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暗雲

 そして、そんな好調な立ち上がりを見せていた誠が最初に向かえたピンチは4回だった。ワンナウトからセカンドのエラーとフォアボールで、ランナー1、2塁。未だヒットは許してはいないものの、得点圏にランナーを進めてしまった。


〝クソ! さすがに、そうはうまくいかないか〟


 独立リーグとはいえ、さすがにプロ。給料をもらって野球をやっている選手たちだ。2順目にきっちりと誠の球筋を見極めだしている。


 だが、それでも誠は、続く5番バッターをショートゴロに打ち取ってツーアウトまでこぎつける。


 しかし、ツーアウト・1、2塁で向かえた六番打者。カウント2‐2から投じた五球め、外角低めのストレートを三遊間に弾き返される。


〝やばい!〟


 その打球のスピード、飛んだ方向から誠は外野に抜けてヒットとなるのを覚悟するのだった。


 だが、その瞬間、まるで銃口から弾き出された弾丸のような猛烈なスピードで、遊撃手の忍は打球に追いつき逆シングルで捕球をする。そして、そのまま左足で踏ん張りながら身体を一塁方向に反転させてジャンピングスローをするのだった。


 三遊間の最も深い位置からの送球にもかかわらず、そのボールの軌道は山なりにならずに、矢のようなスピードを保ったままファーストの構えるミットの中に吸い込まれていくのだった。


 間一髪のアウト。


 忍の超ファインプレーにスタンドの観客たちは歓喜するのだった。


 そして、忍はその歓声に対して軽く一礼をして応えるだけで、さも当たり前のプレーであるかのように平然とベンチに引き上げるのだった。


「サンキュー、忍。助かった。しかし、凄いな。普通のショートなら、今の打球に触るこもできないのに、止めただけじゃなくてアウトのしてしまうとは恐れ入った。俺が今まで見てきた内野手の中で、最も安心して後ろを任せられるショートは間違いなくオマエだ」


 誠はプロ野球予備校とまで呼ばれている高森学園の野球部に籍を置いていた経験があり、また甲子園でも強豪や名門と呼ばれる高校のショートの守備を見てきた。だが、その名手たちと比してもなお、忍の守備力は別格だと断言できる。ポジショニングの的確さ、フィールディングの俊敏さ、そして、スローイングの正確さと力強さ。このうちのどれか1つでも欠けていたら、ショートストップは機能しない。正直に言って、その女のような外見からは想像できないほどの堅守を誇る忍だが、中でも最も目を惹くのは、スローイングの正確さだ。今のショートゴロも、少しでも送球が逸れていれば、確実に内野安打の際どいタイミングだった。しかし、忍の送球は練習の時を含めて、いつもまるで定規で計ったような正確な軌道で一定しているのだった。


「誠に褒められると何か照れるね❤」


 ベンチに座り、スポーツドンリンクを飲みながら忍はほほえむ。頼むから、男同士の会話(しかも試合中)でギャグでもないのにハートマークをつけるのはやめてほしい。


「オマエの送球はいつも正確だが、なにかコツであるのか?」


「ん~」


 誠の質問に対して忍は人差し指を唇に当てて考え込む。


「薬指、かな。ボクが送球の時に最も神経を使っている指は薬指なんだ。薬指がぶれたり、浮いたりしたら送球は安定しない。薬指の安定こそがボールの軌道を決定させるものだとボクは思ってる」


 その返答に、誠は内心で驚く。


 中性的な美少年の見本のような容姿。異性に持て囃されるやわらかい物腰。

今まで誠は、同じ部屋で同居していながらも忍に対して今ひとつ親近感を抱く事ができなかった。同じ野球選手かつ高校生でありながらも、どこか自分とは違う生き物のように感じていた。だから、その忍がまさか自分と同じ制球哲学を持っていたとは思わなかった。


 誠は、忍に対して初めて親近感を覚え、嬉しくなるのだった。


 しかし、新たに気合を入れ直した誠だったが、オーシャンズの打撃陣のバットはさすがに最下位チームだけあって湿りっぱなしだった。未だにこちらもノーヒットに抑えられている。


 ちなみに、守備では好プレーを連発していた忍だったが、第1打席は見るべきところが何もない三振に終わっている。典型的な専守防衛型のプレーヤー。鹿村が「自衛隊やな」と忍を評価したのも納得だ。


 しかし、典型的な打たせて取るタイプの投手である誠にとって、これほど心強い味方はいない。


〝これなら、大丈夫そうだ〟


 さすがにこのままノーヒットノーランは難しそうだが、完封なら充分にいけそうだと確信するのだった。






 しかし、4回の攻撃が終わった時点で相手のアントラーズの監督と選手はベンチの前で円陣を組む。


「それでどうだ? 噂の杉浦ジュニアのピッチングは?」


 アントラーズの監督が選手たちに問う。


「いい投手だと思いますよ。コントロールもいいですし、ランナーが出た時の牽制やクイックも含めて全体的に完成度が高い印象ですね。

 でも……まあ、あくまで高校レベルでの話ですけどね」


選手のひとりが答える。


「そうですね。たしかにそれなりにまとまった『いい投手』だとは思いますが、ハッキリ言って『怖い投手』じゃないですね。あの程度なら次の回の攻撃で……遅くても7回ぐらいにはマウンドから引きずり下せると思いますよ」


 今度は、別の選手が答えるのだった。


「そうだな。俺も同感だ。よし、次の回で杉浦ジュニアをマウンドから引きずりおろして、格の違いをみせつけてこい!」


「はい!」


 選手たちに激を飛ばすアントラーズの監督。選手たちは自信に満ち溢れた表情で返答をするのだった。


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