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辻封じ  作者: segakiyui
6.克也蝶

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13/31

3

「せい、どどいつせい?」

「違うよ。性同一性障害。身体的には女性だけど、なんていうのかな、中身は男性なんだ。ずっと前は違和感があったけど、女の子として暮らそうと努力していてね、舞妓さんになってもいいかなって。そういうのになれば、『仕事としての女をやる』というところで納得できると思ってたみたいだよ。けれど、もうだめだなってわかったっていって、これからは男として生きる道を選ぶからって、それで最後のお別れに京都の舞妓を見に来たんだよ」

「外が女で……中が男…?」

 俺にはよくわからないが、ふいにすとんと落ちるものがあった。

「そうか、そやから、闇舞妓が見えたんか」

「僕は昔っから中身としか付き合えない人間みたいで、頼子には男しか感じたことがないんだ。向こうもそうだよ、頼子は男としてノーマルだから。で…そやから、って?」

「ああ、闇舞妓が普通の舞妓に見えてた、言うたやろ? さっきも言うたみたいに、闇舞妓は異界の男を誘い込むための形代みたいなもんやから、女には白塗りの顔しか見えへんのに、どうして頼子、には見えたんかなあと思てたんや」

「ああ、なるほど」

「そやろ? そやけど、頼子、いう人が、中身として男やったんなら、なるほどあり得るかもなあ」

(まてや。それなら、なんで、克也に闇舞妓は白塗りに見えた?)

「僕は男だよ」

 俺の考えを読んだように、克也が言った。

「たぶん、僕は『中身』に反応するからじゃないのかな」

「ああ…なるほど…」

 中身に反応するから、闇舞妓の本質が見えた。顔のない、女としての形を備えた人形の本質が。

 なるほど、こいつは本当にたいした異界ぽんちなのかもしれない。

「そんなこと……わかってもらえたと思ったんだけど」

 克也が笑みを含みながらことばをついだ。

「え?」

「さっきのことで」

「…え?」

「あんなふうに、かわいらしくすねられたり、弁解されたら……理性がもつわけないよね、男としてさ」

 くす、とまた悪戯っぽく笑われて、

「かわ…っ」

 ばふっと体が火を吹いた気がした。

「何なら、僕は何度でも、試していいけど?」

「克也っっ!!」

(あああ、どうしよう、ほんまにどうしよう)

 俺、こいつが好きになってる。

 ほんまにほんまに好きになってる。

 そやけど。

 俺は今度ははっきりと意識して体を抱えた。急激に熱が冷めていくのがわかった。

(そやけど)

 それは、ならぬ話だ。

 ましてや、今みたいに『京』が危機にさらされているときに、俺が、神女達夜が男と浮かれていられるものじゃない。

「達夜?」

 俺が急に静かになってしまったのを不審に思ったのだろう、克也は笑みを消して俺をのぞき込んだ。

「事情はわかった。どっちにせよ、一度異界に行かなあかんな」

 ことさら感情を消して応じ、俺は克也の視線から目を逸らせた。

「お前にもついてきてもらわなあかん。まあ、なんやったら、そこでお前だけ異界に戻ったままでもええかもしれへん」

「達夜?」

 克也が不安そうな顔になった。

「闇舞妓が関わっている以上、ことはそれほど簡単に進まへん。そやけど、大丈夫や、俺が関わった以上、ちゃんと頼子さんはお前の世界に戻す、それは安心してくれてええ」

「達夜」

「とりあえず、お前はもう少し家にいたらええ。俺は祭事方に『異界詣で』の申請だしてくるわ」

 立ち上がりかけた俺の手首を、克也が唐突に握った。

「達夜」

「…なんや?」

 続くことばは想像がついた。自分に経験はなくても、光津子姉きと男達のやりとりには幾度となく立ち会っている。だから、必死に冷たい顔を作って、俺を引き留めた克也を見下ろした。

「僕はさ、達夜が好きだって告白したんだけど」

「…ああ、そやな」

「達夜は?」

「俺?」

 どくん、どくん、と胸の奥で熱い音が鳴り響く。真剣な顔で見上げる克也は、さっきのどの顔とも違っていて、どこか不安そうで優しげで、ああ、この顔も好きだなんて思ってしまう自分がいて。

「俺は……お前のことを……どう思ってるか、て言うんか?」

 こくんとうなずく克也の顔に、俺は冷ややかに吐き捨てた。

「自分勝手に人を襲うやつなんて、好きになるわけ、ないやろう」

 克也がすうっと青くなるのがわかった。

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