奇妙な同居生活
当たり障りなくご飯の用意は私、お風呂に行くのも私から連れてという日々が続いてだいぶ子どもも慣れてきたように思う。ふっくらしてきてお顔立ちの良さも戻った感じが誘拐されちゃいそうでちと心配だけど。
今日もわしゃわしゃ石鹸お風呂で頭を洗ってあげてると、
「あの……僕のこと、食べないんですか?」
ついに子どもちゃんが声を出しましたよ!内容は良くないけど話しかけてくれるってことは信頼関係築けて信頼してくれたってことだよね?嬉しい!
だがしかし私はホーしか言えんのだ。
「ホー」
渾身の優しさを込めた同意のホー。どうだ、伝わった?!
物憂げに振り返る形の少年は悩ましげに溜め息をついてやっぱり何でもないですってガーン。伝わってない!
ホゥホゥ全く近頃の美少年は!とぷりぷりホゥホゥしながら体を洗い終えてお風呂から出て布を渡せば慣れたようにそれをぐるぐるする子ども。
可愛らしいはずなのに憎らしくも見えるのはさっきの態度のせいね。可愛さ余って憎さ百倍!
「化け物なのに人間より優しいって、やっぱり変……」
なにおう?!やんのかてめー!
シャー!と威嚇できない代わりにうねうねくねくねとして不満をあらわにするもスルーを決め込まれて撃沈した。
「これからどうしよう。当分の間はここで身を潜められるとして、でも化け物がこんなんだって知ったら皆退治しにきて結局殺される」
おっとぉ、それは聞き捨てならないな。やっぱり外の人から見たら私みたいのは何もしてこなきゃ弱そうに見える感じ?難儀だね。
殺される前に殺す……なんてのも私みたいな一般ピーポー、元武術も何も嗜んでない系女子には荷が重いですし。
多勢に無勢だったら余計にマズいかな〜?
「ホー……」
思わず溜め息のような細い声も出ますとも。それを聞いて何を思ったのか、子どももまた視線をこちらに寄越してくる。
「そんな声出すってことは来られたくないってこと?やっぱり変な化け物だ。ねぇ、なんか即死魔法出せたりとか呪術とかかけられたりしないの?」
「ホー?」
え。そんなものあるのこの世界。初耳なんですけど。
「ホーばっか。もういいよ」
諦めたのか、呆れられたのか。わからないけれど不貞腐れたようにまた前を向いてこの子のベッドのある部屋へと向かう。
慣れたんなら名前くらい教えてくれてもいいのになぁと考えながら子どもが寝付くのを見守り部屋を後にした。