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序章

『あのさ、俺は、必ず戻ってくるよ――』


 ベッドの中。まだ目が開けられない。

 眠りが浅くなったのは、頬に何か冷たいものが触れているからだろう。

 頬に冷たいものが落ちている。

 一体何だ? 水? それとも雨漏り?

 夢現の中間で意識が徐々に回復していく。

 何だか、とっても長い夢を見ていたような気がする。

「んー、そろそろ学校に行かないと――、あ、また寝間着着ないで寝ちゃったのか?」

 そう言いながら目を開ける。

「え?」

 目の前に何か長い金属質の板のようなものがある。手を伸ばして、それをどけようとした。

「いたっ!」

 鋭い痛みを手のひらに感じて、慌てて手を引っ込める。何だ?

 意識がはっきりしてきて気がついた。これは刃物の類いだ。誰かが刃物を俺の目の前に差し出しているようだ。

 何が起きてる? うちって、朝起きて刃物を目にするような殺伐とした家庭だったっけ?

 そして毛布を頭までかぶった。そして、徐々に思考がまとまってくる。

 毛布の中で掌のぬるっとした感覚を感じた。嘗めたときの鉄の味で理解する。それは自分の血だ。あり得ない。刃物を目の前で当てられていたって言うこと?

 マジで? 何だ? どうして刃物を持った奴が俺の部屋に入り込んでいるんだ?

 刃物を持っている奴が部屋にいるならそいつは日本刀を扱う古美術商か強盗に決まってる。可能性としては、古美術商に賭けたい。 

 俺がそう判断するまで二秒ほどかかった。

 俺は毛布を抱えたまま立ち上がった。逆光でよく相手が見えない。だけど家族じゃない。それが分かった。

 毛布なんて盾なんてならないだろうけど、素手よりはましだ。

「一体誰だっ?」

 そう叫ぶと同時に、毛布を振り回した。タイミングよく毛布が相手に絡まった。

 俺ってすごい。こういう危機一髪の時にうまくいくのは天才的だ。

 ひとしきり自画自賛した後、相手に体当たりして、床に押さえ込もうとする。

 だけど、相手はびくともしなかった。毛布越しに甲高い声が響いた。

『ぶ、無礼者っ』

 びりびりという音とともに毛布が引きちぎられていく。

 すごい力だ。毛布って破れるものなのか? 信じられない。ゴリラ並みの力だ。古美術商を甘く見ていた。確かに重いアイテムだって扱ってるだろう。

 古美術商ゴリラから逃げた方がいい。毛布にくるまったゴリラの横をすり抜けると、開け放たれたドアに向かい走った。背後に気配を感じつつ、部屋を出る。廊下から後ろを振り返りもせずに、階段を駆け下りた。

 居間をのぞき込んだ。誰もいない。どこにも見えない。最悪の予感に戦慄する。

 家族が透明人間になったのだろうか? それは困る。まずい。

 全身を冷や汗が襲った。

 例えば、妹が風呂に入ろうと服を脱いでいるときに、間違って風呂に入ることだってありそうだ。考えられる限り最悪の事態といっていい。

 しかも、透明になった妹なんて見てもおもしろくも何ともないというおまけ付きだ。

 ふざけんな。そんな最悪の事態が許されるはずがない。

 たとえ俺が許しても、俺より心の狭い神が許さないはずだ。

 殴られるだけで裸見られないなんて、そんなハプニングにどんな意味があるって言うんだ。

 そんな最悪の事態は避けたいが、もしそうなら、いくらなんでも両親だって、透明になった自分にびっくりして叫ぶくらいのことがありそうだ。それがないからには、おそらく最悪の事態はない。

 そして最悪から二番目の状況は、家族があの古物商強盗ゴリラに襲われたケースだ。

 どうすればいい? 警察に電話? 反撃のための武器を探す? 台所で包丁をゲット?

 いや。一番確実な方法は、外に出て助けを求めることだ。

 そう判断して俺は、そのまま玄関から外に飛び出した。もちろん靴なんて履く余裕なんて金輪際無い。だが、用意周到で抜け目のない俺は靴を持って外に出た。

 さすがだ。俺。

 玄関を閉めた後、扉を睨みつつ靴を一瞬で履いた俺は、振り返って外に飛び出した。

 そして、声を上げようとして絶句するしかなかった。

ちょっとした実験で入れていたデジレ編のプロローグを、元々のルイーゼ編のプロローグに入れ替えました。これが真のプロローグです。

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