表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/30

試合開始

 結局、試合開始直前にユニフォームを着替え直すことを余儀なくされた誠だったが、なんとかプレイボールまでには着替える事は間に合った。


 万が一のことを考えて、きちんと替えのユニフォームを持ってきておいてよかった。そうでなければ、誠は他の人間のユニフォームを借りて試合に出なければならないところだった。本当は千早に対して愚痴のひとつでもこぼしてやりたい気分だったが、その事で余計に情緒不安定になられると困るので誠はやめた。


 その千早は真っ青な顔して、なんとか一塁側のベンチに座っている。その横ではコンディショニングコーチの優輝が看病をしているのだった。


「誠、大丈夫?」


「ああ、大丈夫だ。忍」


 グラウンドで誠を気遣う忍に返事をする。ちなみに、忍もこの試合に先発出場する。守備位置はショートで、打順は9番。いかにも守備特化型選手の打順と守備位置だ。

マウンド上で足場をならす誠。


 そのユニフォームの背中には「18」の文字が縫い付けられている。高校野球ではエースナンバーは「1」だが、プロ野球の世界では「⒙」である。それだけ重い数字を与えてくれるのだから、球団の誠に対する期待は痛いほど分かった。


 オーシャンズのユニフォームは、海鹿内市の大海をイメージした薄い青色を基調としている。ホーム用のユニフォームは、アイボリーホワイトの布地に胸には筆記体で「OCEANS」とで描かれ、袖口から肩にかけての太いラインやアンダーシャツやストッキング、全て胸元の文字と同じ薄い青色だ。


 帽子も、ツバに至るまで全て薄い青色に塗られているが、中央にあるアルファベットの「O」と

「U」を組み合わせた記号だけは、白抜き文字となっている。


 そして、誠はマウンド上で最後の投球練習を終える。


〝久しぶりだな。真新しいマウンドで登板するのは〟


 高森学園での誠の役割は、チーム内での最多登板を果たしながらもリリーフが主だった。それゆえに、誰にも踏み荒らされていないマウンドに登るその感慨はまた格別だった。この日の市民球場は、千早と優輝の3人で初めてこの球場を訪れた時と同じく海があるセンター方らホームベース方向に吹きつける風が凄まじかった。グラウンド面積は両翼90メートルほどで狭いといえば狭いのだが、この風のおかげでホームランは出にくい球場だといえる。


「プレイボール!」 


 主審が大きく右手を上げて、宣言する。


 海鹿内市民球場でおこなわれるホームゲームなので、オーシャンズは後攻。つまり今日の試合は誠の1球で始まるのである。


 誠は両腕を大きく振りかぶって、ワンインドアップの投球動作を開始する。


 何百回、何千回と繰り返してきた一連動作から放たれる誠の1球は鹿村の構えるミットに吸い込まれていく。


「ストライク!」


 審判がそう宣言すると、オーシャンズの応援団が陣取る一塁側の内野スタンドから歓声があがる。湖万里も手を叩いて喜んでいる。


〝よしイケる。今日は絶好調だ〟


 狙ったコースに寸分の狂いもなくボールを投げ込む事ができる事実に、誠は確信に近い手応えを得る。


 誠の投手としての生命線は、打者を圧倒するような力感あふれるストレートでも、キレ味が鋭い変化球でもない。高森学園時代にバッティングピッチャーとして1日に何百球と投げ続けた事で得られた、コントロールと投球術だ。


 その制球力は、今日も冴えに冴え渡っている。


 誠は、1番バッターを見逃しの三振、2番バッターと3番バッターをショートゴロとセカンドゴロに打ち取って、初回を三者凡退で切り抜ける。


 これ以上ない立ち上がりを見せた誠に対してオーシャンズのナイン、スタンドのファンは喜びを露にするのだった。


「ええで! ええで! ジュニア!」

「このままアントラーズなんて、いてもうたれ!」


 その喜びように、誠は本当にオーシャンズが地元の人間に愛されている球団だという事を実感する。


「まこと~。ええで~」


 湖万里もスタンドで手を叩いて祝福する。そんな湖万里に対して、誠はベンチに引き上げながら手を振るのだった。


 ちなみに、近畿独立リーグでは高校野球とは違い、DH(指名打者)制が採用されているので、投手である誠は打席に立たなくてよい。野球本来の戦術性が損なわれると批判を受けることもあるDH制だが、打撃が苦手で投球に専念したい常に考えていた誠にとってはありがたい制度だった。


 そして、誠は2回、3回、ノーヒットピッチングで大和アントラーズを抑え込むのだった。しかも、出したランナーはフォアボールによる一人のみ。それも、いわゆる制球が不安定で、ストライクを入れる事ができずに出してしまったフォアボールではない。相手の4番打者に対して様子見を兼ねて丹念にコースを狙って投げた結果、出てしまったフォアボールだから心理的ダメージは最小限だ。


「ナイスピッチング、誠!」


 ベンチに引き上げようとする誠に対して、ショートを守っていた忍が声をかける。


「誠は投球のテンポをいいし、鹿村さん構えたところにきっちり投げてくれるから、打球の予測をしやすくて内野手としてはものすごく守りやすいよ。このままだったら、ノーヒットノーランもやれるんじゃないの?」


「ああ、湖万里ちゃんとの約束もあるから、もちろん狙うつもりだ」


 そう力強く宣言する誠。


「そんな、うまい事いくかい! まあ、見てみぃ、次の回にはヒットを打たれて、5回にはノックアウト。前にも言ったけど、持って七回までやろうなあ」


 相変わらず鹿村は誠に対して悪態をつく。


 無言で鹿村をにらみつける誠に対して忍は「まあまあ」となだめるのだった。

 








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