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心霊世紀シリーズ

紫煙外伝‐辛罪のX‐

 辛罪は、しんざい、と()()()()読んでください(ぇ


 この世には、常人には()えない世界がたくさんある。

 物理的な世界、だけでなく……霊的な世界も含めて。

 そしてその霊的な世界を、本当に視る事ができる存在は……地球の霊的秩序を、()()()()()調律できる、貴重な存在で。


 それ(ゆえ)に……世間では霊媒師として知られる、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、世界中の霊的な公的機関に所属し……日夜、世界の裏側で、主に人類の存続のために怪異と戦っている。


 そしてそんな、貴重な存在であるために。

 時にはその公的機関から、潜入捜査などの任務のために、同類のホームステイをお願いされる事がある。普通の家にステイするよりも、同類の家にステイする方が気楽だからです。


 そして、このホームステイの話は。

 ついにこの私――日本の霊的な公的機関に登録している民間霊媒師こと(やな)()(かず)()のもとにも舞い込みました。


 私が霊能力の修行で訪れた国の一つ、メキシコで出会った霊媒師のお爺さん――今は亡きオーレンさんの知り合い、という(えん)で、彼のお孫さんを、私の家にホームステイさせてほしいという、そのオーレンさんのお孫さんの師匠からの依頼という形で。


 最初その依頼を受けた時、私は心の中で苦笑いしました。

 ちなみに、ホームステイさせる事に対して忌避(きひ)感はありません。

 むしろオーレンさんのお孫さんがどんな人か気になる……けど、オーレンさんの故郷である中南米はスパイスの世界。


 アメリカ大陸を発見したコロンブスが、そこがインドであると誤解したまま亡くなった時点で……お察しです。


 そしてそれ(ゆえ)に、お孫さんが、どちらかと言うと()(ぼく)な味付けの日本料理じゃ物足りない……なんて失礼な事は言わないと思いますけど……故郷の味を、(なつ)かしむかもしれない。そしてそれを見て見ぬフリをする事は、おもてなしの国の民としてできないので……時々はメキシコ料理を作れるようになるべく、私は付き人にして妹のような存在である()(づき)ちゃんと共に。そのお孫さんが来日する前に……勉強として、本格メキシコ料理店に来ていました。


「……ッ!! か、(から)いですぅ!!」

「……ッ!! ホント、(から)いですねッ!!」


 (まぶ)しくなく、それでいて真っ暗でもない。

 ちょうどいい明るさの照明に照らされる中。

 知り合いの霊媒師が使う、線香などの儀式用の御香のとはまた(こと)なる、なんとも食欲をそそられる(こう)ばしいスパイスの(かお)りが(ただよ)っている店内で、私達はテンションを上げつつ感想を言い合う。


 と同時に私は、スパイスの辛味には、テンションを上げる効果があるらしい、とTVが紹介をしていたのを思い出す。確かあれは、とある女性にグラビアアイドルになってもらうため……その女性に、水着姿になる事への了承をしてもらいやすくするためにテンションを上げさせるべく、(から)い料理を食べさせた……とか、そんな話だったでしょうか。なんともゲスい手段です。


 おっと、ちょっと嫌な印象を受ける情報を思い出してしまいました。

 今はオーレンさんのお孫さんが来た時のための勉強の時間です。メキシコ料理の(から)さ加減などの勉強のためにも、今は食べて勉強する事に集中しなければ。


 ちなみに、生まれつき歩けず車椅子に座っている私はともかく……夕月ちゃんが座るのは、厨房がガラス張りになっている、そのメキシコ料理店のカウンター席。同じくカウンター席に座る、南北アメリカ系の一組の母娘(おやこ)の、隣の席です。


 ちなみに、ガラス張りの店を選んだのは、もちろん、メキシコ料理の調理工程を見るためです。


「にしても一美お姉ちゃん、料理本で勉強すればいいのに……わざわざ食べに来るなんて真面目過ぎなのです」

 コチニータ・ピピルを食べて、(ひたい)に浮かんだ汗を手で(ぬぐ)いつつ……夕月ちゃんは言った。


 ちなみにコチニータ・ピピルとは、メキシコのユカタン州の料理で、豚肉を数多(あまた)の香辛料や酢、オレンジと混ぜて、バナナの皮で包んで、蒸し焼きにして作る料理です。


「夕月ちゃん、オーレンさんのお弟子さんによれば、我が家に来るオーレンさんのお孫さんは世界中を飛び回っている方で、いろんな味を食べ慣れているかもしれませんが……だからと言って故郷の味を(なつ)かしまない、なんて事はないと思います」


