↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辻封じ  作者: segakiyui
4.祭事方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/31

3

「わかったんなら、はようお入り、いろいろと話しとかな、あかんことがでてきたさかい」

 姉きが冷淡に命じて、俺はうなだれたまま、部屋に入った。克也も続けて入ってくるのに、その姿を見ないまま、今度は俺の方から距離を取る。

「異界ぽんちさん、お名前は?」

「あ、大槻、克也、です」

「そう」

 俺がまともに落ち込んで、姉きの機嫌はかなり回復したらしい。にっこりと鮮やかに笑って見せた。

「私は神女光津子、この『京』の祭事方を努めてます」

 女官が内密の話と心得て、背後の扉を閉めていく。

 目の前は輝くような美貌の姉き、隣には克也が立っていて、ただでさえ窓のない塗籠が一層狭く息苦しい感じに満たされていく。

 この場にいたくない、と痛烈に思った。

 さっさと用事を済ませて、ここから、せめて克也の側から離れたい。でないと、胸のずきずきが全然おさまってくれなくて、このまま心臓発作でも起こしそうだ。

 そんなことを思っていた俺の耳に、

「もう知ってはるやろうけど、そこにいるのは、私の妹、神女達夜です」

 姉きがそう言い放つ声が届いて、俺は体が凍った。身動きできないほど体が竦んでしまった。

 克也は俺を男だと思っている。思っていたからこそ、きっとこれほどあっさりと俺と行動を共にしたのだろうし、あれほど昨夜のことにうろたえたのだ。克也の女の好みはわからないが、それでも祭事方だのという少々風変わりな女に警戒するのは当たり前だろう。美貌の光津子姉でも煙たがられるのなら、俺なんか問題外だろう。

(え? 俺、何、考えてんのや?)

 ふいにそう気づいて、俺は二重に凍ってしまった。

(問題外って何や。何がいったい問題外なんや。俺は何を期待してるんや)

 そんなこんながいきなり体いっぱいになって、無意識に口を押さえて体をより竦めてしまった。

 それに、なぜ、いきなり姉きがそんなことを言い出したのか、それが今回の件にどういう関係があるのかもわからない。

 だが、もっと驚いたのは克也の反応だった。

「え、ええ、はい」

 当然のような穏やかな返事。

 俺は思わず克也を振り向いた。 

「はい、そうですよね」

 俺を男だと思っていたはずなのに、克也は眉一つさえ動かさずに、ふんわりと俺に笑って見せた。

「知らないと思ってたの? いや、だって、それなら、あのときだって、あわてたりしなかったよ」

 薄暗い光の中でもうっすらと克也が頬を染めたのがわかった。

 あのときって、あの、夜のとき、か?

 布団の上に倒れかかった俺と、その俺の下にいた克也。頼りなげに見える外見とは違って、意外にしっかりと俺を支えた身体。さっきつかまれた手に重なる温かさ、かすめるように通り過ぎた唇の感触を思いだし、かああっと体が熱くなった。

「男なら事故だってわかってるものね」

 克也は俺のうろたえを気にした様子もない。あわてているのは俺だけで、あっさりことばを続けられて、俺は体中の血が沸騰するほど恥ずかしかった。

「おかしなことを言われたり、ぶっ飛ばされたり、とにかく男としては情けないばっかりでさ、どうしようかって思ってたから」

 そうか、克也がたびたび赤くなっていたのは、自分が情けないと思っていたからだったのか。

「でも、達夜は、僕が達夜のことを男だと思ってる、と思ってたんだね」

 やんわりと笑う克也の顔がほっとしたせいなのか、妙にまばゆい気がして、俺は目を伏せた。

「なんや、おもしろないこと」

 姉きが冷ややかに割って入って、俺は我に返った。

「まあ、ええわ、このさい。多少ラブラブでも」

「姉き!」

「はあ、なんや、気ぃ抜けたなあ」

 姉きはうっとうしそうに細い指先で髪をすいた。

「ちょっと待て。ほな、今日の俺と克也の呼び出しは、からかうためやったんか」

「やあ、克也、やて。いやらし」

「姉き!!」

「それだけで呼ぶわけあらへんやんか、あほ」

 姉きはわめいた俺を軽くいなして、座り直した。

 そうすると、だてに祭事方を仕切っているわけでもないらしい、それなりの威厳がにじんで、俺も克也もあわてて座り直さずにはおられなかった。

「もう、おかあはんから聞かはったやろうけど、街のあちこちの『辻封じ』が壊されてます。克也さんだけやない、この先も異界ぽんちは増えるやろうし、もっとやっかいなんは、これが誰ぞの企みやないかという疑いがあることです」

 姉きは目を細めた。さえざえとした殺気が体全体から広がる。

 十八の頃から五年間、街の異界騒動を扱ってきた苦労は白い髪の毛が示している。

 昔は姉きだって黒々と見事にきれいな髪だったのを、俺ははっきり覚えている。

 この世界にも属せず、かといって異界に染まることも許されない立場の存在でいることは、心も体も消耗させる。性格は悪くて荒くても、それでもこの街を支え守ってきた姉きに、俺の頭が上がるはずはない。

「私はここから動くわけにはいかへんし、かというて、祭事方も今は『辻封じ』の対処におおわらわ、企みを暴くころにはもう全てが終わってるということになりかねません。そやから、達夜」

 姉きが冷えた目で俺を見据えた。

「祭事方御陵所として申し付けます。この件に関して、ぶざまなことにならへんように、克也さんと働きなさい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。