1-14 得られた力は
「どうやって、契約の力のことに気がついたんだい?」
「……たまたま違和感があったからな」
「違和感ねぇ」
「あぁ」
「具体的に説明できるかい?」
「それは……なんともいえないな」
言葉にするのは難しいが、戦いの最中になんとなく感じたのだ。
「んー。まぁ感じ取れただけ、良しとしようじゃあないか」
ルアネの中での及第点には達したようだ。
「ふむ。契約で授けたものを詳しく話してなかったね。よろしい。説明しようじゃないか」
「よろしく頼むよ」
周囲にモンスターはいない。靄も視えない。
話を聞くぐらいなら、大丈夫だろう。
つかつかとルアネが歩み寄りながら、話を始める。
「キエルの強さの身体は三つの点で強くなった」
三つ?
てっきり二つだと思っていたが。
とりあえず素直に話を聞くか。
「とはいえ、一つ目はもうわかっているんだろう」
「あぁ眼のことだろ?」
流石に長年慣れ親しんできたものだ。すぐにわかった。
「正解さ。攻撃を……君の場合、黒い靄として視えるんだっけか。ともかくそれが視えると、集中力が高まる。遅くで視えるようにでもなってるんじゃあないかな。これが一つ目さ」
ガイルや、スケルトンの攻撃が遅く視えたのは、この力のおかげか。
また日常生活で支障をきたさないのも納得だ。
攻撃されない限り、普段通りということか。
とはいえこれは大方予想通りだ。
それよりも気になるのは二つ目。
「二つ目は単純な身体能力の向上さ。ただし変動してしまうけどね」
「あぁ、さっきのはそういうことか……」
先ほどの違和感に合点がいった。
おかしいと思ったのだ。
Bランク冒険者を一撃で気絶させられる力があるのに、Eランクモンスターの攻撃で後ずさりするなんて。
これではまるでスケルトンと戦った時には、弱体化したみたいじゃないか。
どうやらそれは契約の仕様のようだ。
だとすれば、だいたいの想像はつくぞ。
「変動する基準としては、相手の強さか?」
「察しがいいじゃあないか。流石だね。そんな感じさ」
あいまいな回答だな。
「そんな感じっていうってことは、強さそのものではないのか」
「んー。そこはうまく説明できないんだよね」
「説明できない?」
「強さなのは間違いないんだけどね」
困った顔を浮かべながら、ルアネの話は続く。
「その、強さって一概に言えないものだろう? 力だったり、魔力だったりさ。基準なんて決まっていないし、まちまちじゃあないか」
「ルアネだと技量みたいなものか」
「よくわかってるじゃあないか。ところで私の戦い方を視てどうだった。あまりの凄さに驚いだろう?」
ドヤ顔で胸を張るな。色々主張が激しいぞ。
腕が確かなのは間違えないから、いいっちゃいいのだが。
「あぁ。俺が知る冒険者の中でルアネほどの奴はいなかったよ」
素直な感想を伝えると、ルアネは途端にもじもじとし始める。
「あ、ありがとう……。もう! いきなり褒めるなし!」
照れるなよ。
「ごほん、話をもどすとなんていうのかな。その時々で変わってしまうんだ。ただ相手より劣るということは決してないから安心したまえよ。あったとしても、拮抗するぐらいかな」
「そうか……。ところでよ。なんでこのことを最初に教えてくれなかったんだ」
今回は問題にならなかったからよかったものの、事前に教えてくれることもできたろうに。
「ん? あぁ別に教えなくてもいいかなと思ってね」
思わず肩の力が抜ける。
「そんな軽い理由なのか……」
「それに、自分の力量を誤って死んでいく。それもまた戦士らしいじゃあないか」
戦士らしいじゃないんだよ。
俺にとっては死活問題だ。
「あのな……」
「まぁ死神としてはどう戦って死のうが構わないからね」
ぬけぬけと言うな。
そんな簡単に死んでたまるかってんだ。
俺はお前のおもちゃではない。
むっとした俺を見て、流石に悪いと思ったのか、ルアネが謝ってくる。
「ふふ、そんなに怒らないでくれよ。そうだな、お詫びにと言っちゃあなんだけれど、契約の内容を変えてあげようかい。常に強くなれるようにしてあげよう」
「なに? 契約内容を変えられるのか?」
「一回だけだけどね」
それはとても魅力的だ。
力はともかくとして、ぜひ戦死する運命とやらを……。
「当たり前だけど戦死する運命を変えることはできないよ」
だよな。
そんなうまい話があるはずがないか。
「ならこのままで構わない」
「へぇ……変えないのかい?」
「別に変えなくてもそこまで困らないしな」
元々ゴブリンをぎりぎり倒せるかどうかって程だったのだ。
多少揺れ幅があろうが、普通に戦える力を手に入れられたのだから文句はない。
「ふふ。あははは」
なんでかルアネが笑い始める。
いつもより愉快そうだ。
理由は全く分からないけど。
「何笑ってんだ?」
「いや、特に何でもない。ふふふ。気にしないでくれたまえ」
?
まぁいいか。
「そういえば三つ目をまだ聞いてないが」
「朝伝えたのに、もう忘れたのかい。健康な身体さ」
「あー、そんなこと言ってたな…………オマケって感じだな」
「何を言うんだい。これで病気を言い訳にせず、しっかり死ねるだろう」
「えぇ……」