 私はモーレ・ポブラーノ――数多(あまた)の唐辛子とチョコレートで作られたソースを鶏肉にかけて作った、メキシコのプエブラ州の料理を食べながら言った。


「……まぁ確かに……夕月も時々、母上の料理を(なつ)かしく思うのです」

 少し逡巡(しゅんじゅん)してから、夕月ちゃんは言った。


「それで、ちょっとでも味が違うと……確かに悲しいですが、でもわざわざ店まで来るのは一美お姉ちゃんくら――」


 しかしその台詞は、最後まで言えませんでした。

 なぜならば私達の背後で、歓声が上がったからです。


 いったい何が、と思い耳を()ますと、どうやら料理店のメニューにある激辛料理……それも数分以内に食べれば賞金が出るという料理の挑戦者が現れたようです。


 ラーメン屋などに、そういうチャレンジがあるのは知っていますが……まさか、この料理店にも、同じチャレンジがあるとは思いませんでした。


 そしてその歓声を上げる方々の中心へ目を向けると……そこにいたのは、無精髭を()やした、小太りの男性。どこかで見たような気がする顔です。まさか、TVや雑誌で見た事がある人でしょうか。


 そしてその男性のもとへ……料理店の店員さんは、見るからに(から)そうな色合いにして、通常の三倍以上は大きいタコスを運んで。そしてついに男性が臨食態勢(臨食態勢?)をとり、店員さんがストップウォッチのボタンを押そうとした……その時だった。


 その場――メキシコ料理店内に突如、白い煙が充満し始めました。

 まさか火事か、と誰もが思い慌てましたが……次の瞬間には、それは間違いだと気付きました。


 なんとその煙は、()(くさ)くなく。


 むしろその煙に満たされた空間が浄化されていたのです。


「ッ! か、一美お姉ちゃん、これって――」


 夕月ちゃんが何かに気付きました。

 私と同じく……()()()()であるが(ゆえ)に。


 そして私が、家族としてではなく、()()()()の人間として、その声に答えようとした時でした。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 私達の近くで料理を食べていた、南北アメリカ系の母娘(おやこ)の、娘の方が……なんといつの間にか男性に近付いていた。私も夕月ちゃんも、声がして初めて、その存在に気付きました。


「そろそろやめないと胃が荒れるのじゃ。もうこの辺でいいじゃろ?」


 彼女は優しく、白い煙に包まれる中で男性に言う。

 すると男性は、まるで催眠術にかかったみたいに目をトロンとさせ「あ、ああ」とだけ言って、フラフラと店を出ていってしまった。


 や、やっぱり……この煙はッ!


「お、おい」

 一方で、店側は(たま)ったものではありません。


 慌てて男性を追いかけようとしましたが「そこの料理人、この料理に()()()()()()()()香辛料を入れるのは如何(いかが)なものかと思うのじゃが」と娘さんに言われ固まりました。いったい(なん)の事か分かりませんが、図星みたいです。


「……ッ!? こ、の辛味……ディアブロ、Xではないかッ!!」


 そしてそんな料理人の(すき)を突き。

 娘さんはちょっとその激辛タコスを口にし……涙目で絶叫しました。


「わ、ワシは……ッ、(から)いの、食べ……慣れて、るから……大じょ……ぅぶ、じゃが……こ、の辛味は……前に、食べた事、が……あるが……そ、れでも……この、辛味は(たま)らんのじゃァ!!!!」


 そして彼女は、大急ぎで、口内の辛味をどうにかするべく、近くのテーブルの上に置かれていた、別のお客さんのために出された飲み物を勝手に手にし、そのまま一気に飲みました。スペインから伝わってきた飲み物オルチャータのメキシコ版。水に(ひた)したお米とシナモンをミキサーにかけ、砂糖やバニラを加えて作るジュースです、が……辛味を普通の甘味で取り除けるワケがなく、彼女はまた絶叫した。


 ちなみに、辛味を本当の意味で取り除くのであれば……カフェオレが一番効果的らしいです。


 そして、そんな彼女の台詞を聞いたお客さん達は騒然としました。もちろん、私と夕月ちゃんもです。


 なぜならそのディアブロXとは……()()()()()()()()()()()()()()香辛料として世界記録に残るモノだったからです。


「あ、あのディアブロXを食べて、失神しないだなんて、あの子……何者?」

 すると、それを見ていた母娘(おやこ)の……母だと思っていた方が驚愕したままそう口にしました。え、まさか母娘(おやこ)じゃなかったんですか?


