【 拒絶 】
身体が動かない。
それどころか、何もかもが静止していた。
僕も、彼女たちも、マリオネットも。
時間が止まっているかのようだった。
いや、止まっている。
でもしかし、そんな事があり得るのか?
普通ならあり得ない。
事実、僕の思考は回り続けてる。
もしかしたら、僕は走馬灯を見ているのかもしれない。
と、あれこれ考えていると、
「やぁ、間一髪だったね」
そんな言葉とともに、メイド姿の女の子が目の前に現れた。
静止した時間の中で自在に動く彼女は、流れてもいない汗を拭ってみせる。
「おっと、いま話しかけても返事は無理か...でも君なら聞き取れるよね?」
鋭い眼光は僕を捉え、撫でる。
そして、どこか嬉しそうな彼女は、可笑しさを堪えきれずに喉を鳴らす。
「ちなみにこれは時間停止じゃなくて時間延長。一秒を引き延ばしてるだけ。じゃないと君にアドバイス出来ないし」
時間停止と時間延長。
僕からしたらどっちも変わらない。
けど、彼女からしたらこれは大きな差なのだろう。
なぜ僕がこの時間延長に付いていけてるのかは分からないけど、ここは彼女の言葉に耳を傾けるしかなさそうだった。
「君はいま中々のピンチな訳だけど、ひとつ誤解している」
クルッと華麗に回転し、彼女はマリオネットの方まで歩いて行くと、コツコツとその胴体を軽く叩く。
「コイツは君よりも遥かに弱い」
____ はい?
あまりにも信じがたい発言に一瞬だけ思考が停止し、意識が遠退く。
地面をも砕くこのマリオネットが、僕よりも弱いはずがない。
闘えば必死。
「今の君なら出来るよ」
だと言うのに、彼女は僕に闘わせようとしているみたいだった。
静止した時間が戻っていくのを感じる。
駄目だ。
このままだと僕たちは殺される。
》》》》止めろ
頭の中では警告を鳴らしている。
》》》》逃げ出してしまえ
どうして助けてくれないのか。
》》》》いや助けてくれるさ
どうやっても勝てやしないんだ。
》》》》また黙って見ていればいい
黙って..."また"?
「次こそ護ってみせなさい。君には、貴方には、その資格がある」
"諦めるな"
何故だか全身がそう訴えてくる。
後悔したくないと、何も失いたくないと、細胞がそう伝えてくる。
なら仕方がない。
やるしかない。
俺が___僕が、警告を拒絶する。
研ぎ澄ませ。
頭を回せ。
彼女たち二人は絶対に護りぬく。
逸らすな。
背けるな。
捉えろ、捉えろ、捉えろ___
「さぁ、来るよ」