ここは保育園でも孤児院でもない
「君、サザナン公爵家の縁者だよね」
その黒髪とエメラルドの瞳、とさして化け物邸に囚われていた少年はあとから来た彼に投げかけた。
問いかけなどというものではない。確固たる確信を得た上での確認のような口ぶりに彼は眉間に深く皺を作る。
「そういうお前こそ。確かレナントの夜会で見かけた顔だよな?確かロンド伯爵家の正式な後継者だったと思ったが、何故こんなところで化け物と乳繰り合って暮らしている?」
「ハァ?あの女かも怪しい化け物とどうやってそんなことできるって言うんだ」
「反応するべきところが違うだろうが」
顔を真っ赤にして怒る伯爵家の後継者、公爵家に縁のある少年はしばし睨み合い沈黙する。
ややあって。ホーホーと聞こえてくる不気味な怪鳥の鳴き声のようなそれを耳にし、そちらの方へと同時に顔を向け。
「互いに訳があることには違いない、か」
「それにあのよくわからない化け物に窮地を救われたのもね」
人喰いの化け物が棲むと言われ続けた廃墟。
実際にいたのも見上げても足りないほどに背の高く、のっぺりとした陶器でできた人形のような白い肌をした謎の生き物。
その実、触れれば人と同じように体温だってある。
だかしかし目立った害意は今のところは見られない。言葉を発することもなくホーホーと鳴く他できないのが痛いが、意思疎通は叶う。その場の状況を判断したり彼らの表情、心を読んだ上で動けているのだから人と変わりないと判断しても相違ないのではないか。
そして何より。食事を用意し彼ら見捨てられしものたちに提供するその行動だ。子どもの好きそうなものを持ち、顔を顰めるでもすればそのものは二度は出さなくなる。嫌って残すことにより食材が無駄になることも理解しているのだ。
彼らにとってそれだけで利用できる化け物である。肉親に恵まれずこのような場所に追いやられるくらいの境遇で生きた今、むしろ心地が良すぎて夢ではないかと思うほど。
血を分けた子らにここまでの仕打ちができる親族らと、この化け物と。一体どちらが真の化け物なのだろう。
「ホー?」
朝食を終え、二人話している間に食器を片し戻ってきたらしい化け物が首を傾げ不思議そうに何を話しているのかというふうにしているのを二人は互いにそっぽを向いてなんでもないというようにやり過ごした。