 そして、そんな私の疑問を余所(よそ)に話は動く。


「料理人、なぜそんな危険な香辛料を入れたのか……話してくれるかのォ?」


 何杯か、他のお客さんの飲み物を飲み続け……ようやく辛味が(やわ)らぎ、マトモに口を()けるようになったその謎の少女……おそらく、()()()()()()()()()少女は、ニッコリと笑いながら、料理人を問い詰めました。


 すると料理人は、帰ったお客さんと同じく、まるで催眠術にかかったような目をしながら話し出す。


 (いわ)く、先ほど帰ったお客さんは激辛チャレンジ系の店の常連で、今まで多くの店に大損失をもたらした強者(つわもの)だと。そしてこの店にも大損失をもたらすかもしれないため……メニュー表にないディアブロXを混入したと。


 場合によっては、傷害や殺人で捕まってしまいかねない恐ろしい所業だ。


「……料理人、さすがにそれはやり過ぎなのじゃ」


 案の定、少女は苦笑しながらそう言った。


     ※


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 そして、事件が解決した(あと)の事。

 私達の同類と思われる少女――私の名前を知っている事からして、オーレンさんのお孫さんこと、()()()カノア・クロードさんであろう少女が、私達に話しかけてきた。


 まさか、同じ店にいたとは思いませんでした。

 彼女の師匠から聞いたところによると、カノアさんは今年十七歳……それなりに背が高いかもしれないと思いましたが、パッと見て、彼女の背丈は、小学校高学年くらいしかありません。そしてそんな彼女が、彼女と同じ南北アメリカ系の女性と一緒にいると……母娘(おやこ)にしか見えません。完全に(だま)されました。


 おかげで、先ほどの私と夕月ちゃんの会話……全部聞かれていますね。

 というか、その時点で私達が誰か分かっていたハズ。ならば、私達に声をかけてきてもいいハズですが……まさか先ほどの台詞の通り、本当に……私達に、自分の能力(チカラ)を見せるため、自己紹介のためだけに今まで声をかけなかったのでしょうか。


「まさかワシのためにメキシコ料理の勉強に来てくれるとは、感激なのじゃ!」


 しかし彼女は、そんな私達の疑問に気付いているのかいないのか。まるで太陽のような笑みを見せながらそう言った。


「あ、ちなみにワシは日本の料理も大好きじゃからそこは安心してほしいのじゃ! でも、ディアブロXはもう(かん)べ――」


 これが、私達の出会いの物語。

 (のち)に、主に清雲高校を震撼(しんかん)させる物語へと続く……始まりの物語。


 夕月「ところで、なんで予定より早く日本にいるんです?」

カノア「間違えて、一本早い飛行機に乗ってしまったのじゃ( ´∀` )」

 一美「もう、うっかりさんですね( ̄▽ ̄;)」

 夕月「ていうかなんで、あの男の人が激辛料理のハシゴをしている事と、ディアブロXの混入の事が分かったです?」

カノア「ワシの先祖の霊がの、騒いでいたんじゃよ(意味深」











 作中に登場するオリジナル香辛料『ディアブロX』のモデルは、アメリカで栽培されてる世界一辛い唐辛子『ペッパーX』です。

 辛さを表す数値『スコヴィル値』は318万、タバスコの1000倍以上の辛味……いや食える方いらっしゃるの!?!?(゜Д゜;)


 ちなみに、蒙古タンメン中本をドリンク感覚で食べているらしい()()()は、この唐辛子をスプーン一杯分味わい五分後にKO! 痛みが引くまで二時間もかかったそうな!! さらにはその後二日間……謎の腹痛に悩まされたそうな(゜Д゜;)


 なんでカノアちゃんは食べて大丈夫だったの!?

 もしかして辛い食べ物に慣れちゃうような修行でも(ぁ(察


 それとついでとばかりに。

 相手の女性に辛いモノ食べさせてテンション上げてグラビアの依頼を了承させてグラビアを撮った……そんな事は芸能界で実際にありました。いや、ちゃんと合法にして合意な事だったので事件性はないです( ̄▽ ̄;)


 ちなみに、誰だったっけなぁその女性……もう忘れました(ぇ

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― 新着の感想 ―
[一言] > なぜならそのディアブロXとは……シ・ョ・ッ・ク・死・し・か・ね・な・い・ほ・ど・辛・い・香辛料として世界記録に残るモノだったからです。 実際に此の香辛料は有るんですか?(震…
[良い点]  ディアブロX、試してみたくなりました(笑)。しかし、まあ気絶しなかったこと。スコヴィル値高めのお話、熱くなりました! 本編も気になりました。 [一言]  辛い物を食べたら、気分が「アガる…
[良い点] グラビアアイドルの話がためになりました。 ありがとう! Σb( `・ω・´)グッ
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