完全に世界の真理を理解した
エルフ達の暫定国王だったリウィアが治めていた拠点の遺跡から、一番近い都市はアリシアがいる皇都だ。一番近いとはいっても歩きでほぼ一日がかりの行程になるだろう。
行きは車だったから、1時間ほどで済んだけれど、舗装されているわけでもないので、距離的には四十キロくらいだろうか。
森や荒れ地が点在する中、慌てて移動する必要もないので、俺は観光気分で、ルイーゼとデジレと共に歩いていた。
だけど、元気そうに俺と手を繋いでいるデジレは別にして、ルイーゼはなんだか考え込んでいるようだった。
「どうしたの、ルイーゼ? まだ一時間もたっていないけど、疲れた?」
ルイーゼは俺の質問に頸を振って答えた。
「リウィアのことなんだけど、ホントに放置してよかったのかなあ」
遺跡の人間の塔で俺はリウィアと戦った。その結果リウィアを何とか倒したけど、俺の指示でアリシアが塔の治癒魔法を使った時、ルイーゼ、デジレと共にリウィアも治療されたようだった。
だからリウィアは人間の塔にまだいるはずだった。
それはもちろん俺も認識していた。ただ、アリシアが言うには、もう心配しなくて良いとのことだった。
「まあ、アリシアが心配しなくても大丈夫って言うんだから――」
そこまで言いかけると、ルイーゼが俺の瞳を覗き込んで、オーラを込めた言葉を発してきた。
「へぇ、信二はずいぶんあの人のことを信頼しているのね?」
ヤバイ。ルイーゼのこの言葉は実は疑問文ではない。
括弧内に色々なヤバ目な真意が隠されているんだ。
ただ、俺にはその括弧内が見えない。
もしこれがギャルゲーなら、何という無理ゲーだ、とキーボードを叩きつける場面だ。
だが、現実逃避行動はこれくらいで限界で、何かルイーゼに対して適切な反応を示さなければ世界が滅びる危険性すらある。
だが、ピキーンと言う音と共に、いいアイディアが俺のピンク色の脳細胞にひらめいた。
「大切なルイーゼとデジレを助けてくれたんだ。信頼しないわけがないだろ?」
さすがだ。俺。その場しのぎの言動の発露には定評があるのだ。
その返事は予想外だったんだろう。ルイーゼは頬を赤らめて、小さく頷いた。
「うん。そっか。そうだよね」
そして、デジレがうっとりした顔で俺の腕を身体全体で抱きしめてきた。
「デジレも大切なんだね? ね?」
デジレの胸が二の腕あたりに触れて、俺の脳細胞がさらにピンク色になっていく。
そして、デジレの向こうを張るようにルイーゼも俺の腕を抱きしめたとき、俺はこの世界の真理を理解した。
つまり、この世界にはブラがないことを。
実はデジレが防具を着けるときに覗き込んだ/偶然見えたことがあった。デジレは胸当てをしていたんだ。
それは例えば弓道で女子が着けるようなものであって、ブラジャーではなかった。だが、俺は胸当てがある以上、根拠なくブラがあると認識していた。
俺の軽率な判断は間違いだった。
デジレだったら、俺を誘惑するためにノーブラという戦略をとり得る。
しかし、ルイーゼは曲がりなりにもお姫様だ。そんな手続をとることはあり得ないと断定して良いはずだ。
故に、この二人がブラを着けずに、腕に抱きついていると言うことは、この世界にブラがないと事実について充分な証拠であると断言して差し支えないだろう。
「俺、今この世界の真理を理解できた気がする」
俺が呟くと、デジレが俺をキラキラした目で見た。
「信二様、凄いっ。何を理解したの?」
ルイーゼは俺の言葉を聞いて、俺の腕を抱きしめたまま不思議そうな顔をした後、ハッとしたように俺から離れた。
俺が怪訝な顔をしてルイーゼを見ると、慌てたように言い訳をした。
「ご、ごめんなさい。怪我を治療した時に、壊れた(ブラ)を外したままだったから……、は、恥ずかしいっ」
あーつまり、俺のつかんだ真理はただ一つ。
ルイーゼとデジレの胸は柔らかかった。
それだけだった。
第二部は短い章を投稿していく予定ですので、章立ては最後に調整する予定です。