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1-16 あるいは破滅か【ザフール一行(2)】

 ダンジョンをぼんやりと照らす水晶に、血糊がべったりとついていた。

 ザフール一行が倒したモンスターのものだ。


「フン! これでこの部屋の敵はしめぇか?」

「……そのようですね」

「一度休憩をはさむか。警戒は怠るなよ」


 戦闘が終わったようだ。

 各々周囲を警戒しながら、戦いの熱を冷ましていく。

 倒したハイオーガの死体が、あたりに横たわる。

 Cランクのモンスターだ。

 Aランク冒険者の彼らにとっては容易に倒せるはずの敵。

 そのはずなのだが、彼らには必要以上の疲労が見受けられた。


「水晶がここまで少ないとは想定外でしたね」

「全くだな……」


 ザフールの困った声がダンジョンに響く。

 ダンジョン内の光源は、明るく光る水晶だ。

 冒険者の常識と言ってもいいい。

 だが今回の未開拓ダンジョンは、その常識は通用しないみたいだ。


 水晶は一応存在しているのだが、その数はとても少ない。

 そのせいで不自由な戦闘を強いられているのだ。

 ギルドで説明されたときは、このような情報はなく、照明器などの準備はおろそかだった。

 夜の野営などで使うために持参したカンテラはあったのだが……。


「カンテラが壊れたのは痛手ね」


 彼らが持っていたカンテラは壊れてしまっていた。


「あーあ! どこぞの僧侶が大切にしねぇからなぁ!」

「…………」


 ぎろりとトルエンが睨む。イラついているようだ。ポペにきつく当たる。だが彼は何も言わない。言い返せない。

 なぜならポペが罠にかかったために、そのカンテラは壊れてしまったのだから。

 こぶし大の石が天井から降ってくるだけの単純な罠だった。

 無論、頭に当たれば大怪我だ。もし治療役のポペが倒れでもすれば、目も当てられない。本人に当たらなかったのはよかったのだろう。

 だが代わりにポペが持っていたカンテラに石が当たり、そのまま壊れてしまったのだ。


「トルエン。やめろ士気にかかわる」

「……ちっ」


 ザフールがいさめると、トルエンは舌打ちしつつも黙る。

 舌打ちしたいのはザフールもだった。


(まさか近隣の村でカンテラを売ってくれないとは)


 カンテラが壊れたため、一度ダンジョンから出た後に近隣の村にカンテラを売ってくれないかお願いはしたのだ。

 そしたら高額な値段を吹っ掛けられたのだ。街に預けている金があれば、買えなくもないが、クエストに出ている今、そんな金は持ち合わせていなかった。


(クソ! 守銭奴どもが!)


