2/10
【 心音 】
「お嬢様、処分は如何に」
メイド服に身を包んだ少女が、無機質で感情の見えない表情でそう言った。
返り血を抱くように座り込んでいた吸血鬼は、この館のメイド長である彼女【十六夜咲夜】に指示する。
「ゴミ捨て場にでも捨て置きなさい」
「良いので?」
「...ええ」
その言葉に従い一つ頷くと、咲夜は横たわる男を肩に抱える。
吸血鬼の言うゴミ捨て場とは、この館の地下へと続く廃棄穴の事である。
そこには沢山の人間の死体が落とされており、別名『食料保管所』と呼ばれている場所だった。
咲夜は、躊躇いもなく、抱えていた男をその穴へと投げ落とす。
彼女が捨てろと言ったのだ。
だから、とりあえず捨てる。
捨てたのだが___
「さて、フラン様のところにお菓子でも持っていきますか」
思わず口角が上がる。
確かに、微かに聞こえた心音に、咲夜は笑わずにはいられなかった。
アレを喰らっといて生きているのだ。
どんな奇跡を起こしたのやら、と興味津々な表情で暗い廃棄穴を見つめる。
「急ぎますかね」