ていたが、俺が命令した訳じゃないので許してほしい。
「ふふ、隣の席ね。ユキト」
そう言って笑いながらアリスが俺の隣に座ってきた。
「ア、アリス。なんでここに……」
「昨日言ったじゃない。私は日本のアニメが好きなの。だから私もこっちのハイスクールに通うことにしたの」
何とまさか。
アリスは日本のアニメのような生活に憧れた結果、高校に入学してきたらしい。
「でもまさかユキトが同じクラスだなんて思いもしなかったわ。もしかしたら運命かも」
「確かにすごい偶然ではあるな」
「ふふん、そうでしょう。これからよろしくね。ユキト」
アリスはそう言って、思わずドキッとさせられるようなウインクをしてくるのだった。
休み時間になると、アリスの周りに人が集まった。
絶世の美少女がやってきたと噂が回ったのか、アリスを一目見ようとこのクラスの外からも人がやって来ている。
俺は早々に立ち去ろうとした。
ここにいたら人の波に押し潰されて休み時間どころではなくなるだろう。
しかし席を立った瞬間、制服の裾を掴まれた。
振り返るとアリスが少し不安そうな目で俺を見つめていた。
行かないで、ということだろう。
考えてみれば一人異国の地に越して来て、こんなに人が群がっているのだ。
知り合いがいないのは心細いのだろう。
俺は席に座り直す。
アリスは笑顔になって、俺と席をくっつけて来た。
「アリス?」
「こうしたら離れたりしないでしょう?」
人の壁で俺とアリスが分断されないように、ということらしい。
しかしこんなに席をくっつけたら、近すぎて足とかが当たってしまうのだが、アリスは気にした様子はない。
群がった生徒はアリスに沢山質問した。
なぜ日本に来たのか、日本語はどうやって勉強したのか、みたいな質問が山ほど来ていた。
アリスはそれに律儀に答えている。
そしてついに、俺とアリスの関係に対しても質問が来た。
「稲庭とはどういう関係なの?」
「ユキトは日本に来て最初のお友達よ! 道に迷ってる私を案内してくれたの!」
アリスはニコニコとした笑顔で俺のことを説明する。
「ユキトとは話がすごく合うの! 日本のアニメも好きだし──」
「白花さん」
イケメン風の男子がアリスの言葉を遮る形で話しかけた。
確かさっき席を交代させられた奴で、名前は村田、だったはずだ。
「こんなパッとしない奴よりさ、俺たちと友達になろうよ」
村田は笑いながらアリスにそう言った。
「こんな奴……?」
「そうそう。俺たちの方が日本についてちゃんと紹介できるよ? 何なら、今日にでもクラスのみんなでカラオケに──」
「やめて」
はっきりとした拒絶の声は教室にはっきりと響いた。
「ユキトは私の大切な友達よ。誰にも侮辱させないわ。ユキトにそんなことを言う人間は──嫌いよ」
アリスは村田を睨んだ。
村田はアリスを怒らせたことに冷や汗をかく。
「え? あ、えっと……ハハ」
村田は気まずくなったのかどこかへ行ってしまった。
そして村田がいなくなると、アリスはまた笑顔で生徒と話し始めた。
その後もアリスへの質問は一日中続いたが、流石に放課後になると部活に行く人間や帰宅する人間が多くなり、質問コーナーは終わった。
俺も帰宅しようと席を立つ。
アリスに付き合ってずっと席に座っていたので体が痛い。
「ユキト! 一緒に帰りましょう!」
アリスが声をかけてきた。
「そういえば、アリスも近くに住んでるのか」
「ええ。一緒に帰りましょう?」
「分かった。一緒に帰ろう」
俺が頷くとアリスは喜んだ。
「やった! 私ずっとこうやって誰かと帰宅するのが夢だったの!」
廊下を歩いている間もアリスは上機嫌そうに鼻歌を歌っている。
廊下を歩いているとまたかなり視線を感じたが、もうこの頃には俺も視線には慣れていた。
そして正門をくぐると俺は深く息を吐いた。
「ふーっ。今日は疲れたな」
「ええ、みんな質問して来たから、流石に私も疲れたわ」
アリスはグッと背伸びをする。
「でも! やっとこの時が来たわ!」
急にアリスのテンションが上がった。
「ハイスクールでは皆の質問で話せなかったけど、やっとアニメについて語り合えるわ!」
アリスは目を輝かせる。
どうやら余程アニメについて語り合いたかったらしい。
「ねえ、ユキトはどんなアニメが好きなの!?」
「ああ、俺は──」
そして俺たちはアニメについて語り合う。
気づけば俺たちは話に熱中していた。
「そうそう! やっぱりユキトはわかってる!」
アリスは興奮したように何度も首を縦に振る。
「そうなんだよ。あのシーンは特に──あ、俺の家ここだ」
話に熱中しているうちに自分が住んでいるマンション到着してしまった。
どうやら時間を忘れるくらいに熱中していたようだ。
「え?」
「どうかしたのか?」
アリスは驚いているのか、元々大きい瞳をより見開いていた。
「私もこのマンション……」
「え?」
アリスが指を指しているのは俺の住むマンションだ。
「まじか……ここも一緒だったのか。道理でずっと同じ帰り道だったわけだ」
アリスを道案内した時、やけに家に近いと思ったが、元々同じマンションだった、というわけだ。
「こんな偶然あるんだな」
「私も驚いてるわ……」
そんな会話をしながら俺たちはマンションの中に入る。
そして同じエレベーターに乗り、
──同じ階で降りた。
「……ん?」
俺はここで違和感を抱いた。
そういえば、昨日俺が外に出た理由は……。
「まさか……」
俺とアリスは一緒に廊下を歩く。
アリスは部屋に入る様子はない、
そして俺とアリスは同じ場所で止まった。
正確に言うならアリスが俺の部屋の隣に立ち止まった。
その部屋のネームプレートには「白花」と書いてあった。
そう。
俺とアリスは、隣の部屋同士だったのだ。
「す、すごい! こんな偶然あるのね!」
アリスは目をキラキラと輝かせる。
「まじか……」
俺の方はというと、とんでもない偶然に驚愕していた。
まさかアリスがお隣だとは。
昨日隣の部屋に引っ越して来たのは、アリスだったのか。
「ユキト! これってご近所っていうのよね!」
「そうだな……」
「これからよろしくね! ユキト!」
アリスは興奮気味に俺の手を握り、とびきりの笑顔でそういった。
「ああ、よろしく……」
まだ状況をうまく飲み込めていない俺は困惑気味に頷く。
ただ、これから俺の日常は騒がしくなるのだろう、という確信があった。
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