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お守りに触れて
鈴葉、君の髪がなびく
君の声が聞こえる
君の足音が止まる。
ただ、鮮明に僕の記憶に残る。
〜24歳の春
僕は地元の高校に教師として戻ってきた。
なんの変哲もない山に近い高校だ
春は山にちらちらと桜が見える。
懐かしい風景を横目になんでこんな田舎に、なんて思ったりした。
トラクターの泥が落ちている道に
車を走らせ高校へ向かう。
あぁこんな匂いだった。
この泥が嫌だった。
山の匂いがここまでしてくる
入学式、僕にとってもはじめてのクラスとなる
緊張で紹介の挨拶なんて何を言ったか覚えていない。
クラスの生徒にはまず自己紹介をしてもらうことにした。
「名前と簡単な特技でも教えてもらおうかな」
五十音順に並んだ席
窓際の1番前の席に彼女はいた
「相川鈴葉です。特技はどこでも寝れること。」
簡潔に済ませた彼女は
頬杖をつきながら外を見つめた
長い黒い髪は風でなびく
外を見つめる目は長いまつ毛がすける
どこか大人びた表情の彼女は
自己紹介をする生徒に目もくれず
外を眺めていた。