【 プロローグ 】
「人を殺めるのは、貴方が初めて」
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【サークル/社労勤SHA−LOT】
『吸血鬼の消失』
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「人のうちに死になさい。それが貴方の運命なのだから」
意識が断片的に途切れては戻る。
記憶は曖昧に、ぼやけ、霞む。
何も思い出せない。
と言うより、思い出そうと思えない。
僕は、僕を殺そうとしている彼女を視界に、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「人間にスペルとは贅沢ね」
彼女は、月明かりに照らされた白銀の髪を揺らし、口元から溢れた血を舐める。
あれは一体、誰の血だろうか。
艶やかに妖しげな瞳で、美味そうにそれを舐めきると、右手を振るう。
それと同時に現れたのは、
禍々しく、鋭く紅く、
そして美しく、
僕を殺すには有り余るほどの、
万物をも穿つであろう閃光の紅い槍。
「 スピア・ザ・グングニル 」
グシャ。と、それは胸を貫いた。
痛い。苦しい。怖い。
しかし、飛び出すであろう絶叫は未だ登っては来ず、息を小さく吸い込んでは吐くだけを繰り返す。
返り血で真っ赤に染まった彼女は、その冷酷な瞳を僕に向けると、別れを告げる。
「さようなら」
激しい破裂音と共に失せる視界。
破損箇所が溶岩のように熱いのに、急激に低下していく体温。
寒気と同時に襲い来る眠気。
消えゆく意識の中、微かに映ったのは、走馬灯のような記憶の残像。
これは一体、誰の記憶だろうか?
___貴方は、誰?
孤独を抱えた少女が、退屈そうに頬杖をついて穏やかに笑う。
___物好きもいたものね。
そう、そうだった。
最初から、生かすも殺すも彼女次第で、死ぬ事に対して疑問を抱かないのは、それがきっと僕の役目だったからなのだ。
だから、これでいい。
煙のように消えていくその記憶と共に、闇の彼方へと落ちていった。