60年分の親愛をこめて
初恋を忘れられなかった男の人の物語り
今年で65歳を迎える大吉は、どうしても初恋の幼馴染であるチヒロに会いたかった。
60で仕事を止めた大吉は年々体調が悪くなって、
行動範囲がせまくなる焦りと後悔からだった。
たしかに障害はいくつもある。
1つはチヒロの結婚式以来40年も会っていないので、チヒロの現状がまったくわからない。
2つはチヒロにも家庭があるだろうから、天涯孤独の老人が会いに行っても迷惑だろう。
なにより3つ目に、会いに行ってチヒロに拒絶されるのが恐ろしかった。
しかし、大吉には決して、決してあきらめられない、
このままでは死にきれない気持ちもあった。
やるだけのことはやってみるべきだ。
大吉は棚に仕舞っていた年賀状をごっそり取り出し、
チヒロ夫妻からの一番新しい年賀状の住所のメモをとった。
思いのほか遠方だったので、銀行の預金から交通費も調達した。
道中で体力がもつ保証もなかった大吉は、
月に一回の定期健診で医師に相談もし薬を貰った。
決意して準備に30日かけた大吉はいま、チヒロの自宅がある街の丘の上にいた。
丘を登るまでに息切れし、何度も休憩を挟み茶を飲み座り込んで、3時間かけて、
大吉はチヒロのもとまでたどり着くことが出来た。
大吉の目の前で、チヒロが眠るとされる墓標がただ静かに立っている。
3ヶ月前に、心不全で眠るように亡くなったそうだ。
出会いは5歳、疲れた大吉はその場に座ると、
初恋の相手に60年分の気持ちを語り始めた。
これくらいの気持ちを持ち続けてもらえる恋愛があってもいいかな?
…と言うだけのお話。登場人物が幸せだったかは詠む人が決めてください。