14話:おじさんとステイ・ウィズ・ミー
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どこだ、ココは?
あっ!見覚えある。
――っつーか、ココ、聖都の中じゃねーか!!!
城門近くの大通りから1つ脇に入った小径。路地から大通りの感じを見た時点で、聖都の中って分かる。
覗くようにして城門を見れば、衛士がたむろしているのが分かる。
ありゃ~完全に、警戒中、ってヤツだよな?
大司教との遣り取りが生放送され、規制までされたくらいだ。そりゃ既に厳戒体制敷かれとるわな。
小娘女神~、転送させるならさせるで、もっと遠くに飛ばせよ!せめて、街の外に飛ばすってのが筋だろ。
大聖堂からは大分遠いからまだマシだが、街から出るってのが大変じゃねーか。
文句の一つでもいってやろうとSMSを送信したものの、未読のままじゃねーか。本当、アイツ、都合が良過ぎるんだよ。
どーすんだよ、まったく。
「パカちゃん様、路地とはいっても留まっていたら見付かってしまいます。移動しましょう」
「まぁ~、そうなんだが、ドコに行ったら良いものやら。何せ、土地勘皆無だからネ~」
「貧民街に行きましょう。大きな街、それが城塞都市だとしても、必ずそういった場所はあります」
「……なるほどぉ~。よしっ、それにしよ」
あら?この小娘、田舎者のわりに意外と小知恵働くのね。
まぁ、こっちの世界の常識っちゅーか、こっちでの一般的な知識皆無の余よりは鼻が利くか。
取り敢えず、ニャルロッテに任せて動くとするか。
「んで、貧民街に行くのはいいとして、それからどうする?追っ手を巻くにしても限界あるでしょ?」
「貧民街には非合法組織があるはずです。放送を見た連中の中に、パカちゃん様に興味を持った者がいるはずです」
「……なるほどぉ~。うむ、その線でいくか」
あら?あらら?頼もしい。
非合法組織を頼るとか、とても野盗に襲われ、神に縋っていた娘とは思えん。
いや、待てよ?
よく考えりゃ、あんな遠方の地から女一人で荒野を駆ける、っつー事自体、妙っちゃ妙だよな?
この聖都の上空だって有翼の爬虫類みたいなもんが飛んでるくらいだ、荒野を化物が闊歩している事くらい容易に想像できる。余の到来を預言されていたから、殊更に神に縋ったのか?
それに余が大司教と遣り合ってた時も臆する事なく居続けた。何とかサバットとかいう武術も知っていたし。女神転送で飛ばされた今だって、そう驚いた様子がない。
あれ?もしかして、この娘、相当タフな精神の持ち主なのか?あるいは、それなりに強い、とかなのか?
ちょっと、訊ねてみるか。
「ニャルロッテ、1つ訊ねたいんだが、汝って戦えたりってできんの?」
「戦い、ですか?いえ、できません」
「――そーですよネ~……そりゃそーだ、うんうん」
「はい、暴力を振るうことは禁じられています」
「あー、そういう教えなわけ?」
「はい。護身術程度ならできますが、それは信仰を護る時に限られます」
「ん?護身術?信仰を護る時?」
「はい、異教徒や邪教徒の魔の手から真の信仰を護る為であれば戦います」
「あ~、そうなんだ?余が大司教と戦っていた時は何故、静観を?」
「はい、すみません。大司教様は宗門の高座にある御方、パカちゃん様は大天使様。小身の身なれば、お二方の正義の有り様、見守る他ありませんでした」
「なるほど、そりゃそっかー」
「はい。でも、パカちゃん様の大正義が真実であったと示されましたから、これからはわたしがパカちゃん様を全力でお護りいたします。
聖板にも新たな天啓がありました。パカちゃん様にお仕えせよ、と」
「――あー、そりゃどうも」
あの女神、またしても手を回したのか。
きっちり仕事はこなしているみてーだが、どうにもふわっとしてんな。
余に護衛をつけるんだったら、もっとこう強そうな騎士とかをさ~、つけるべきだと思うんだが。
うら若い聖職者の護身術程度で、どうやって追っ手から逃れろってんだ!
――ん?待てよ……
「護身術……護身術はできるんだよね?」
「はい」
「そう云えば、大司教の使っていたあの何とかサバットっつ~体術、っつーか武術、アレも護身術の一種なんだよね?」
「はい、護身術です。大聖堂流ですね」
「汝もその大聖堂流っていう護身術使えるの?」
「わたしは大聖堂流は学んでいません。大聖堂流は大都市に限られ、月謝が高いんです。わたしの故郷のような田舎では学べません」
「――月謝……そうなんだ?ちなみに、汝はどんな護身術できんの?」
「はい、わたしは故郷の部族に伝わる百八流派の武芸とわたしの氏族に伝わる一子相伝の暗殺護身道のみ、です」
「!?……暗殺??護身術、だよね?」
「はい」
「暴力はダメなのに、暗殺はおkなの?」
「私利私欲に走る無闇矢鱈な暴力は絶対に駄目です。個人的な思惑による殺生は許されません。
暗殺は確かな理由があり、計画立案されるもので、上からの指示や求められる請願があって初めて成立します。社会を律する大事において求められた殺生は容認されます、神の名の下に」
「――お、おう……」
なんか――
かわいい顔して、すっげぇー怖い事をサラッと云うんですけど、この娘~。
大司教と余が遣り合ってる時も、そんな事考えながら見守ってたんかな?ちょっと背筋が寒くなるんですけど~。
まぁ、宗教にはまってるくらいなんだから、思い込みは激しいと思われるんで、あんま刺激しないようにしよう。
「取り敢えず、余の傍から離れるでないぞ!」
「はいッ!パカちゃん様ッ!!」