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とある遊園地からの誘い

つまらない。


ここは人がたくさんいるべき場所なのに。ここには私たちしかいない。

夢を与えるために生まれたのに、夢を与える相手がいない。


さみしい。


写真越しにこちらを恐る恐る見つめるニンゲンたち。なんてつまらなそうな表情。

夢を見せてあげようとちょっと招き入れれば、ひどく暴れて×ぬ。


かなしい。


作られた目的すら果たせない私たちに価値なんてあるの?

楽しんでくれないなら、愉しませてあげる。ほら、コウスレバみんな笑顔!


あそびたい。


もっともっとニンゲンを喚ぼう。仲間が増えたらもっともっとタノシくなるよね。

ふふ、どれだけ遊んでくれるかしら。×ぬまで遊んでくれるかしら。


つまらなかったここも、少しにぎやかになってきた。でもまだ足りない。まだまだチケットはたくさんあるもの。



人型(にんぎょう)ショーと止まらないメリーゴーランドはもう満席だけど、他はまだまだ空いてるわ。

出口のない迷宮がいい?それとも紐無しバンジーがいい?ああ、魔法使いのアナタにはマジックショーがぴったりね!


ねえ、だから遊びましょう?

追いかけて隠れて、見つけて捕まえて、引き裂いて縫い合わせて、声と赤い汗を引きずり出して遊びましょう?

アナタもお友達も、死んでも帰りたくなくなるはずよ。




 【遊ぼう】と子供のような声が聞こえたような気がして、ルチアは思わず辺りを見回す。その動きに目ざとく気づいたアーノルドはアルバムをめくる手を止めた。



「何か違和感でも?」

「子供の声が、聞こえたような気がしたんです」



 少し言葉を濁したが、間違いなくルチアには聞こえたと確信があった。



「僕には何も聞こえなかったが……まあ、僕は耐性だけ高くて()はあんまりだしな。フーゴは?」

「んや、俺もせんぜん。というか反応的に先輩も聞こえてない感じ?」

「ああ。俺が何も感じ取れないのは珍しいが、怪異に法則性を期待しても仕方ない。しかもこれは()()()()危険度の高いやつだ。慎重になるべきだろう」



 瘴気テストは完全防音な視聴覚室で行われている。中はルチアを除けば男子高校生しかいないし、外の声も聞こえない。それなのに、まるで耳元でささやかれたかのような子どもの声に、少しだけ首裏が寒くなる。


 フーゴとロゼットは顔色が悪いのに、頑張って耳をすましていた。アーノルドは端末に何か書き込んでおり、ルチアは気持ちを落ち着かせた。



(こんなテスト、さっさと終わらせよう。私に対怪異の力があるなんて、きっと何かの間違いだよね)



 気を取り直して再びアルバムに目を落としたルチアだが、突然酷い眩暈に襲われた。まるで世界がひっくり変えるようなそれに、座っているのも辛くなる。

 耐えきれず机に突っ伏せば、アーノルドの焦ったような声が聞こえた気がした。



「おい、どうした!?瘴気にあてられたか!?」

「突然、めまいが、してッ……きもちわる、」

「ルチア!?さっきまでヘーキそうだったじゃねえか!おい、しっかりしろ!」

「あの声が原因か?取り合えずテストは中断した方が……おい、ルチアの周り、少し歪んでないか!?」



 目を閉じで眩暈をやり過ごそうとするも、暗闇でも視界がぐるぐるする。いくら待てど一向に収まる気配はなく、むしろ悪化してさえいる。

 誰かが近くで声をかけているのは分かるが、脳みそが働くことを放棄しているせいで判別がつかない。

 それなのに、あの声はこの上なく鮮明に聞こえた。



【私たちと遊ぼう】




 思考を埋め尽くすようなその声を最後に、世界が暗転する。




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