 悪態をつきながら地面を蹴る。

 ザフールは勘違いしている。


 そもそも街から大きく離れた村では、貨幣があまり重要視されない。

 商人たちが通ることさえ少ない村では、使い道がほとんどない。

 ゆえに物々交換が基本なのだ。

 そのような村で生活必需品を買うためには、こちらからもそれなりの物を出さなければならない。

 持ち運びがしやすく、換金率も高い、なおかつ保管にもあまり手間取らないもの……宝石があればベストではあるのだが。

 ザフール一行はもちろんそんなもの持ち合わせていない。

 キエルがこういう時のためにと、私財をはたいて用意していた宝石を彼らは売り払ってしまった。


 そんな事情を知らないザフールたちは仕方なく、松明と魔法を使うことで探索を続けた。

 ただ戦闘になれば片手剣のザフールはともかく、両手斧のトルエンは松明を投げ捨てなければならない。

 戦うために致し方のないことなのだが、それは暗い中戦わなければいけないことを意味していた。

 薄暗やみでの戦闘は、彼らの疲労を加速させる。


「ねぇ……一度街に戻ることにしない?」


 マギシアがそう提案する。彼女の顔には(クマ)が浮かんでいた。

 今回のダンジョン攻略において、特に負担がかかっているのが彼女だ。

 ダンジョン内にいる間、彼女には辺りを照らす【灯の魔法】をかけてもらっている。

 初級魔法ということもあり、消費魔力は微々たるものだが、ちりもつもればなんとやら。

 しかも戦闘時には合わせて攻撃魔法を使うのだから、なおさらだ。

 そんな彼女が街に戻ることを提案するのはもっともだった。


「それは、できないな」


 マギシアの事情を知ってはいるものの、ザフールは却下する。


「なんでよ!? もうギルド長からの依頼はこなせてるじゃない!?」


 語彙を荒げながら、自分の意見を押し通そうとするマギシア。

 彼女の言っていることも間違えではない。

 ギルド長からの依頼は、未開拓ダンジョンを探索するといわれているだけだ。

 ザフールたちはダンジョン内の様子、それに出現するモンスターも確認はできている。

 報告内容さえ工夫すれば、一応の達成と言えなくもない。

 言えなくないのだが……。


「落ち着け、マギシア。まだ4階層だぞ。本当に探索したと言えるのか?」

「それは……そうだけど」


 マギシアの声がしぼむ。

 ザフールの指摘、それは彼女自身もわかっていることだ。

 まだ4階層なのだ。

 Aランクのパーティーが探索した結果としては、いささか具合が悪い。

 最低でも10階層、あるいは何らかの宝を見つけてはおきたいのだ。


「はっ! 好きに言わせとけ、ザフール。そいつは臆病風に吹かれちまったんだよ」


 トルエンが明らかに馬鹿にする。

 彼にとって、こんな上層での撤退などで到底受け入れることはできなかった。

 だからそのようなことを言ってしまったのだが、はっきり言って悪手だった。

 プライドの高いマギシアが、怒らないはずがない。

 キッと目を吊り上げると、食って掛かる。


「あら、ただ斧を振るだけしかできない脳なしのくせに、ずいぶん偉そうな口を聞くのね。誰のおかげで戦えていると思ってるのかしら」

「そりゃあ俺のセリフだな。俺たちにモンスターを擦り付けて、遠くから魔法撃ってるくせによ!」


 トルエンとマギシアの言い争いが始まる。

 普段であればポペが仲裁に入るのだが、今日に限っては黙ったままだ。

 二人の喧嘩だって、元はといえば罠に引っかかった自分が元凶。余計なことを言って自分に矛先が向かうのは嫌だった。


「これならまだキエルのほうが使えたわ!」

「ンなわけねぇだろうが! ぶっ殺すぞ!」


 口喧嘩はとどまることを知らない。気がつけば二人とも立ってにらみ合っており、一触即発の雰囲気を醸し出していた。


「おい、二人ともそこまでに――」


 ザフールが止めようとしたそのとき。


 カチッ。


 嫌に乾いた音がトルエンの足元から響いた。

 慌てて足をどけてみると、いかにも罠の起動スイッチですといいたげな、ボタンが押し込まれていた。


 なれない戦闘。

 魔法の浪費。

 積もる疲労。


 どれが原因かは定かではないが、結果として誰一人踏んでしまうまで、気がつかなかった。

 途端にトルエンとマギシアの口論が止む。

 シンとあたりが静まる。


“ダンジョンの罠ってのは、誰が引っかかるんだと思うものほど、実際にかかるとヤバいことになるんだ”


 マギシアは、もうこの場にいないシーフの言葉をふと思い出した。

 もっとも、もう手遅れなのだが。

 次の瞬間――。


 ビーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 甲高い音が部屋に鳴り響く。


「な、なんなのよ!」

「鳴子だ! 構えろ! 敵が来る!」


 ザフールの指示で、メンバーは戦闘態勢に移る。

 部屋につながる複数の道から出てきたのは――。


「そ、そんな……」


 ポペが絶句する。

 モンスターの群れだ。4、5体どころではない。数えるのも馬鹿らしいほどの数だ。

 死が近寄ってくる。

 一秒も無駄にする時間などない。


「急げ! 血路を開く! 先頭は俺だ! 足を止めるな! 死ぬぞ!!」


 悲鳴ともいえる叫びで、ザフールはそういうと敵の群れに突貫した。

 頭の中は色々なことで一杯だった。


(どうしてだ! なぜこんなことに! こんなつまらない罠で!)


 迫りくるモンスターどもを斬って斬って斬り進む。

 どこに行けばいいのかわからないまま、突き進む。

 その先にあるのは、希望かあるいは……。

「面白いじゃあないか!」「続きが楽しみー!」


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