黄昏
エログロです。ご注意ください。ちなみに作中の「〜証」は フランツ・グリルバルツァーさんの“接吻”1819年作品 です。
黄昏。
それは、その日の終わり、逢魔が時、誰そ彼。
生命の終焉、世界の終わり。
全てが眠りにつく準備期間。
全てが終わりに近づくその瞬間。
彼女は尋ねる。何が悲しいの、と。
僕は答えに困る。悲しんでなどいないから。
太陽が去り、夕焼けが名残とばかりに西の空を彩る。
何も感じない。ただ知っているのは、もう二度と見る事のない景色である事。
再びあの太陽が昇る頃、僕たちの身体は、太陽の輝きとは別に赤く染まって冷たくなっている事を。
ずっと持っていた希望。
ずっと待っていた願望。
ずっと秘めてきた欲望。
さらけ出してみようと思う。
ゆっくり近づく僕を彼女は微笑を浮かべて待つ。その微笑はとても清らかで、美しい。
僕もつられて笑うけれど、彼女のようには笑えていない。僕の心は歪んでいるから。
僕は思う。
逢魔が時を知らないのか。命が惜しければ速く逃げろ、と。
彼女はそれすらも承知でここにいるのかもしれない。
あの日、突きつけた不条理で理不尽な選択をした彼女は、もう、僕の全てを分かっているかもしれない。
謝罪と、とびきりの感謝を。
永遠の愛と、永遠の共生を。
僕は彼女に跪き、手の甲にキスを送る。−−−−−−忠誠の証。
立ち上がり、白く美しいその頬を両手で包み、額へのキス。−−−−−−友情の証。
そのまま手をあごにやって、頬にキス。−−−−−−厚意の証。
唇に、優しいキスを。−−−−−−愛情の証。
唇から離れて、閉じられた瞼にも。−−−−−−憧憬の証。
手首を掴み、舌で掌までなぞって。−−−−−−懇願の証。
また少しだけ舌で手首までなぞって、最後のキス。−−−−−−欲望の証。
僕の正気はここまで、後は狂気である事を示す為に鎖骨に舌を這わせ、僕のお気に入りの、鎖骨のくぼみに吸い付いた。
そして、絶頂を迎えた彼女の喉を切り裂いた。
最後に彼女はやっぱりするのね、と残念そうに笑った。抵抗はなかった。
そしてその後そのナイフで僕自身の喉も裂いた。
赤い、液体が流れる。
命の証、痛みの色、全ての源となるその液体に浸って僕の意識は闇に溶けた。
三部作完結編です。後もう一話、載せようと思っています。よろしければ、おつきあいください。