ないのなら作ればいいじゃない
一人だったものが二人になると不便なのが呼び方である。ホーとジェスチャーだけである程度理解してくれる賢い子ども1と違って、2はちょっとでも手を伸ばそうものなら暴れるわ叫ぶわ。何も取って食おうってわけでもないのに。
もしかしてこの前の乳事件のアレで本当にショタコンか変態かと思われでもしてるんだろうか。それはすごく失礼だから止めてほしい。切実に。
誰が自分から進んで胸を差し出すか。人外になったとしても怒るぞ。マジで。
お風呂の時間になったら1に頼んで連れてってもらって自分たちで綺麗にしてもらうことにして、食事も用意しに行ってくるよーのホーで済ませて。飲み物トイレもどうぞご勝手にスタイルにすることにした。
これで何も問題あるまい。……ただ本当にちゃんと自分で綺麗に出来てるかは気がかりだけど。だって私の邸独特のあの液体だったとしたら彼らにそれが理解できるのかも謎だし。
ちょっと不安を抱えるも1が上手いこと説明してくれてるらしく臭ったりフケが出たりは今のところはなさそう。良かった。潔癖じゃないけども一緒の家で暮らしてるのにシラミとかダニとか?そういったものくっつけてうろうろされちゃあ困るもの。
「ホー……」
「だから!これは僕の服だって言ってるじゃん!勝手に取らないでよ!自分の分が欲しいなら君も出してもらえばいいでしょ!」
「ああ!?あんな意味の分からん化け物に頭なんか下げられるか!お前が出すように命令でもなんでもしろ!」
「……」
最初の汚い服も含め五着服はあるんだけど、綺麗な服を巡って今日も喧嘩が起きる。普通にもっと欲しいって言ってくれれば引き出し開けるんだけどな。
私を置物のようにスルーして続く彼らの取っ組み合いに下手に怪力の私が参戦して止めるわけにもいかずに手を上げ下げしつつ情けない声であのーもしもしー?を繰り返し。
早々に諦めて椅子に腰かけて遠くを見る。
うーん天井のお花とおどろおどろしい死神みたいな絵綺麗だなぁ。なんでそんな合わないようなモチーフなのかは理解できんけどさぞかし名のある名匠が描いたんだろうね、なんて。
そう言えばこの部屋にドレッサーがあったっけ。髪でも梳いて少し乙女として身だしなみを整えでもしようか。
大きな大きな鏡と大きな大きな化粧瓶らしきものと怪しげな匂いの、多分香水瓶?こんな見てくれなのに本当に乙女みたいだ。そう思いつつ私サイズの象牙色の妙に凝った透かし彫りの施された櫛を取る。
長い長い踝にまで伸びる黒髪をゆっくりゆっくり、絡まないよう、痛まないよう梳かす。外野でまだ騒いでる二人には無視を決め込んで。鼻歌でも歌いたくなる。
「~♪」
機嫌よく髪を梳いていってふと目に入った黒い木で出来たジュエリーボックスに興味を惹かれて櫛を置いて、パカッと開いてみる。おお、かなり大振りの指輪やネックレスがずらり。これもきっと私のだったんだろう。ダイヤのように透き通る宝石の着いたものを一つ人差し指につけて掲げる。
そうすると中で水に落としたインクが広がるように青い何かがとろりと動いて指を動かす度に色味が変わって面白い。これは何て言う宝石なんだろう?お気に入りにしよう、と指から抜いて丁寧にジュエリーボックスに戻し、今度は黒いオニキスのようなものが着いたネックレスを引き出しペンダント部分を覗く。
すると宝石の中で暖炉の火が揺らめくように輝き出してこれはこれで素敵。むふふ、このファンタジー感満載のアクセサリー全部私のなんですぜ?口と目があったら絶対に気持ち悪く歪んでただろう顔でぐへへと言うようにホッホ言いつつジュエリーボックスを閉じかけ。ふと、思いついてまた願いをかけた。
二人の子どもを呼び分けした時にどちらを呼んだかわかりやすいように光る指輪かブレスレットが欲しい。私用の大きさではなく、子どものサイズで。できれば成長に合わせて大きさが変わるもので。
一旦ジュエリーボックスを完全に閉めて、それから開けると先程までなかった小さな指輪が二つ。所在なさげに大きなアクセサリーの間にあった。
壊さないよう、落とさないよう慎重に摘まみ手のひらに転がし立ち上がる。そして子どもらの方に歩みずいと差し出した。
服の話しはどこへやら、全然違う話題で髪を引っ掴み引っ掻き傷だらけで床に転がるような喧嘩にまで発展していた二人は一瞬気圧されたような表情で固まってから私を見上げたが有無を言わさずにそれぞれに指輪を握らせホーと鳴く。
子ども1!と意味を込めればそちらの握らせた白い石の着いた指輪が仄かに明るく輝きだし。子ども2!と呼べば琥珀色の石の着いた指輪が同じように輝きを放った。
よしよし。これでどちらを呼んだか二人もわかっていいだろうと満足して腰に手を当て胸を張れば呆気に取られ目を丸くしていた二人が言葉を放った。
「……こんな貴重な石をそんなふうに使うなんて」
「阿呆だ、真正の阿呆がここにいる」
何だとぉ?!失敬な!特に2!お前はいっつも口が悪すぎるわ!力を入れずに手を当てるだけを意識してお仕置きチョップをお見舞いする。悶絶して痛がり涙目になって抗議してくるがお前が圧倒的に悪いんだから当然の報いである。
ない鼻をフンと鳴らすようにプン!と鳴いて私は2を睨みつけた。