12話：おじさんとおっぱい
「大司教のおっさん、これを受けきれるかっ！
猛き乳よ、光と共に解放されよ＜核爆乳＞！」
ぷるんぷるるん！――
お乳周辺で巻き起こる魔力の高鳴りが光と熱を伴い、核融合爆発宛らの火力を誘発、爆音を発しながら大司教を襲う。
――が、しかし、
大司教にまでは今一歩、届かない。
奴自身が張り巡らせた＜有害魔術接触制限＞、予想以上に高性能な魔法障壁。
「無駄だ、売女め。其方の下品な呪術など、私には毛ほどの傷もつけられんぞ」
いや、まだだ。まだ、諦めんよ。
奴の術式がどの程度の防御力があるのか、試してやる。
「これならどうだッ！＜鍾乳隕石＞！」
ブルンブルン！――
胸元から激しい炎を伴い、高速で鍾乳石状のエネルギーが射出され、大司教の魔法障壁に衝突して大爆発を起こす。
轟音を響かせ、粉塵を舞き上げ、衝撃が部屋中を駆け巡る。
――しかし、
黒煙から姿を現した大司教には傷一つ付いていない。放った魔術は、完全に遮断されていた。
「無駄無駄無駄ァーーッ！私に有害魔術は効かん！」
「ッッッくぉのォーッ！ならばっ、極大魔術＜爆乳皇帝＞でブッ飛ばしてヤルッ！」
ニャルロッテが慌てた様子で制止を促し、
「パカちゃん様、R-18魔術は効きません」
「えっ！？R-18魔術？？なにソレ？」
「全年齢対象魔術でないとあの魔術規制は突破できません。特にここは大聖堂の中。魔術表現は限定されます」
「――あっ、そなの？……」
上位魔術でシールド突破、ならよく聞くが、レベル、っつか、レーティング下げなきゃ突破できんとは……規制って、きびしー！
念のため、定型魔術を確認してみる。
確かに、全年齢だのR-12、R-15、R-18だの、自主規制だの、色々ある。
ちなみに全年齢対象魔術ってのにはどんなのがあるのやら？
＜光源＞、＜死球＞、＜大声＞、＜魔法瓶＞、＜好印象＞、＜目標検知＞、＜小物短距離瞬間移動＞、＜腹話術＞、＜蚊取り線香＞、＜目覚まし時計＞、＜あっち向いてホイ＞、＜猫騙し＞、＜垂直着地＞……
――ダメだこりゃ。
こうなりゃ、物理でぶっ飛ばす！
魔術が効かないんなら、殴り倒せばいい。
あんな、訳の分からんおっさん、余裕だ！
いくぞッ！
――幻の右ストレート！
ぶおん！
大司教は余の右拳をその右手で軽く往なし、そのまま、右猿臂を鎖骨間靭帯に突き入れる。
一瞬、息ができなくなり苦痛で頭を下げると、打ち付けた猿臂をそのまま上に返し、顎を突き上げる。続け様、拳槌を下から搗ち上げ追い打ち、軽い脳震盪のような感覚に襲われる。
顎に二度ヒットされ、慌てて両手をクロスしてガードするも、大司教の体が半身になって時計回りに回転、小さく鋭い軌道で後ろ回し蹴りが右斜め頭上から振り下ろされ、右肩から鎖骨を強打される。
その勢いで後ろにバランスを崩すと、振り下ろした回し蹴りをこちらに向けたまま、膝と足首を反時計回りに捻り、軸足を大きく放り出すようにして前蹴りを繰り出し、土手っ腹に足裏を喰らう。
思わずノックバックして後方に倒れ込む。思い切り腹を蹴られ、胃液が喉元まで上がってきやがる。
――なんという体裁き！
空手？功夫？それとも、他の見知らぬ武術、いや、格闘技か？
とにかく、こいつ、素人じゃない！
喧嘩慣れしてる！
「いたたたたたっ！くぅ～、この坊主、ちょこまか動きよってからにィ～」
「気を付けてください、パカちゃん様！それは大聖堂流薩瓦特です。近付いたら危険です」
「だ、大聖堂流？？なにそれェー！！？」
「悪魔から身を守るための奇蹟の護身術《ＣＱＣ》です。近距離白兵戦は避けてください」
なんで坊主が格闘術使えるんだYo！
魔法は効かない、接近戦でも分が悪いんじゃ、お話にならないって。
あっ！――
モンク、か！？少林寺、みたいなもんか？
――どうする？
殺傷力の高い魔術は届かないし、距離を詰めたら逆にヤラれる。強化を掛けて戦うか？
そうかっ！コレ、だッ！！
背負っていた檜の棒をするりと抜き、構える。
いくらアイツが強いといっても、所詮は素手。棒切れとはいえ、武器を持ってる方が幾分マシ。
ヤツのパンチやキックが届く距離の外から、思い切りこのかったいかったい棒で殴ってやる。撲殺じゃい！
「イクYo、生臭坊主！覚悟しちゃな！」
「ほぅ、棍を使うのか。いいだろう、かかってこい」
「天誅ぅ～！…………なんてネ♪＜乳隠れ＞」
無数の巨大なお乳の幻影が出現、その乳群れの中に身を潜めつつ接敵。
大司教との間合いを詰め、飛び付くように跳ね、棒を振るう。
「……くだらん！幻の乳房と色香で惑わそうとも、その隠しきれぬ殺気と淫売特有の臭気で所在が知れる。売女の浅知恵など笑止」
檜の棒は強烈な光を発し、峻烈に輝きを放ち、
「それはどうかな？“約束された勝利の棒”！！！くらぇ～ぃ、めぇぇぇぇーーーーーん！」
「うおっ、まぶしっ！」
振り下ろされた発光する棒切れは脈動の畝りを上げ、収束したエネルギーを一気に放出。その激しい光量とは裏腹に熱気は帯びず、純然たる光束が辺りを照らす。
ぷるるんとたわわに実った巨乳に差し込んだ鮮烈な光は柔らかに反射、月明かりのような冷たい輝きが沈黙を誘う。
光の軌跡が弧を描き煌めき、礼拝堂は幻想的で神妙なヴェールに包まれる。
刹那――ドグゥッ！
鈍い音と共にパッと鮮血が舞い、どさりと床に倒れ込む。
額を割り、夥しい血を流し、泡を吹き白目を剥いて気絶する大司教。
「正義は勝つ！」
